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犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

「焚書説」の検証

2006-09-05 05:52:19 | 近現代史

 今日はちょっと真面目な,歴史の話。

 韓国には古い史書が残っていない。最古の史書が,三国史記(1145年)であり,それに次いで古いのが三国遺事(1280頃)。それ以前にはありません。

 古代の記録がないことが,古代史検証においても,韓国語の起源探求においても大きなネックになっています。

 韓国では,
「日帝時代の総督府による焚書で、万巻の史書が失われた」
とか,
「韓国に三国史記以前の史書がないのは、壬辰倭乱(秀吉による朝鮮出兵)のときに日本に焼かれたからだ」
などという話がまことしやかに語られています。

 韓国でもっとも権威があるといわれる韓国精神文化研究院発行の韓国民族文化大百科事典にも,

「1910年11月以後、(総督府は)憲兵を動員して全国の書店、郷校、書院をはじめ書籍を多数保管している個人宅まで捜索し、わが国の古典を略奪、うち約20万余を燃やしてしまい、一部は日本に持ち去った。」

とか、

「1910年、総督府は「古跡調査班」を作り、全国の古墳、山城、古跡を破壊し、多数の出土品を略奪して日本に持ち去った。総督府高級官吏は日本人骨董品商と結託し、憲兵の護衛下に官製盗掘団(!)を組織、多くの金冠、副葬品、仏像など美術品を略奪し、日本へ持ち去った。」

などと書かれています。
 しかし「官製盗掘団」とは百科事典の記述としてはあんまりではないでしょうか。

 かつてネット上で「焚書の事実は『総督府官報』に載っている」と書いた論者がいましたが、裏はとれませんでした。

 このあたりのことについて,日本側で最もくわしい資料は、私の知るかぎり,森田芳夫『韓国における国語・国史教育―朝鮮王朝期・日本統治期・解放後』です。
 著者,森田芳夫氏は京城帝国大学を卒業後,総督府に勤務。戦後も韓国に渡り,日本大使館に勤務して退任後は韓国の大学で日本語の教鞭をとり,文字通り,一生を韓国に捧げた人です。
『韓国における国語・国史教育』は,総督府の文化・文教政策について詳細に記録した労作(530ページ)ですが、「焚書」に関する言及はなく、むしろ

「朝鮮王朝歴代の実録をはじめ、その他の諸文献が韓国宮内府の弘文館、(…史庫列挙、略)に蔵せられていた。うち赤裳山、太白山、五台山の三史庫以外の図書は、併合前に宮内府奎章閣に集められて総督府に引き継がれた。1911年、赤裳山史庫の図書5519冊は李王家に移され、13年に五台山史庫の439冊は東京帝国大学に寄贈された。太白山、鼎足山史庫の図書は奎章閣に移された。その後、総督府は経費の許すかぎり、民間にある古書籍を購入または借入謄写を行い、1930年10月にこれらを合わせた16万5000冊余を、京城帝国大学図書館に移管した。以上の図書に関し『朝鮮図書解題』の編纂に着手し、1468種の図書解題を1915年3月に刊行した。(以下、金石文、拓本、活字、版木の収集、整理についての記述が続く)」

というふうに、日本が史書の保存に熱心であった様が叙述されています。

 森田の学問的姿勢からみて、総督府官報の「焚書」の事実を知りながら、この本に記載しなかったということは考えにくいと思います。また20万余の文書を焚書にするというような蛮行が実際にあったならば、当時大変な非難が巻き起こったはずですし、後々まで語りつがれただろうと思いますが、いままでそれほど大きくは取り上げられていなかったようです。
 だいいち、日本の学者たちが、だまっていなかったでしょう。光化門取り壊しの時の柳宗悦のように。

 可能性としては、併合に反対する反日文書の押収・焼却があり、史書を半強制的に供出させられた人、機関の関係者が、それを史書の焚書と誤認したのではないでしょうか。

 軍事政権時代に日本に亡命し,東京女子大で教鞭をとっていた池明観は、自著の中で

「高麗は、中国の儒教思想(近親結婚をタブー視する)を受け入れたあと、三国(特に新羅)で行われていた族内婚・近親結婚の事実を隠すために、古代の史書をすべて処分したのではないか」

との推測を述べています。
 朝鮮では動乱が起こるたびに決まって文書保管庫が焼き討ちを受けますが、これはたち(人口の30%を占めたといわれる)が文書(戸籍)を焼いて自由の身になるためだった、との説を別の本で読んだことがあります。


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1 コメント

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梵書 (misuk)
2006-09-08 01:27:31
初めてしりました。非常に興味深い話でした。

犬鍋さん、博識ですよねー

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