変わった食べ物を食べるとき,私には座右の銘ともいうべき心得があります。
「食い物の評価は三度食ってからしろ」
食わず嫌いはもってのほか。食べたとしても,一回や二回ではその食べ物の真価がわからないかもしれない。
特に,ある国で珍味とされ,長く愛されている伝統料理のような場合はなおさらです。まずい,口が曲がる,とてもじゃないけど食えない,と思っても,その国で,それほど多くの人がこれをおいしいと感じて食べているんだったら,やっぱりそれなりの「何か」があるんじゃないか。自分にはその「何か」がまだわかっていないんじゃないか。あと一,二回食べてみれば,この食べ物に隠された価値がわかるのではないか。その国のみなさんと「至福の境地」を共有できるんではあるまいか。
私はこの心得にしたがって,ブルーチーズを制圧し,ポンテギを克服し,犬鍋にいたっては愛するまでになりました。
そして,最後の牙城がホンオフェ。
エイの刺身の腐ったやつ(というか発酵したやつ)。10年の韓国生活で,いまもって「おいしい」と感じることのできない難敵です。
全羅道のご主人の焼肉屋での出会いから,2年。
捲土重来を期して乗り込んだのが忠武路のホンオ・サムハプ専門店。
この前のところは,専門店じゃなかったからね。
やっぱり,食べ物は専門店に行かなくちゃ。
忠武公(李舜臣将軍)の名を冠した大路から少し入ったところに,知る人ぞ知るホンオの名店がありました。名店というにはあまりに謙虚,街の小さな食堂,いやむしろあばら家といってもいい。
概して旨い店の外観とはこんなもの。
期待はいやましに高まりました。
さて,ホンオとは何者か。ざっと見てみましょう。
ホンオ,漢字で洪魚と書きます。カオリという別名もあります。ホンオとカオリはどう違うのか。韓国人に聞いても答えはさまざまです。韓国人の常として,外国人に何かを聞かれたら「わからない」というのは自尊心が許さない。というより,相手に対して不親切である。よくわからなくても自信をもって断言してあげるのが親切である,という迷惑な考え方があるので,聞く人聞く人,みな自信をもって答えてくれます。
「ホンオとカオリは種類が違う」という人もいれば,
「ホンオの小さいやつがカオリ」という人もいる。
「カオリを発酵させたのがホンオ」と料理法とからめる人もいる。
ある全羅道人に「ホンオを食べたらまずかった」と話したら,「そりゃ,カオリを食ったんだろう。ホンオとカオリは別物さ。ホンオのおいしいことといったら…」と,カオリをまがいものふうに貶める。
で,百科事典を調べてみると,カオリとホンオは基本的に同じ物で,ただカオリは科の名前になっていて指す範囲が大きいだけ。オオカミがイヌ科の動物であるようなものなのかな。料理名としてはホンオのほうが一般的のようです。
いずれにしろ,ホンオ/カオリはナメ(南海=韓半島の南の海)でよくとれる魚で,その縁側の部分を発酵させて刺身で食べるホンオフェは、全羅道の名物料理になっています。
ただし、韓国人のみながみなこれをおいしく食べているというわけではない。私の周囲の韓国人は顔をしかめる人が多い。このあたりも日本の悪臭食品、納豆、クサヤなどと似ているかもしれません。
ホンオ・サムハプ(洪魚三合)とはホンオフェの食べ方の一つ。
三つの食べ物をいっしょに食べることで,その三つが何者であるかは,読み進めればわかります。
さて,ホンオの名店に乗り込んだ決死隊のメンバーは,私以外にソウル駐在員(男性)が一人,猫舌の出張者が一人(男性),それに韓国食は好きだがゲテモノはだめという出張者(女性)が一人。女性は名前を「かおり」といい,生まれたときからこの料理を食べることを運命づけられていたかのようです。
なお,関係ありませんが,タイ語で韓国のことを「カオリー」といいます。まさに韓国を代表する悪臭料理です。
なんでも,ホンオフェは世界の悪臭料理選手権の常連として,日本のグルメ番組でも取り上げられ,見事,悪臭世界一の栄冠を勝ち取ったことがあるらしい。
店に踏み込んだ瞬間,鼻が曲がることを覚悟していましたが,意外にもそれほどでもない。こころなしか,ほのかなおしっこの臭いがする程度。
