犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

創氏改名④~梶山季之『族譜』

2008-10-23 00:01:55 | 近現代史
 ところで,創氏改名を扱った小説に,梶山季之『族譜』があります。映画化され,私もずいぶん前にテレビで放映されたものを見た記憶があります(が細部は覚えていません)。

 これは,水野著『創氏改名』でもとりあげられています。

 梶山は朝鮮生まれ,15歳まで朝鮮で暮らしていますが,創氏改名が実施された1940年はまだ10歳。1952年に発表されたこの作品は,実際に経験したことというより,後に入手した資料をもとに書いたようです。
 直接的な資料は1950年『文藝春秋』12月号で紹介されていた事件。しかし,小説で描かれているのは史実と異なるところが多い。

 届け出期限は40年8月だったのに,「41年3月まで」とされ,日本人の役人が「100%達成の指示を受けていた」ことになっているけれど,これはありえない。「創氏改名に抵抗して多くの朝鮮人が姓をそのままにして名だけを改めた」も違う。実際には,80%の人が「創氏」を行い,改名は少なかった。
 最大の誤りは「創氏改名によって族譜が書き換えられる,族譜がなくなる」としている点。「創氏」と族譜は無関係です。梶山氏は,「創氏」を「改姓」と誤解していたようですね。
 小説では,「創氏改名によって命よりも大事な族譜が失われるので,それに抗議して自殺した」ということになっていますが,元になった事件は,「一族が協議して氏を「玉川」にすることに決めたのに,それに反対した「頑固一徹」の儒学者が自殺した」(警察調書による)というもの。

 これだけおかしいところがあるのに,水野氏は

「「族譜」は,総督府が「創氏は自由」と言いながら,実際には強制していたことを描き出している点で,すぐれた作品と評価してよい」

と,評価しちゃうのだから不思議です。

 創氏改名の研究家金英達によれば,

「「ソル・ジニョンの悲劇」(創氏しなければ学校の進級をとめると教員に脅され子どものために創氏し,翌日井戸に飛び込んで自殺した)は実話とされているけれども,創氏によって従来の姓には何の影響もなく,したがって族譜が途切れるということはない。どこかピントのずれた話である。また,その話を題材に取った梶山季之の小説『族譜』は,筋立てがまったく創氏改名の史実とかけはなれており,つじつまの合わない誤解と独り合点のオンパレードである」(宮田,金,梁『創氏改名』明石書店)

と,こちらは手厳しい。

 この問題のある作品が,今年新たに舞台上演され,各地で巡回公演されたというから困ったものです。(→リンク

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