弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

査定不服審判請求期間の変更と期限管理

2009-02-25 21:44:18 | 知的財産権
特許事務所では、特許庁に係属しているすべての案件について、厳密に期限管理を行うことが重要な業務となっています。
①出願から3年以内に審査請求の要否を決め、必要なものは期限内に審査請求を行う。
②拒絶理由通知の発送日から60日以内に意見書・補正書を提出する。
③特許査定送達日から30日以内に1-3年分の年金を納付する。
④拒絶査定送達日から30日以内に、必要なら拒絶査定不服審判を請求する。
⑤4年以降の各年の年金を、期限内に納付する。

この期限管理について、特許事務所毎に定めたソフトにより、あるいは台帳により、管理を行っているはずです。

私は、出来合いのアプリケーションソフトを使わず、マイクロソフト・エクセルで期限管理を行っています。勤務弁理士の頃からこのスタイルをとり、便利なので今でも続けています。
高価なコンピュータソフトによる期限管理を行ったとしても、例えば出願日や拒絶理由通知発送日の日付入力を間違えたら、正しい期限管理はできません。これが一番恐ろしいです。そこで私は、別々の2台のパソコンそれぞれにエクセルファイルを作成し、別々に入力を行っています。1年に1回、両方のファイルをプリントアウトし、入力間違いがないか、突合せを行っています。

エクセルファイルでの期限管理について説明しましょう。エクセルのセルをA1、A2、C12といったように表現します。
例えばある出願について、出願日がR2、審査請求日がS2、拒絶理由通知発送日がT2、査定送達日がU2に入力され、あるいは入力される予定となっています。
拒絶理由通知応答期限日については、別の例えばE2セルに関数を記述し、
=T2+60
としておきます。
査定に対する対応期限日は、例えばF2セルに
=U2+30
と記述しておけばいいです。
審査請求期限はやっかいです。出願日から3年目の同じ日を指定します。エクセルの関数を用い、
=DATE(YEAR(R2)+3,MONTH(R2),DAY(R2))
という関数形式としています。
ここで、DATE(a,b,c)とは、a年、b月、c日を意味する日付シリアル値を返す関数です。また、YEAR(d)とは、日付シリアル値dの西暦年を返す関数、MONTH(d)とは日付シリアル値dの「月」を返す関数、という意味です。
上記関数形とすることで、R2の3年後の同じ月日の日付シリアル値を得ることができます。

ところで、この4月から、特許の拒絶査定不服審判の請求期限が変更になります。今は、拒絶査定送達日から30日以内ですが、4月1日以降に拒絶査定が送達された案件については、拒絶査定送達日から3月以内となります。
この「3月以内」というのが、エクセルの関数を使う身としてはやっかいです。90日以内であれば、
=U2+90
で決まりだったのに・・・。

査定送達日が各月の1~28日であれば、3月後の同じ日が期限になります。ところが、査定送達日が月末だと、複雑な計算となります。
特許法3条の「期間の計算」において、「期間の初日は、算入しない」「期間を定めるのに月又は年をもってしたときは・・・その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する」「最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する」と規定されています。

査定送達日が4月30日の場合、期限は7月31日となります。7月30日ではありません。
また、査定送達日が1月30日だった場合、その翌日は1月31日、3ヶ月後の応当する日は4月31日です。応当する日が存在しません。その場合は特許法の規定により、期限は4月30日となります。エクセルはこれをきちんと計算してくれるでしょうか。

さて、どうしたらいいだろうか。

いろいろ考えた末、以下のようなロジックが好都合なようです。
「査定送達日の1日後 → その日の3ヶ月後の同じ日 → その日の1日前」
例えば、査定送達日が1月31日だったら、その1日後は2月1日、その3ヶ月後の同じ日は5月1日、その1日前は4月30日、ということで、無事に正しい期限日を見いだすことができました。
また、査定送達日が4月30日であるときも、期限としてきちんと7月31日が出力されます。

さらに、査定送達日が1月30日だった場合、実はエクセルの上記DATE関数では、「4月31日」と入力すると、5月1日と出力してくれるのです。そしてその日付から1日を引くので、結果として正しい4月30日という結果を得ることができました。

ただし、査定送達日が11月29日の場合はうまくいきません。送達日の1日後は11月30日、その3ヶ月後の同じ日は2月30日です。うるう年でない場合、エクセルのDATE関数に2月30日と入力すると、3月2日と出力されます。その日付から1日を引くと、3月1日となってしまい、正しい「2月28日」よりも1日長くなってしまいます。

これには困りました。スマートな解決方法は見つかりません。
やむを得ず、「査定送達日が11月29日だったら、最後に1日を引くのではなく、2日を引く」というロジックで突破することとしました。
結局、できあがった関数は以下の通りです。査定送達日がセルU2に入力されています。
=DATE(YEAR(U2+1),MONTH(U2+1)+3,DAY(U2+1))-IF(MONTH(U2)=11,IF(DAY(U2)=29,2,1),1)