酒は,マッコルリ(どぶろく)か焼酎。ビールは合わないと言われましたが,日本人はなにはさておきとりあえずビールなので,ビール二本とチャミスルを頼みました。
さて,ホンオ・サムハプの中皿を注文すると,あっけなくもすぐに出てくる。何せ,専門店ですから,メニューはそれしかない。早いのも当然です。
皿は三つ。問題のホンオの発酵した刺身は春菊の上に盛られて出てきました。
それに煮豚(ポッサムキムチで出てくるようなやつ)。
そして古漬けキムチ(瓶の中で一年以上過ごし,とろけそうになっているやつ)。
三合(サムハプ)の正体はこれだったのです。
とりあえず,満員の店内で,ほかの韓国人がどうやって食べるかを観察する。
ホンオと豚肉を重ねる(豚肉にアミの塩辛をつける場合もあり)。そこに古漬けキムチも重ねる。さらには生の春菊の葉を重ね,最後に生ニンニクで味噌をかきとって乗せ,大口でかぶりつく。
間髪入れず,マッコルリを流し込み,「カーッ」と感極まったような声を出す。
私もそのとおりやってみました。ホンオを噛んだときの強烈なアンモニア臭。それをまぎらわすような豚の肉汁と古漬けキムチの酸味,それに春菊の強い香りに生ニンニクの痛みに似た刺激。
カーッ,たまらん(さっきの韓国人とは別の意味で)。
連れの人々も,この店に来たからにはと覚悟を決めて口に運んでいましたが,一様にその強烈な臭気に苦しんでいました。ここに日本が誇るクサヤをもってくれば,ファジャンシルの完成!
でもね,ホンオがほんとにおいしいのなら,ただそれだけを食べればいいのにね。煮豚,古漬けキムチ,春菊,ニンニク…こういう存在感の大きい食材を持ち出してきていっしょに食べるってことは,韓国人にとっても臭いんだよ。
臭くて臭くてたまらないんだよ。
なら,食べなきゃいーだろ!!
いやいや,短気を起こしてはいけない。
「食い物の評価は三度食ってからしろ」
そうです。もう少し我慢しなければ。
結局,私と猫舌氏が目をつぶり,鼻をつまみ,息をとめ,我慢に我慢を重ねて嚥下したホンオが5切れずつ。もう一人の駐在員とカオリさんは一切れで退散。皿には半分以上残したまま,尾羽打ち枯らしてその名店を後にしたのでした。
あれから二年、捲土重来(またか)、雌伏の秋。私は最後の難敵に打ち勝つ機会を虎視眈々と狙っているのですが,幸か不幸か,いっしょに戦ってくれる相手を見いだせずに二年経ってしまいました。
今度こそ「三度目の正直」です。
間違いなくホンオのおいしさに目覚めることができるでしょう。(でも,日本語には「二度あることは三度ある」「仏の顔も三度」って言葉もあるんだよなあ)
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9/20ホンオフェ~究極の悪臭料理
「食い物の評価は三度食ってからしろ」
食わず嫌いはもってのほか。食べたとしても,一回や二回ではその食べ物の真価がわからないかもしれない。
特に,ある国で珍味とされ,長く愛されている伝統料理のような場合はなおさらです。まずい,口が曲がる,とてもじゃないけど食えない,と思っても,その国で,それほど多くの人がこれをおいしいと感じて食べているんだったら,やっぱりそれなりの「何か」があるんじゃないか。自分にはその「何か」がまだわかっていないんじゃないか。あと一,二回食べてみれば,この食べ物に隠された価値がわかるのではないか。その国のみなさんと「至福の境地」を共有できるんではあるまいか。
私はこの心得にしたがって,ブルーチーズを制圧し,ポンテギを克服し,犬鍋にいたっては愛するまでになりました。
そして,最後の牙城がホンオフェ。
エイの刺身の腐ったやつ(というか発酵したやつ)。10年の韓国生活で,いまもって「おいしい」と感じることのできない難敵です。
全羅道のご主人の焼肉屋での出会いから,2年。
捲土重来を期して乗り込んだのが忠武路のホンオ・サムハプ専門店。
この前のところは,専門店じゃなかったからね。
やっぱり,食べ物は専門店に行かなくちゃ。
忠武公(李舜臣将軍)の名を冠した大路から少し入ったところに,知る人ぞ知るホンオの名店がありました。名店というにはあまりに謙虚,街の小さな食堂,いやむしろあばら家といってもいい。
