弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

進歩性検討会(特許庁審判部)

2007-07-03 22:59:00 | 知的財産権
産業構造審議会知的財産政策部会で、特許庁が中心になって進歩性の検討を行うとのアナウンスがあったのは1年前です。

そして今年の3月、検討結果である進歩性検討会報告書が公開されました
報告書の最初の方をパラパラめくった限りでは、それほど食指を動かされず、今まで放っていました。
合計で8件の事例が検討されています。最終的に拒絶されあるいは無効になった事例を対象に、検討メンバーから、裁判所や審判部の進歩性判断について疑問があるとしてきされた事例を選定したそうです。
このうち6件は拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟事件であり、1件は無効審判が絡んだ訂正審判関連です。純粋の無効審判に対する審決取消訴訟は1件しかありません。事例選択のバランスが悪いな、というのが第一印象です。

8件中7件は結論妥当(7件は全員一致、1件は少数の反対意見)、1件のみ結論に対して賛否両論ということであり、この検討結果を見ると、「いろいろ世間では騒がれているようだが、裁判所の進歩性判断は概ね妥当である」という結論のアナウンスとなっています。

最近になって、まだざっとですが、もう少し読み進めてみました。

8件の事例それぞれについて、検討ポイントが示されています。以下のような項目から、事例ごとに2、3件が選ばれています。
・相違点の看過
・有利な効果の看過
・顕著な効果の記載
・周知技術の適用
・動機付け
・阻害要因
・技術分野の関連性
・解決すべき課題の共通性
・特殊パラメータ

驚くべきことに、後知恵(ハインドサイト)が1件もありません。

1件だけ第4事例(平成16(行ケ)66)で、「『事後的アプローチ』との印象を与えかねない」という検討結果に到った案件があります。しかしこれにしても、「拒絶した結論については妥当」という評価であり、「もうちょっとましな拒絶ロジックがあり得た」という評価です。「後知恵を排除すれば特許になり得た」という案件ではありません。

平成17年12月9日の弁理士会主催パネルディスカッション平成18年6月17日日本知財学会学術研究発表会シンポジウム(弁理士会協賛)、平成19年2月21日弁理士会研修所主催パネルディスカッション平成19年6月30日日本知財学会主催学術研究発表会日本弁理士会協賛セッションのいずれでも、進歩性が話題になるときは必ず、後知恵(ハインドサイト)が中心議題になります。
それなのになぜ、特許庁が中心となったこの進歩性検討会では、「後知恵が問題だ」と言える事例が俎上に上らなかったのでしょうか。
弁理士会が中心になって「後知恵」と騒いでいるのが実は空論なのか、それとも進歩性検討会での事例選択が妥当でなかったのか、一体どちらなのでしょうか。
コメント (5)
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