弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

情熱大陸・荒井弁護士

2006-12-05 22:29:47 | Weblog
TBS番組「情熱大陸」で、弁護士・荒井裕樹氏についてのドキュメントを観ました。

東京永和法律事務所の升永英俊弁護士が、青色ダイオードの中村裁判を始め、職務発明の大物事件を一手に手がけていること、アルゼvsサミーの特許権侵害事件で70億円を超える賠償判決を勝ち取っていることは知っていました。升永弁護士は、今回の主役である荒井弁護士と共同で仕事をしていたのですね。その点は知りませんでした。

荒井裕樹弁護士 30歳(プロフィール

番組を通じて感じられる、荒井弁護士の凄いところは、自分の顧客を争いごとで勝たせるため、顧客の話を聞いた上で、通常人では考えつかないような法律構成を創出し、あるいは相手方のロジックの弱点を見抜いてそこを切り崩していく論理を展開する能力に長けていることでしょうか。
とにかく、勝訴という実績により、荒井弁護士が裁判官を説得するたぐいまれな成果をあげていることは間違いありません。
こればかりは本人の才能と努力によるところが大きいでしょうから、番組を観たからといって自分の業務に役立てるというわけにはいきません。せいぜいが「自分もできるかぎり努力してみよう」と自分にはっぱを掛けるくらいです。

いくつかすぐに借用できそうなアイデアを見せられました。
荒井弁護士が作成する準備書面(主張・立証を記載し、裁判所に提出する書面)は、何色にも色分けされた文字が使われています。緑色の段落、青色の段落などが見られました。
裁判所に提出する書類といったら、黒一色であると思い込んでいました。色つき文字など使ったら、かえってふざけたやつだと思われて不利なのではないかと。
しかし、荒井弁護士は、実績として裁判官の説得に成功しているわけですから、極彩色の準備書面は実績を挙げているということです。

また、準備書面の各ページ左上に、そのページのセクション番号を記入していました。この点はなるほどと思います。
私も審判書類や準備書面を作成していて、前の方の文章を参照する際、「前述の第3(1)(ii)で述べたとおり」などと書くのですが、読む人が当該前述の箇所を探すのに一苦労するだろうな、と気がかりになります。そんなとき、ページ左上に必ずセクション番号が表示されていれば、読む人にとても親切です。

荒井弁護士が書く準備書面のページ数は、通常の何倍もあるということでした。それだけのページ数を書く能力、膨大な書類を読ませて飽きさせない能力、記載内容を裁判官の頭にすっと入り込ませる能力など、優れているのでしょう。

番組中に、特許権を保有する中小企業の代理人となり、大企業とライセンス交渉を行う場面がありました。その事例では、裁判に持ち込まずにライセンス契約までこぎ着けます。荒井弁護士は、「最近は訴訟の中で特許が無効とされる可能性が高い。」と述べています。その通りなのですが、できるだけ無効にされる危険性が少なくなるように交渉を行っているということでしょう。

番組では、「弁護士となって3年目(だったかな?)に年収1億円」が注目点となっていました。事務所の訴訟実績を見ると、特許事件のみならず、税金訴訟でも高額の勝訴をいくつも勝ち取っており、それだけの成功報酬を得ていてもおかしくありません。
ただし気になることもあります。
職務発明中村裁判では、地裁で200億円勝訴を勝ち取りながら、控訴審の和解で8.4億円(利息を含む)に後退しました。地裁で裁判所に払った印紙代と弁護士に払った成功報酬を考えたら、中村氏の取り分はわずかだったろうと危惧します。地裁の三村裁判長の頭脳構造を予測し、「200億行ける」とふんで訴額をつり上げたのでしょうが、「高裁でひっくり返される」ところまで予測して自重すべきでしたね。
70億円超を勝ち取ったアルゼvsサミー損害賠償請求事件についても、その後で対象となる特許が無効となり、顧客は何も得られませんでした。これらの事件について、弁護士は成功報酬を返還したのかどうか、気になるところです。

荒井弁護士は毎日深夜まで頑張っています。番組は、そんなに頑張って楽しいですか、と振ります。
一つ危惧するといえば、民事訴訟は結局AさんからBさんにお金を移動するか否か、という争いであって、それ自体新たな価値を創出するものではありません。唯一、「新たな判例規範を創出する」という喜びがあるのみです。このような仕事に嫌気が差して、もっともっと社会派に転ずる、ということはあるかもしれません。
コメント (2)
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