弁理士の日々

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プロダクト・バイ・プロセス・クレームと特許発明の技術的範囲

2012-04-10 19:30:23 | 知的財産権
「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の解釈について判断した知財高裁大合議判決については、「知財高裁大合議判決「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の解釈」で速報を紹介すると共に、「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの記載要件」をアップしました。

さて、今回の知財高裁大合議判決は、従来の学説・判例とどのような連続性を有しているのでしょうか。
従来の学説・判例については、前回も紹介したパテント誌(パテント2011 Vol.64 No.15)の「プロダクト・バイ・プロセス・クレームについての考察」と、中山編第3版注解特許法〈上巻〉第1条‐第112条の3を参照しました。

今回の大合議判決に記述された下記2つの判断基準をそれぞれ、パテント誌にならって《結果物特定説》、《過程限定説》と呼ぶことにします。
『特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶ』 → 《結果物特定説》
『特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定される』 → 《過程限定説》

パテント誌と中山注解に紹介されていた判例を、《特許発明の技術的範囲》と《発明の要旨》のそれぞれに分けてリストアップすると以下のようになります。ここでは、それぞれ対象出願の出願年と、判決がどの説を採用したかを記載しました。

ここで、結果物特定説と過程限定説とを、場合によって使い分ける説を《併用説》と名付けました。どのように場合分けるかというと、『「真正PbPC」なら「結果物特定説」、「非真正PbPC」なら「過程限定説」』というようにです。

《侵害判断における特許発明の技術的範囲》
東京高判平9・7・17(インターフェロン事件)昭和58出願 → 結果物特定説
東京地判平10・9・11(ポリエチレン延伸フィラメント事件)昭和55出願 → 結果物特定説
最高裁平10・11・10 → 結果物特定説
東京地判平11・9・30(エリスロポエチン事件)昭和58出願 → 結果物特定説
知財高判平19・4・25(多層生理用品事件)平成8出願併用説
知財高大合議平24・1・27(プラバスタチンナトリウム事件)平成12優先日併用説

《特許性判断における発明の要旨認定》
東京高判平9・10・28(化粧料封入袋事件) → 結果物特定説
東京高判平9・2・13(転写印刷シート事件)昭和59出願 → 結果物特定説
東京高判平14・6・11(光ディスク用ポリカーボネート成形材料事件)昭和62出願 → 結果物特定説
知財高判平19・9・20(ホログラフィック・グレーティング事件)平成12出願 → 結果物特定説
知財高判平18・12・7(スピーカー用振動板の製造方法事件)平成13出願 → 結果物特定説
知財高大合議平24・1・27(プラバスタチンナトリウム事件)平成12優先日併用説


以上を並べてみると、《特許発明の技術的範囲》の判断については一貫性が見られます。即ち、平成6年改正前の特許法が適用される出願については《結果物特定説》が適用され、同改正後の特許法が適用される出願については《併用説》が適用されていると言うことです。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの記載要件」に書いたように、平成6年改正前の特許法では、物の発明についての請求項に製造方法の記載が許されるのは、「真正PbPC」(物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき)に限定されると考えられていました。ですから、平成6年改正前出願の特許発明については、もし特許が認められるとしたら「真正PbPC」であるはずだから、特許発明の技術的範囲を認定するに際しても当然ながら「結果物特定説」に従うべきということで、今回の大合議判決と矛盾しません。
それに対して平成6年改正後の出願については、「真正PbPC」のみならず「不真正PbPC」(物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき)であっても、物の発明についての請求項に製造方法の記載が許されるようになったと考えられます。
従って、平成6年改正後の出願については、「真正PbPC」か「不真正PbPC」かを判断し、その判断結果によって技術的範囲の解釈を変える必要が生じた、というわけです。

なお、今回の知財高裁大合議判決以外で「併用説」を採用している唯一の判決が、上記知財高判平19・4・25(多層生理用品事件)平成8出願です。この判決の裁判長は飯村敏明裁判長です。飯村裁判長がまず「多層生理用品事件」で「併用説」に先鞭をつけ、その後、今回の大合議判決で5人の裁判官の少なくとも多数決を制し、「併用説」採用に至った、ということでしょうか。飯村裁判長は、この4月から知財高裁所長に就任しました。今後の知財高裁の動きはどのように推移するのでしょうか。

ところが、《発明の要旨》の判断については混乱しています。
化粧料封入袋事件、転写印刷シート事件、光ディスク用ポリカーボネート成形材料事件は平成6年改正前の適用で《結果物特定説》でいいのですが、ホログラフィック・グレーティング事件とスピーカー用振動板の製造方法事件は改正後の適用にもかかわらず《結果物特定説》であり、今回大合議判決の《併用説》と異なっています。

長くなったので以下次号。
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