概して旨い店の外観とはこんなもの。
期待はいやましに高まりました。
さて,ホンオとは何者か。ざっと見てみましょう。
ホンオ,漢字で洪魚と書きます。カオリという別名もあります。ホンオとカオリはどう違うのか。韓国人に聞いても答えはさまざまです。韓国人の常として,外国人に何かを聞かれたら「わからない」というのは自尊心が許さない。というより,相手に対して不親切である。よくわからなくても自信をもって断言してあげるのが親切である,という迷惑な考え方があるので,聞く人聞く人,みな自信をもって答えてくれます。
「ホンオとカオリは種類が違う」という人もいれば,
「ホンオの小さいやつがカオリ」という人もいる。
「カオリを発酵させたのがホンオ」と料理法とからめる人もいる。
ある全羅道人に「ホンオを食べたらまずかった」と話したら,「そりゃ,カオリを食ったんだろう。ホンオとカオリは別物さ。ホンオのおいしいことといったら…」と,カオリをまがいものふうに貶める。
で,百科事典を調べてみると,カオリとホンオは基本的に同じ物で,ただカオリは科の名前になっていて指す範囲が大きいだけ。オオカミがイヌ科の動物であるようなものなのかな。料理名としてはホンオのほうが一般的のようです。
いずれにしろ,ホンオ/カオリはナメ(南海=韓半島の南の海)でよくとれる魚で,その縁側の部分を発酵させて刺身で食べるホンオフェは、全羅道の名物料理になっています。
ただし、韓国人のみながみなこれをおいしく食べているというわけではない。私の周囲の韓国人は顔をしかめる人が多い。このあたりも日本の悪臭食品、納豆、クサヤなどと似ているかもしれません。
ホンオ・サムハプ(洪魚三合)とはホンオフェの食べ方の一つ。
三つの食べ物をいっしょに食べることで,その三つが何者であるかは,読み進めればわかります。
さて,ホンオの名店に乗り込んだ決死隊のメンバーは,私以外にソウル駐在員(男性)が一人,猫舌の出張者が一人(男性),それに韓国食は好きだがゲテモノはだめという出張者(女性)が一人。女性は名前を「かおり」といい,生まれたときからこの料理を食べることを運命づけられていたかのようです。
なお,関係ありませんが,タイ語で韓国のことを「カオリー」といいます。まさに韓国を代表する悪臭料理です。
なんでも,ホンオフェは世界の悪臭料理選手権の常連として,日本のグルメ番組でも取り上げられ,見事,悪臭世界一の栄冠を勝ち取ったことがあるらしい。
店に踏み込んだ瞬間,鼻が曲がることを覚悟していましたが,意外にもそれほどでもない。こころなしか,ほのかなおしっこの臭いがする程度。
酒は,マッコルリ(どぶろく)か焼酎。ビールは合わないと言われましたが,日本人はなにはさておきとりあえずビールなので,ビール二本とチャミスルを頼みました。
さて,ホンオ・サムハプの中皿を注文すると,あっけなくもすぐに出てくる。何せ,専門店ですから,メニューはそれしかない。早いのも当然です。
皿は三つ。問題のホンオの発酵した刺身は春菊の上に盛られて出てきました。
それに煮豚(ポッサムキムチで出てくるようなやつ)。
そして古漬けキムチ(瓶の中で一年以上過ごし,とろけそうになっているやつ)。
三合(サムハプ)の正体はこれだったのです。
とりあえず,満員の店内で,ほかの韓国人がどうやって食べるかを観察する。
ホンオと豚肉を重ねる(豚肉にアミの塩辛をつける場合もあり)。そこに古漬けキムチも重ねる。さらには生の春菊の葉を重ね,最後に生ニンニクで味噌をかきとって乗せ,大口でかぶりつく。
間髪入れず,マッコルリを流し込み,「カーッ」と感極まったような声を出す。
私もそのとおりやってみました。ホンオを噛んだときの強烈なアンモニア臭。それをまぎらわすような豚の肉汁と古漬けキムチの酸味,それに春菊の強い香りに生ニンニクの痛みに似た刺激。
カーッ,たまらん(さっきの韓国人とは別の意味で)。
連れの人々も,この店に来たからにはと覚悟を決めて口に運んでいましたが,一様にその強烈な臭気に苦しんでいました。ここに日本が誇るクサヤをもってくれば,ファジャンシルの完成!
