1月28日の日経新聞朝刊に、知財高裁大合議判決の記事が載りました。
『製法異なる同一物質、特許侵害に当たらず 知財高裁大合議 』という記事です。
特許登録された医薬品とは異なる方法で作った同じ薬が特許を侵害するかが争われた訴訟の控訴審で、『「特許の範囲は出願時に記載した製法で作った製品に限られるのが原則」として、特許侵害に当たらないとの判断を示した。』とあります。
記事ではさらに、
『中野裁判長は判決理由で、特許の範囲は「出願内容の記載を基準とすべき」と指摘。製法が記載されている場合は「特許の範囲はその製法で作ったものに限られるのが原則」と指摘した。
例外的に「発明物を構造や特性で直接説明できず、製法でしか説明できない場合には、製法にかかわらず特許の効力が及ぶ」としたが、今回問題となった医薬品はこうした事情に当てはまらないとして、特許侵害はないと結論付けた。』
とあります。
この新聞記事からはちょっと意外な判示であるように思えたので、最高裁と知財高裁にアクセスしてみました。まだ判決の全文はどちらにもアップされていませんでしたが、知財高裁には判決の要旨がアップされていました。
『平成24年1月27日 事件番号平成22年(ネ)第10043号部
○ いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲について,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合は,その技術的範囲は,クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定されるとした事例
○ 特許法104条の3に係る抗弁に関し,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの要旨の認定について,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合は,その発明の要旨は,クレームに記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるとした事例』
ひとまず安心しました。対象は「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明において特許請求の範囲に製造方法が記載されている形式)」だったのですね。日経記事では『特許の範囲は「出願内容の記載を基準とすべき」』とあり、物の特許について、明細書中に製造方法が記載されていたら、権利範囲はその記載された製造方法で製造したものに限られる、とも解釈できそうな気がしてびっくりしたのですが、さすがにそうではありませんでした。
われわれが注目すべき点については、判決全文のアップを待つまでもなく、今回アップされた判決の要旨で十分に把握することができます。
ポイントは2つあります。判決要旨には「技術的範囲」と「要旨の認定」が出てきます。この2つは別物です。
1.特許発明の技術的範囲=侵害判断における発明の権利範囲
2.発明の要旨=進歩性の判断などにおける発明の範囲
そして、判決は、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下「PbPC」)を2種類に分類しています。
A.真正PbPC=「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」
B.不真正PbPC=「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」
1.の技術的範囲の認定について、真正PbPCか不真正PbPCかによって範囲をどのように認定するのかに関して、今回の判示事項と従来の通説との関係はもう少し調べてみます(ps この部分、1/28に文章を修正しました)。さらに判決では、真正PbPCであることの証明責任は権利者が負う、としています。
2.の要旨の認定についてはどうでしょうか。
判決では、真正PbPCでないかぎり、発明の要旨はクレームに記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである、としています。
この判示にはちょっと引っかかりました。
一般に、技術的範囲については、明細書の記載や包袋禁反言などによって範囲が狭まるのに対し、発明の要旨については特許請求の範囲のみによって認定されます。私はその意味するところは、「侵害判断では権利範囲が狭くなったり広くなったりする。特許するかしないかの判断においては、将来の侵害判断において(文言上)最も広く解釈されることを想定し、進歩性などを判断する。」というように理解しています。均等論は別議論です。
ところが今回の事例は、この逆のようです。一般に、発明の要旨を請求項記載の製造方法で製造された物に限定したら、その方が発明の範囲は狭くなるので、特許化される可能性が高くなります。そのようにして特許が成立し、その後の侵害判断において「このクレームは真正PbPCである」と認定されたら、発明の技術的範囲が発明の要旨よりも広がってしまいます。なんかおかしい。
この点についてはもう少し考えてみます。
15年ほど前の経験ですが、EPCでの審査では、PbPCについては無条件にクレームの製造方法を除外して発明を認定し、新規性・進歩性の判断がなされていました。今でもEPCで同じ判断基準が使われているのだとしたら、発明の要旨認定については日本の裁判所とEPCとで基準が相違する、ということになってしまいます。
