元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブラックブック」

2007-05-07 07:47:37 | 映画の感想(は行)

 (原題:Zwartboek )オランダに“凱旋”したポール・ヴァーホーヴェン監督が本領を発揮した快作。

 第二次大戦下のオランダを舞台に、何者かの裏切りによって家族をドイツ兵に殺されてしまったユダヤ女の復讐を描くサスペンス編だが、この時代を題材にする映画の多くが(程度の差はあれ)ナチスの非人道的な部分を強調し差別だの何だのを糾弾するという“ヒューマニズム路線”をポーズとして取っているのに対し、本作は見事なほどそれがない。あるのは、一人の女が遭遇する“地獄めぐり”みたいな露悪趣味満載で波瀾万丈の冒険談である。この割り切りが実にヴァーホーヴェンらしくて潔い。

 しかも、この“ヴァーホーヴェン節”が戦争の悲惨さとそれに直面した人間の弱さとをスクリーン上に鮮烈に逆照射している点が痛快だ。映画はメッセージを伝えるメディアである以前に“娯楽”である・・・・という原則を再認識できる。

 ナチスの連中は全員が徹頭徹尾“悪”ではなく、もちろんレジスタンス側が常時“善”であるはずもなく、無辜の市民がナイーヴな戦争の犠牲者であったなんてトンでもない。すべては欲得ずくと、ほんの少しの“感情的思い込み”により勝手に動くシロモノに過ぎず、ヒロインはそれら魑魅魍魎の中を喘ぎながら進むしかない。そして彼女にしたところで、独善にとらわれている小市民でしかないってことは、ラストで大きく強調される。

 上映時間は長めだが、一時とも息をつける箇所はないほど、演出のテンポは超高速。しかも、プロットは強固でほとんど破綻がない。ユーモアも万全。これこそプロの仕事であろう。

 主演のカリス・ファン・ハウテンが圧巻。オランダのトップ女優という話だが、なるほど愛嬌のあるルックスに純情さとしたたかさが絶妙にブレンドされた表情は、ただ者ではないと感じる。そして文字通りの体当たりの演技・・・・これを体当たりと言わずして何を体当たりというのかというほどの熱いパフォーマンスに、観ているこちらも興奮を禁じ得ない。とにかく、今年前半を飾るヨーロッパ映画の快作だ。見逃すと損をする。

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