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弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

金融緩和政策はどのように論じられてきたか

2013-08-17 16:41:54 | 歴史・社会
この半年、アベノミクスの効果で円高是正と株価の上昇という効果が得られています。といっても、アベノミクス3本の矢のうち、まだ1本目、及び2本目の半分しか実現していない状況です。現在得られている効果は、そのほとんどが、1本目の金融政策によるものといっていいでしょう。
金融政策の主役は日本銀行です。
1.インフレ率目標を2%に置く。
2.目標インフレ率を得るため、日銀はマネーの供給を増やす。
3.その手段は、市中銀行から国債を買い取る。


実はこの議論、私はいろいろな機会で見聞しているため、耳にタコができています。ところが、実際の政治経済の現場においては、総理になる前の自民党安倍総裁が政策として掲げるまで、全くの少数意見に過ぎませんでした。
何で安倍さんの前はだれも取り上げなかったのか。なぜ安倍さんはこの政策を自分の政策の骨格にしようと決心したのか。いまだに謎ではあります。自民党の山本幸三議員の影響を受けたことは間違いありませんが(自民党安倍総裁の金融政策)。
取り敢えず、このブログでは金融緩和政策についてどのように取り扱ってきたか、ちょっと過去をふり返ってみました。

高橋洋一「霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」」(2) 2009-08-22
高橋洋一著「霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)」(2008/05)の読書感想文です。
「財務省は財政政策。日本銀行は金融政策。財政政策と金融政策がマクロ経済政策の二本柱。」
「結論を簡単に言うと、固定相場制の下では財政政策は完璧に効いて、金融政策は効かない。逆に変動相場制になると、金融政策しか効かなくて、財政政策は効かなくなってしまう。」
「というのを、マンデルとフレミングという二人の経済学者が編み出したので、『マンデル・フレミング理論』という名前がついている。」
「ところが日本ではこの世界の常識が知られていないから、みんな景気対策というと財政出動でしょう。」(いずれも高橋洋一氏)

高橋洋一「霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」」(3) 2009-08-23
「マネーを出すのを『金融緩和』、マネーを引っ込めるのを『金融引き締め』というんだけれど、日本銀行には『金融引き締め』したら勝ちという文化、バカみたいなDNAがある。」「資産を買わないと日本銀行はマネーが増えない。資産を買うので一番手っ取り早いのは国債。マネーを増やすために、日本銀行は国債を買わなければいけない。でも、国債を買うと言うことは財務省を手助けすると言うことだから、日銀の人は財務省への対抗心からそれを『負け』という風土があって、国債を買いたがらない。」
「インフレターゲットを設けて日銀が国債を買うと、戦前と同じハイパーインフレが起こる」という議論があるが、そんなことはない。3%程度の目標でハイパーインフレになることはない。
サブプライム問題以降、日本も円高と株安に見舞われている。しかし日本はサブプライムの被害は少ないはず。日本の円高と株安は、日銀が異常に引き締めていることが原因。「日本の国内も金融を締めているから、日本の株価は上がらない。円高で外需もだめだし、日本の国内のほうもさっき言ったマネーを絞っていて実質金利が高くなっているから、ためだ。株価が上がらないのは当たり前です。でも、株価が上がらないのは、日本銀行のせいだってみんな認識していないでしょう。マスコミは日本銀行の悪口をまず書かないの。」(いずれも高橋洋一氏)

消費者物価2.2%低下 2009-09-01
『最近、高橋洋一氏の著書を連続して読んだので、私の頭の中では取るべき政策は明確です。
1.適正なインフレ率は1~3%である。
2.適正インフレ率を下回るデフレ傾向に陥ったら、日銀はマネーの供給を増やすべきである。
3.その手段は、市中銀行から国債を買い取ればよい。


デフレ克服のためにどうすべきか 2009-11-20
ここでは、勝間和代氏の活動を紹介しました。
勝間和代「リフレ論」が大反響 ネットで賛否両論が渦巻く」 2009/11/11 18:00 J-CASTニュース
『通貨の大量発行でデフレを克服する「リフレーション」を政府に求めた経済評論家、勝間和代氏(40)のプレゼンテーションが、ネット上で大反響を呼んでいる。リフレ擁護派から反対派まで、ブログなどを通じて議論が大盛り上がりなのだ。
「それにしても勝間和代氏の影響力の大きさにびっくり……」』

ドル円の推移は、リーマンショック前は100~110円、リーマンショック後1年は90~100円でしたが、2010年後半、一気に80円台の前半まで円高が進行しました。この2010年のドル円の推移を私は「2010年ドル高」と名付けました(ドル円5年間の推移と“2010年円高”)。当時、ドル高が刻々と進行しているのに、政府日銀は無策でした。それに対して以下の提言がありました。
高橋洋一氏の予言 2010-09-04
『具体的には、まだ法律上生きている経済財政諮問会議を復活させればいい。そうすれば、自動的に総理、経済閣僚と日銀総裁が議論できる。民主党のメンツでできないなら別の会議をつくってもいい。
そこで、政府と日銀の共有目標として、2年以内に物価を2%程度にするということであれば、逆算して(FORWARD LOOKING)、現時点で、例えば数十兆円規模の量的緩和など、結果としてかなりの金融緩和措置が日銀に求められることになるだろう。』高橋洋一氏

また、これより前、ベン・バーナンキは、2004年発行の「リフレと金融政策」の中で、日本がデフレ対策としてインフレターゲットを設定すべきことと、そのターゲット達成のために金融緩和すべきことを提言しています(ベン・バーナンキ著「リフレと金融政策」)。
・・・以上・・・