でもね,ホンオがほんとにおいしいのなら,ただそれだけを食べればいいのにね。煮豚,古漬けキムチ,春菊,ニンニク…こういう存在感の大きい食材を持ち出してきていっしょに食べるってことは,韓国人にとっても臭いんだよ。
臭くて臭くてたまらないんだよ。
なら,食べなきゃいーだろ!!
いやいや,短気を起こしてはいけない。
「食い物の評価は三度食ってからしろ」
そうです。もう少し我慢しなければ。
結局,私と猫舌氏が目をつぶり,鼻をつまみ,息をとめ,我慢に我慢を重ねて嚥下したホンオが5切れずつ。もう一人の駐在員とカオリさんは一切れで退散。皿には半分以上残したまま,尾羽打ち枯らしてその名店を後にしたのでした。
あれから二年、捲土重来(またか)、雌伏の秋。私は最後の難敵に打ち勝つ機会を虎視眈々と狙っているのですが,幸か不幸か,いっしょに戦ってくれる相手を見いだせずに二年経ってしまいました。
今度こそ「三度目の正直」です。
間違いなくホンオのおいしさに目覚めることができるでしょう。(でも,日本語には「二度あることは三度ある」「仏の顔も三度」って言葉もあるんだよなあ)
〈関連記事〉
9/20ホンオフェ~究極の悪臭料理
http://kankoku-060105.tripod.com/syokufunbunka/hongtak/hongtak01.html
でもこれは食べる気が...
読んでいて、思わず吹き出してしまいました。
韓国人にとっても臭いんですね。
僕はスンデすら挑戦しませんでしたし、きっとホンオフェは無理でしょう。
ところで、味はどうだったんでしょう?
においに気を取られて、味はわかりませんでしたか?
豚肉にアミの塩辛(塩漬け?)を乗せるやつ、こないだ食べました。
いえ、だから何だってことはないんですが、あの料理は特別な名前はあるんでしょうか?
衛生上、かなりよくないと思いますが。。。
だって、寄生虫だってあるだろうし・・・
人の糞を肥料に使うなんて、生易しいもんなんですね。
韓国恐るべし。
もし、食べる機会があっても、多分食べられないと思います。
ご紹介の内容について、韓国のサイトで裏をとろうとしましたが、とれませんでした。逆に、2CHの同様の内容を翻訳紹介したページがあって、日本でこんな滅茶苦茶なことを言ってるというようなことが書いてありました。
http://newsbbs.dreamwiz.com/BIN/nbbs.cgi?cmd=v&board=2&num=355&form=gesomoon
件のページは韓国を貶めるための創作のようです。
皮なしで,ゆでた感じで,隣にキムチの山盛りがあったら,たぶんポッサムキムチ(包みキムチ)です。
どちらも美味です。
空腹にホンオをソジュで流し込み・・・記憶では3回は試みたはず。一噛み目は「アレ?大丈夫かも?!」と。イヤイヤとんでもない!口いっぱいに夏場の駅トイレです!!!参りました。
その後、場所を変えて空腹を満たすために、ラーメン屋さんへ!しかし、生ラーメン屋さんは閉まっていて、となりの韓国ラーメン屋さんへ。そう、辛ラーメンを食べました。
3軒目でビールを飲み・・・もう胃の中は大変なことになっています。
ホテルへ戻りトイレへ直行でした・・・私は1度こっきりで十分です。
下記の辞書にも正しいとは限らないという説明付きで同様の解説がありました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%AF
http://www.hongdori.co.kr/bbs/zboard.php?id=bbs07&no=657
2chの人士は堆肥→肥料→人糞と誤解または曲解したのかもしれません。堆肥はおそらく藁束のようなもの。人糞ということはないでしょう。
>カオリさん
あの時、そんなに大変なことになってたんでしたっけ。
聞いたけど忘れたのかな。なにしろ他人の不幸だから(笑
いつかまた韓国で食探検しましょう。ゲテモノ以外で。
複数の方からこのブログを紹介されました。
すばらしいブログですね。
そのうちの1人、Kさんとは先々週くらいですか、オリを食べに行かれたとお聞きしました。
ホンオフェ、好物です。(^^
今度機会があればぜひご一緒させてください。
(ただソウルではおいしい店は少ないですが・・・やはり全羅道へ行かないと・・・)
ホンオフェ、帰国までに是非征服したい(おいしいと感じられるようになりたい)料理です。
全羅道はおおごとなので、ぜひソウルでおいしい店をご紹介いただけませんか?