朴正煕の偉さはたんに「不正蓄財をしなかったこと」だけではないと思います。内外情勢を的確に分析する洞察力と,現実主義,そして実行力を兼ね備えた,すぐれた政治家でした。
次は朴正煕が政権を握ってまもなく書いた文章。(田中明『韓国政治を透視する』亜紀書房1992年)
「後進社会の民主主義陣営における西欧化や近代化が,事実上,急速に国民大衆の政治意識の高度化をもたらし,その国の国力では手に負えぬ程度に国民の欲求水準を一挙に高めたことも,否定できない事実である。
……しかし,上昇一途を辿る国民の期待水準を,経済的貧困のため足踏みしている後進民主国家の財政力では充足させうるものではない。このため,政府や国家の力で充足されない国民の欲求水準は,ついには社会経済面の不満を生み,これによって社会的な圧力が漸次増大されていかざるをえないのである。
その社会的現実の中で,これらの問題を解決するためには,国民大衆の同意によるべきか,あるいは強制によるべきかを判断することが切迫した問題とならざるをえない。この選択こそ深刻なものであり,おそらく今日のアジアにおける後進民主国の内政の重要な課題であり,かつ近き将来におけるアジアの政治的発展を大きく左右する鍵となるであろう。
今後のアジアの政治的発展は,経済外の条件のつかない外国援助を受けて自由民主主義の道を選ぶべきか,さもなければ国民大衆を厳重な規律下におく全体主義の道を選ぶべきかについての論争と選択にあるがゆえに,自由民主主義ははじめから至極不利な条件のもとに出発するのだということを率直に認めざるをえない。
われわれはあくまでわれわれが指向する自由民主主義を確立するために,現存アジア社会に内在する固有の反民主的な要素を認めることに,誰よりも素直であるべきだと私は思う。」
愛国心にあふれる少壮軍人の深い悩みが窺われます。
国家財政の貧困,国民の不満,民主化への欲求,社会不安……。
この状況の中で,彼は「国民の同意を得る」ことよりも「強制」を,という苦渋の選択を行った。そして「外国援助」をとりつけながら国民は「厳重な規律下」におく,という危うい綱渡りをしつつ,鉄の意志をもって「開発独裁」を推進し,「漢江の奇跡」を達成,国民の生活水準を飛躍的に高めたわけです。
この実績を前に,帝国陸軍将校出身という前歴をもって,朴正煕を全否定するのはナンセンスだと思います。
要するに「民主主義は金がかかる」ということでしょう。
1960年当時の韓国には,民主主義のコストを負担する経済的・時間的余裕がなかった。
ああでもない,こうでもないと「民主的に」延々と議論をして国会が空転し,国政がストップすれば,国家経済に甚大な損失をもたらす。ましてや韓民族は,朝鮮時代以来,妥協なき自己主張,際限なき抽象論争,泥沼の派閥抗争の伝統をもつ。
たぶん,朴正煕は「民主勢力」に経済運営を任せられないことを直観的に知っていたのだと思います。民主化闘士が経済運営にいかに無能であるかは,国家経済を破綻させた金泳三が実証しています。
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朴大統領というと、あんまり良いイメージが無かったのですが、韓国の近代史を勉強しているうちに、幾つかの問題点はあったものの強力なリーダーシップで韓国に近代化をもたらした優れた指導者だったということがわかってきました。
韓国の歴代大統領の中で、今でも一番人気があるのは朴大統領だということを知った時は、少し驚きましたね。
日本のマスコミは、昔から朴大統領というと、「独裁者」「軍事政権」という言葉で片付けてしまうことが非常に多いので、私も「きっと韓国人に嫌われまくっているんだろうな・・」と思いこんでいました。
70年代に大学生だったインテリ。
でも当時の大学進学率は20%ぐらいだから,人口比からみれば一部でしょう。
タクシーの運転手さん(低学歴)たちは,みな圧倒的に朴支持ですね。
今でもソウル大や延世大にはそういう人が結構いると聞きました。
隣国かつ同じ民族ゆえに、現実を直視できないという面もあると思います。
90年代になっても幻想を抱いていた韓国の学生は,単なる世間知らずでしょう。
(今はさすがにいないのでは?)