以上で分かるように、ベン・バーナンキ氏や高橋洋一氏は、ずっと以前から金融緩和政策を提言していたのに、日本全体は見向きもしませんでした。
2009年秋の段階で、当時の管政権が金融緩和政策を推し進めてくれていたら、そうでなくても、2010年にさらに円高が進行した際に、同じ管政権が金融緩和政策を推し進めてくれていたら、日本の経済はずいぶん異なった推移をたどったのではないかと思います。
企業の海外移転と国内産業の空洞化にはどこかで歯止めがかかったでしょう。エルピーダ、ルネサスの運命も異なっていたと思われます。ソニー、パナソニック、シャープの状況も異なっていたでしょう。

2009~2010年当時、日銀はなぜ金融緩和を頑なに拒否していたのか。(←日銀には「金融緩和すると負け」という文化がある?)
日銀の監督官庁である財務省はなぜ金融緩和を主張しなかったか。(←財務省は金融緩和で財政再建したのでは消費税増税できないから困る? 為替介入という特権を手放したくない?)
エコノミストの間で、金融緩和政策論者はなぜ少数派だったのか。(←日銀からのエサに目がくらんでいた?)
マスコミはなぜだんまりだったのか。(←日銀記者クラブで睨まれたくない?)
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少し御考え下さい。 (とら猫イーチ)
2013-08-20 12:31:28
 現在、現政権と日銀ともに、所謂、「リフレ派」経済学者の主張を政策化されています。 ブログ主様もこれ等経済論者の影響を受けて居られるようです。
 でも、経済・金融の現場に居る者や、多少とも「投資」に関わって居る者では、「リフレ」に同調する者は、少数派なのです。 その理由は、「リフレ派」の主張のように現実の経済・金融は動かないのです。 御札をばら撒けばインフレに為る、と云うような簡単なものでは無いからです。
 そもそも、今日の経済・金融は、グローバル化して居て、一国内での政策で左右出来るものでは無くなっています。 所謂、「デフレ」も実体は、国際的な価格の「標準化」で、例えば、電気製品が中国で低価格で製造されて、日本へ輸入・販売される為に、日本国内でも対抗上価格の下落が起こり標準化されるのです。 その逆も、また、真なりで、中国では賃金の上昇がある、のが事実です。 
 アベノミクスのせいで株価上昇と一般には、喧伝されている株式市場でも、同じことで、今の日本株市場は、約半分が外国人に依る売買です。 為替市場では、日本政府の介入ぐらいでは、天文学的なマネーが動く市場では何の影響もありません。 為替が円安に振れたのは、世界的な投資環境の「リスクオン」からです。 現在、為替が若干円高に振れつつあるのは、米国の経済と世界情勢が少し不安定に為りつつあり「リスクオフ」になって行く過程にあるからです。 
 既に、日本株市場は、割安を解消して割高に振れつつあるので、多くの投資家は売りに転じています。 何時ものことですが、株屋の宣伝に乗り政府を信じれば損をします。 
 更に、成長戦略等と云っても、世界市場で負ける企業に幾ら税金をつぎ込んでも無駄金で、日本の財政が悪化するのみです。 アップルは、米国政府の補助金で優良企業に成長したのでは無いのです。 今の政権は、利権塗れなので抜本的な政策は期待出来ませんし、出て来るのは弱者いじめぐらいでしょう。 とても日本経済の再生は期待出来ません。 残念ですが。
 
 追伸 「リフレ派」が攻撃する白川前総裁の著書も御参考に。 また、為替実務家の久保田博幸氏の著書も面白いです。 「牛さん熊さんブログ」も。 
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リフレ政策 (snaito)
2013-08-20 13:51:47
とら猫イーチさん、こんにちは。

ドル円相場は、現在の1ドル95~100円で十分に円安になっていますから、当面はこれで十分です。去年後半の80円弱が異常でした。日経平均株価も、現在の13000円台で十分に株高です。去年後半の8000円台が異常でした。

2009年又は2010年に金融緩和を行い、1ドル95~100円が実現していたら、現在の日本経済はずいぶんと違った推移をしたであろうと残念に思います。

為替について、財務省が為替介入しても意味ありません。すぐに効果がなくなるとともに、世界中から顰蹙を買います。それに対して日銀が行う金融緩和は、円安効果が持続してかつ世界から反対されません。

アベノミクス3本目の成長戦略がまったく不十分であることはおっしゃるとおりです。その点は私の記事と同じと思います。
白川さんの著書は、日銀総裁時とは異なってリフレ派と同じ正論を論じていたといいます。その本とは別の著書でしょうか。
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お分かりの上だったのですね? (とら猫イーチ)
2013-08-20 21:38:37
 成程。 全てお分かりの上で、日本人のマインドの変換に期待されたのが論旨でしたか・・。 (違えば御免なさい。)
 それなら、分かります。 アベノミクスに正反対の論旨である池田信夫氏も、期待の大きさ(氏は「偽薬」と云われています)の効果には同意されていますし。 
 白川前総裁の日銀も、実は、金融緩和を実施したのですが、効果無く終始したのです。 米国でもQEを実施したのですが、然したる効果が無く、反面、実体経済の回復で株価も上昇しました。 
 実は、私は、龍谷大学の竹中先生と同じく、「リフレ」も慎重に実施して効果が無ければ撤退すれば良いのでは、と云った「慎重派」なのです。 実験ですから。 少し怖い実験ですが・・。 何しろ、一千兆円の借金がありますので・・。 でも、株価は上がって欲しいし・・。 中途半端ですね。
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