元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サウスバウンド」

2007-10-24 06:49:06 | 映画の感想(さ行)

 森田芳光監督作品にしてはあまりにも“普通”の映画なので面食らってしまった。今までの彼の作品は良い意味でも悪い意味でも作家性が先行。出会い頭のホームランこそ数本あるが、たいていは奇を衒った大振りの変則打法で三振の山だったのが、今回のこの平凡さには驚いてしまう(例えて言えばフォアボールか ^^;)。

 それでも本作の設定は全然“普通”ではない。一家の主は元過激派で、妻はそれに心酔した元家出女。イイ年こいて定職もなく、役所や学校などに噛み付いた挙げ句、子供を引き連れて西表島に移住。しかしそこでも騒動を引き起こす。ただし、このシチュエーションの非・普通ぶりは森田監督のオフビートな演出と脚本によるものではなく、原作である奥田英朗の同名小説により構築されたものだ(私は原作は未読だが、奥田英朗の作品は「空中ブランコ」や「最悪」は読んでいるので、そのユニークさは認識している)。

 森田の“出番”といえば、たぶん主人公が文句を言う時の決め台詞“ナンセンス!”の振り方ぐらいだと思うが、要するに森田でなくてもある程度の技量を持った演出家ならば誰でも撮れるネタである。さらに言えば、映画を観るよりも原作を読んだ方が奥田英朗の世界を満喫できるだろう。

 元過激派親父を演じる豊川悦司、その妻役の天海祐希、長女役の北川景子に巡査に扮する松山ケンイチ、皆決して悪い演技ではないが、観る側の予想を一歩も出るものではない。子役は達者だけど、こちらも“手堅い演技”という範囲内に留まっている。吉田日出子や加藤治子といったベテラン陣も味は出ているのだがドラマにしっかりと絡んでこない。救いは沖縄の美しい自然の描写ぐらいか。

 主人公は全共闘世代ではなく、たぶん若い時分から浮いた存在だったのだろう。ただ、その左翼思想はとうの昔に葬られたとはいえ、その反骨精神だけは“薄甘いウヨク”が跳梁跋扈する世相にあっては新鮮なのは確か。“保守”とは名ばかりの、単に長い物に巻かれることをヨシとする風潮に異議を唱えること自体は決して間違ってはいない。破天荒な主人公の言動が次第に痛快に思えてくることこそ、奥田英朗の狙ったことなのだろうと思う。

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2 コメント

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森田監督 (kimion20002000)
2008-05-02 16:02:01
TBありがとう。

>森田の“出番”といえば、たぶん主人公が文句を言う時の決め台詞“ナンセンス!”の振り方ぐらいだと思うが

はは、それを言っちゃ、可哀想ですけど。
でも、まあ気軽に流している作品ではありますね。
僕は、文芸路線より、こっちの軽めの方が好きですけどね。
コメントありがとうございました。 (元・副会長)
2008-05-05 22:51:47
文中にも書きましたが、森田監督の映画ってほとんどハズレなんですけど、たまに当たると映画史上に残るんじゃないかと思われるほどのヴォルテージを見せつけられますな。

森田監督は助監督からの叩き上げではなく、自主映画出身であるのも関係しているのかもしれません。

私も文芸路線は好きじゃないです。「それから」なんて評価する人は多いけど、私としては“映画の作り手はちゃんと夏目漱石を読んだのだろうか”という疑問ばかりが頭の中をよぎっていたのを思い出します(笑)。

それでは、今後とも宜しくお願いします。

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