『製法異なる同一物質、特許侵害に当たらず 知財高裁大合議 』という記事です。
特許登録された医薬品とは異なる方法で作った同じ薬が特許を侵害するかが争われた訴訟の控訴審で、『「特許の範囲は出願時に記載した製法で作った製品に限られるのが原則」として、特許侵害に当たらないとの判断を示した。』とあります。
記事ではさらに、
『中野裁判長は判決理由で、特許の範囲は「出願内容の記載を基準とすべき」と指摘。製法が記載されている場合は「特許の範囲はその製法で作ったものに限られるのが原則」と指摘した。
例外的に「発明物を構造や特性で直接説明できず、製法でしか説明できない場合には、製法にかかわらず特許の効力が及ぶ」としたが、今回問題となった医薬品はこうした事情に当てはまらないとして、特許侵害はないと結論付けた。』
とあります。
この新聞記事からはちょっと意外な判示であるように思えたので、最高裁と知財高裁にアクセスしてみました。まだ判決の全文はどちらにもアップされていませんでしたが、知財高裁には判決の要旨がアップされていました。
『平成24年1月27日 事件番号平成22年(ネ)第10043号部
○ いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲について,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合は,その技術的範囲は,クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定されるとした事例
○ 特許法104条の3に係る抗弁に関し,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの要旨の認定について,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合は,その発明の要旨は,クレームに記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるとした事例』
ひとまず安心しました。対象は「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明において特許請求の範囲に製造方法が記載されている形式)」だったのですね。日経記事では『特許の範囲は「出願内容の記載を基準とすべき」』とあり、物の特許について、明細書中に製造方法が記載されていたら、権利範囲はその記載された製造方法で製造したものに限られる、とも解釈できそうな気がしてびっくりしたのですが、さすがにそうではありませんでした。
われわれが注目すべき点については、判決全文のアップを待つまでもなく、今回アップされた判決の要旨で十分に把握することができます。
ポイントは2つあります。判決要旨には「技術的範囲」と「要旨の認定」が出てきます。この2つは別物です。
1.特許発明の技術的範囲=侵害判断における発明の権利範囲
2.発明の要旨=進歩性の判断などにおける発明の範囲
そして、判決は、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下「PbPC」)を2種類に分類しています。
A.真正PbPC=「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」
B.不真正PbPC=「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」
1.の技術的範囲の認定について、真正PbPCか不真正PbPCかによって範囲をどのように認定するのかに関して、今回の判示事項と従来の通説との関係はもう少し調べてみます(ps この部分、1/28に文章を修正しました)。さらに判決では、真正PbPCであることの証明責任は権利者が負う、としています。
2.の要旨の認定についてはどうでしょうか。
判決では、真正PbPCでないかぎり、発明の要旨はクレームに記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである、としています。
この判示にはちょっと引っかかりました。
一般に、技術的範囲については、明細書の記載や包袋禁反言などによって範囲が狭まるのに対し、発明の要旨については特許請求の範囲のみによって認定されます。私はその意味するところは、「侵害判断では権利範囲が狭くなったり広くなったりする。特許するかしないかの判断においては、将来の侵害判断において(文言上)最も広く解釈されることを想定し、進歩性などを判断する。」というように理解しています。均等論は別議論です。
ところが今回の事例は、この逆のようです。一般に、発明の要旨を請求項記載の製造方法で製造された物に限定したら、その方が発明の範囲は狭くなるので、特許化される可能性が高くなります。そのようにして特許が成立し、その後の侵害判断において「このクレームは真正PbPCである」と認定されたら、発明の技術的範囲が発明の要旨よりも広がってしまいます。なんかおかしい。
この点についてはもう少し考えてみます。
15年ほど前の経験ですが、EPCでの審査では、PbPCについては無条件にクレームの製造方法を除外して発明を認定し、新規性・進歩性の判断がなされていました。今でもEPCで同じ判断基準が使われているのだとしたら、発明の要旨認定については日本の裁判所とEPCとで基準が相違する、ということになってしまいます。