その2月がうるう年だったときのみは、期限の1日前の日付になりますが、これはよしとしましょう。

ところで今気づいたのですが、審査請求期限の計算において、出願日が2月29日だったら、審査請求期限が3年後の正しくは2月28日なのに、エクセルでは3月1日と算出されてしまうのですね。これは気をつけねば。
「出願日の1日後 → その日の3年後の同じ日 → その日の1日前」
のロジックに変更すればいいのかな?

ps 2/26 通りすがりさんがすばらしい解決策を教えてくださいました。この発言のコメントをご覧ください。
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6 コメント

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Unknown (通りすがり)
2009-02-26 18:01:09
こんなのではどうでしょうか(分析ツールアドイン要)
=IF(U2=EOMONTH(U2,0),EOMONTH(U2,3),EDATE(U2,3))
エクセルの関数 (ボンゴレ)
2009-02-26 22:53:31
通りすがりさん、コメントありがとうございます。

EOMONTH関数もEDATE関数も知らなかったので、さっそくネットで調べました。エクセルのアドインで分析ツールをインストールする必要があるということで、さっそくインストールし、使ってみました。

通りすがりさんが提示されたエレガントな関数で、完璧でした。うるう年の処理を含め、すべて完全です。

特許の期限管理のためのエクセルの関数をどうするか、などというマイナーな話題を敢えて提出したのは、今回の通りすがりさんのようなすばらしい応当がいただけるのではないか、という希望を込めていたのですが、その願望がこんなにも早く叶えられるとは。
どうもありがとうございました。

エクセルの関数も奥が深いことを認識しました。というか、私がものを知らないだけだったのですが。
期間計算はよく分かりません (寝たろう)
2009-02-27 11:46:34
初めまして。いつも拝見してます。
4/30に拒絶査定が送達されたら、期限は7/31とのことですが、少し疑問に感じましたので、コメントします。
3条1項2号の私の勝手な解釈ですが、4/30に送達された場合は、5/1(月の始め)から起算しますので、3条1項2号の中ほどの「月又は年の始めから期間を起算しないときは、・・・」には該当せずに、3条1項2号の冒頭の「暦に従う」が適用されるのではないでしょうか?
つまり、4/30に送達の場合は、暦に従って、7/30になるように思いますが、いかがでしょうか?
私の方が勘違いかも知れませんが念のため。よろしくお願い致します。
期間計算 (ボンゴレ)
2009-02-28 00:04:46
寝たろうさん、問題提起していただいてありがとうございます。
実は私も、期間計算には自信がないのです。今回ブログアップした目的の一つに、期間計算が誤っていたら指摘していただきたい、というのがあったのです。

一応考え方としては、4/30に送達された場合、起算日は翌日の5/1であり(特3条1項1号)、暦に従ったその期間は、最後の月においてその起算日に応当する日(8/1)の前日(7/31)に満了する(3条1項2号)、としました。

この考え方で正しいかどうか、受験生時代に使った多枝サブノートや青本をひっくり返しましたが、確認にたる記述は見つかりませんでした。

もし現役受験生の方が見ておられたら、ぜひコメントを頂きたいです。
査定不服審判請求期間の「3月」は今年の受験範囲ですし、従来法においても、商標異議申立期間の「2月」の考え方がまさに該当すると思われます。商標掲載公報が6月30日に発行されたとき、異議申立期間の末日は8月31日か8月30日か、という問題ですね。
私の勘違いでしょう (寝たろう)
2009-02-28 00:05:38
上にコメントしたことですが、よく考えると、4/30に送達されて起算日が5/1の場合は、「月の始めから期間を計算するとき」だから「暦に従う」ので、3ヶ月後は7/31になるのでしょうね。だから、7/30ではなく、7/31でよいと思います。私が間違っていたと思います、多分・・お騒がせしました。
期間計算 (寝たろう)
2009-02-28 00:25:31
何度もすみません。
私は3条2項について、こういう解釈なのですが、どうでしょうか?

(A)月の始めから期間を計算しないとき(例えば、4/29に送達で、4/30から起算するとき)は、「その起算日(4/30)に応答する日(7/30)の前日(7/29)」に満了する(3条2項の第2文)

(B)月の始めから期間を計算するとき(例えば、4/30に送達で、5/1から起算するとき)は、その起算日(5/1)から「暦に従って」3ヶ月が過ぎるときは7/31だから、7/31に満了する。つまり、この場合は、「応答日の前日」だから、ではなく、「暦に従う」から、7/31となると考えます。

ただ、「応答日の前日」でも、「暦に従う」でも、結局、同じ結果になりそうですねえ。結果が違う場合はあるのでしょうか。

私の勘違いで間違っているかもしれません。

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