弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

すばる望遠鏡の補償光学

2006-12-28 20:56:44 | サイエンス・パソコン
天体望遠鏡で宇宙を観測するとき、対物レンズの口径が大きいほど、光の回折の影響が少なくなって像の解像度が上がり、細かい構造まで観察することが可能になります。しかし望遠鏡を地上で使う限り、空気のゆらぎの影響を受けるので、いくら口径を大きくしても解像度の向上には限界があります。すばる望遠鏡がハワイのマウナケア山(標 高:4139m)の山頂に設置されたのも、空気のゆらぎの影響を防ぐためです。それでもゆらぎの影響は大きく、対物反射鏡の口径が8mのすばる望遠鏡と、口径2.4mのハッブル宇宙望遠鏡とが互角に戦えるのも、ハッブル宇宙望遠鏡が宇宙空間にあり、空気のゆらぎの影響を受けないからです。

そのすばる望遠鏡に、大気のゆらぎによる光の乱れを測り、その乱れをリアルタイムで補正して本来の空間分解能を達成する「補償光学」技術が取り入れられました。観察方向のすぐそばの明るい星を使って、ゆらぎを評価し、補償するものです。すばる望遠鏡の解像度がこれによって10倍に上がりました。ただし、これまで補償光学系を使った観測ができるのは、すぐそばに明るいガイド星があるごく限られた天域 (全天の約1%) だけでした。

最近、レーザーガイド星を人工的に作り、これによってゆらぎを補償する「レーザーガイド補償光学」に成功したとのことです。すばる望遠鏡のホームページで紹介されています。この装置は、すばる望遠鏡から観測方向の空に向けて高出力レーザーを照射し、高度90kmの上層大気中にあるナトリウム層のナトリウム原子を発光させて、人工的にガイド用の星をつくってしまうという装置です。この 装置を搭載すれば、すばる望遠鏡で観たい方向にいつでも十分な明るさのガイド星をつくることができるので、これまで補償光学系を使った観測ができなかった、遠方宇宙の観測などに大変威力を発揮します。
すばる望遠鏡のホームページには、補償光学を使ったときと使わなかったときの星の像が対比されており、解像度の改善は一目瞭然です。これから、すばる望遠鏡は一段とその威力を増すことでしょう。

ところで、私のこのブログで望遠鏡撮像画像を用いてその成果を紹介したいと思い、すばる望遠鏡ホームページで画像の扱いについて確認しました。「画像等のご利用について」によると、「ホームページでのご利用は、ご遠慮ください。」とある一方、「天文学の広報普及活動を目的とするご利用の場合は「画像等の使用許可申請書」にご記入の上、国立天文台まで申請をお願いいたします。」とあります。そこで、申請書を提出してみました。

最近になって返答をいただきました。ホームページでの利用が天文学の広報普及活動を目的とするものであって、たとえ申請書を提出しても、原則は変わらず、ホームページでの利用は許可しない、という返答でした。

多分、公的機関の姿勢としては、すばる望遠鏡のこのスタンスが最も一般的であろうと思います。そしてそれと比較して、宇宙航空研究開発機構(JAXSA)のスタンスは非常にありがたいです。サイトポリシーに以下のように表示されています。
「利用の条件
(クレジットの表示)
 本サイトに掲載されているテキスト、図版、画像、音声、映像等をご利用する場合は、『提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)』『Courtesy of JAXA』のように出典元を明らかに表示していただくようお願いします。充分なスペースがない場合は『提供 JAXA』『JAXA』等の略式の表示方法も可とします。」

私としては、すばる望遠鏡についても宇宙開発と同様に応援していきたいのですが、両者の温度差についてはいかんともしがたいです。
ただしJAXAについても、もし心ない利用者が悪意の利用をした場合には、姿勢が後退することも十分にあり得るでしょうが。
コメント
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