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ベン・バーナンキ著「リフレと金融政策」

2013-03-20 15:10:48 | 歴史・社会
リフレと金融政策
ベン・バーナンキ 著/高橋洋一 訳
日本経済新聞社

この本が発行されたのは2004年1月です。著者のベン・バーナンキは、その時点でアメリカFRBの理事になっていましたが、議長に就任するのはこのあと(2006年)です。
翻訳はあの高橋洋一氏です。バーナンキはFRBの理事に就任する前、プリンストン大学の経済学部長でした。そのとき、高橋氏はプリンストン大学に留学しており(1998~2001)、バーナンキ氏と親交を結んでいたのです。
本の内容は、バーナンキ氏の講演を高橋氏が訳出したものです。
《目次》
1.デフレ--アメリカで「これ」が起きないようにするためには
2.インフレ目標の展望
3.インフレの好ましくない下落?
4.ミルトン・フリードマンの90歳の誕生日を祝して
5.日本の金融政策に関するいくつかの論考
解説① バーナンキ理事入り後のFRB 日経新聞・吉次弘志
インタビュー バーナンキFRB理事に聞く
解説② バーナンキの業績と各章の解説 高橋洋一

私がアマゾンで購入したのが2009年8月でした。発行から5年も経過しているのに、私が入手したのは第1版第1刷でした。よほど売れなかったのでしょう。
その後、しっかりと読んだ記憶はなく、内容も全く覚えていません。今回、「5.日本の金融政策に関するいくつかの論考」と、解説①、インタビュー、解説②を読んでみました。

「5.日本の金融政策に関するいくつかの論考」は、2003年5月に日本金融学会で講演した講演録です。
以下のような内容となっています。
○ 日本は、5年にわたってデフレ基調にある。この期間に、GDPデフレーターは9%近く下落し、民間消費デフレーターは5.5%落ち込み、賃金と給料は4.5%下がった。
○ 日本の物価指数には測定バイアスが存在しており、長期的な真の物価安定を達成するためには測定値で見れば、少なくとも1%のインフレ率が必要である。
○ すでに5年間の物価下落があった。この5年が適切なインフレだったとしたときの適正物価よりも大きく下落しているので、今後のインフレ目標は1%よりも高くしないと、あるべき物価に追いつかない。そこで当初は、インフレ率目標ではなく「物価水準目標」を掲げ、あるべきだった物価に追いつくべきである。これを政策の「リフレ期」と名付ける。
○ 上記リフレ期には、通常のインフレ目標よりも高い短期的インフレ率を必要とするので、懸念を抱くだろう。しかし心配には及ばないとバーナンキ氏は説明する(128ページ)。
○ 日本のデフレを収束させるひとつの可能なアプローチは、限られた時間ではあるが、金融及び財政当局間の政策協定・協力関係を強化することだ。具体的には、日本銀行は、望むらくは減税その他の財政刺激との明示的な連携をとって、国債の買い入れをさらに一段と増やすことを検討すべきだ。
○ 日銀幹部は、上記金融緩和によって日銀のバランスシートが毀損することを心配しているが、心配には及ばない(130ページ以降で説明)。
しかし、日銀の懸念を取り除く提案をする。日銀の保有する日本国債の金利を固定金利から変動金利へ転換すればよい。このようなボンド・コンバージョン(金利スワップ)さえあれば、国債の売買でどのような副作用が出ても日銀のバランスシートは十分に守れる。
○「本日私は、デフレを終息させて日本経済の再スタートを支援するために、従来とは異なったアプローチをして、日本銀行が一時的に政府と協力して金融および財政の一体的な緩和政策の環境を作り上げることを提案します。これを行うためには、日銀は自らが設けたルール--たとえば、バランスシート上の長期国債額を発行した日銀券の流通残高以下に抑えるという非公式ルール--を撤廃する必要があるでしょう。」(134ページ)
○「日本財政の悲惨な状態を考えると、減税の勧めは無責任なことではないか? その反対です。」(138ページ)
○ 日本銀行の独立性の重要さ
インフレに直面したとき、独立した中央銀行が政府に「ノー」といえる能力が重要である。しかし、長引くデフレのもとでは、中央銀行側のより協力的なスタンスが求められる。現状では、日本銀行と財政当局の当面より一段の協力は中央銀行の独立性と決して矛盾するものではない。
『財務省が日銀のバランスシートを金利リスクから保護し、代わりに日銀が国債の買い入れを増額するというやり方は、日本で進行中のデフレを撃退するよい方法であると私は本実主張してきました。私は、すでに指摘した点--消費者物価のデフレの終息は日本経済を完全回復の軌道に戻すためになすべきことの一つでしかないと言うこと--を繰り返すことでお話を締めくくりたいと思います。銀行システム改革と構造改革は決定的に重要なことであり、できるだけ早急かつ積極的に実行される必要があります。しかし、改革の重要性については議論の余地がないとはいえ、デフレは日本の全体的な問題のマイナーな部分に過ぎないと主張する人々に私は同意できません。デフレ問題への取り組みは、日本経済にとって現実的かつ心理的に大きな利益をもたらすでしょうし、デフレを終息させることは、日本が現在直面しているその他の問題の解決をその分だけ一層容易にするでしょう。日本経済のみならず世界経済のためにも、これらすべての点で早急な前進がなされることを私は望むものであります。』(140ページ)

高橋氏の「解説②」によると、バーナンキ氏は上記金融学会での講演後、控え室で高橋氏と二人きりとなったとき、「金融政策と財政政策が協力するのは中央銀行の独立性に反しない。これは本当に簡単で確実な効果がある。日銀が『できないことばかりだ』というのは不思議だ」と語りました。バーナンキ氏はむしろ、日銀ができることをやらないと本来の独立性すら維持することが危うくなるといいたかったのではないだろうか、というのが高橋氏の推測です。

こうして、バーナンキ氏が10年前に講演した内容を読んでみると、「今言われているような」錯覚にとらわれます。安倍首相が日銀に要求し、白川日銀がしぶしぶ受け入れた現在の金融政策というのが、まさにそのまま、10年前にバーナンキ氏が日本に対して提案していた政策なのでした。
この10年間、バーナンキ氏と同じ主張・提案をしていた日本の専門家はごくわずかでした。マスコミに至っては完全無視でした。
それが、安倍首相が強力に推進し、それに呼応してマーケットが円安と株高で応えるに至ってはじめて、専門家やマスコミも囃すようになったのでした。

バーナンキFRB議長は最近、安倍首相による日本の金融政策に賛同する証言をしましたが、それもそのはず、「10年前に私が提案したことが実行されているに過ぎない」ということなのです。
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