弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

優先権の効果・まとめ

2006-05-25 00:06:44 | 知的財産権
ピジョン事件写ルンです事件も、以下のような点で同じ状況でした。
《優先権主張出願Yの特許請求の範囲に記載された発明Aは、先の出願Xにも記載されている。
出願Yではじめて記載された実施例a2がある。
XとYとの間の先願に、実施例a2が記載されている。》

ところが結論は相違し、ピジョン事件では優先権の効果が認められず、写ルンです事件では優先権の効果が認められました。
このような判断の相違を統一的に説明できるのかどうか。

パテント誌4月号で田辺徹先生は、特許権の本質について専用権説、排他権説、専権説を挙げ、このような観点から議論されました。私もこの議論を理解しようと努めましたが、やはりどうもよくわかりません。

ここは自分流に考えるしかなさそうです。
前報でも書いたように、「特許請求の範囲の記載を変えずに、実施例を追加した場合、実施例追加によって特許の権利範囲が実質的に拡張するようであれば、優先権の効果は認められない。実施例を追加しても特許の権利範囲が実質的に変わらないのであれば、優先権の効果は認められる。」のように考えると、何となく納得できます。

あまりまとめになりませんでした。
パテント誌4月号の田辺徹先生のご意見は異なります。49ページ右欄中程で、「アメリカのmeansクレーム解釈のように、本願発明1の「伸張部」を限定解釈して、たとえば螺旋形状の実施形態は先の出願に記載された環状の実施形態の均等の範囲外であるという理由で、「超える」部分があると判断できたかもしれない。しかし、本判決では、「超える」と結論するために、このような限定解釈をする論理展開をしていない。」とし、「二重特許(とくに権利者が異なる場合の二重特許)を避けるという特段の事情があると判断したからであろう」とし、「特段の事情とは、共通する実施例による二重特許であると考えるほかない」と論じておられます(49ページ左欄上1/3、中程)。
ただ、私は田辺先生の議論が良く理解できなかったので、これ以上は踏み込みません。

このブログをご覧になっている諸兄のご意見をいただければ幸いです。

一所員さん、上記の私の理解は、あくまで私の私見です。田辺先生の議論も踏まえ、考えるきっかけにしてください。

もう1点、ピジョン事件の後、「実施例補充型の優先権出願はしてはならないのか」という議論がありました。この点も一所員さんが議論されているポイントです。
私は、「実施例補充型の優先権出願は、今後も利用すべきである」という意見です。

先の出願X(実施例a1)に対して優先権出願Yをなし、特許請求の範囲Aはそのままに、実施例a2を追加します。
出願Yの前にa2が公知となり、あるいは先願が出現するようなことにならない限り、実施例a2を追加することによって権利は強力になります。また、公知例との関係から、実施例a2のみが特許になるということもあり得ます。

もし先の出願Xの前にa2が公知になり、あるいはa2を記載した先願が現れたら、優先権出願の如何にかかわらず特許が得られません。

結局、先の出願Xと優先権出願Yとの間にa2が公知あるいは先願となった場合のみが問題となるのであり、そのようなことにならない可能性の方が高いのです。
また、たとえそのようなことになったとしても、写ルンです事件のように、発明の性格によっては優先権の効果が認められる場合の方が多いでしょう。
ピジョン事件のような事例であれば、いさぎよく補正で実施例a2を削除すればいいのです。ピジョン事件でも、もし出願人が図11実施例を削除すれば、審判で特許が与えられたと思われます。

一所員さんのコメント「ピジョン事件のクレームは、機能的クレームであって、権利範囲の解釈は実施例に限定されると考えてよいのでしょうか?」という点に関しては、今回の事件が侵害事件ではないので、判決の中では何も論じられていません。私としては、このクレームから機能作用的クレームのにおいがし、機能作用的クレームであると考えると良く理解できた、ということです。
今まで日本の裁判所でどのようなクレームが機能作用的クレームと判断されてきたのかという点については、私の以前の発言を参照してください。
ピジョン第1クレームは、上位概念抽出クレームであることは確かでしょう。それが、権利解釈において機能作用的クレームと同じ扱いを受けるかどうか、という点ですね。

一所員さんの最後の議論「改良発明は、被改良発明の技術的範囲に属さないと考えてよいのでしょうか?」については、私も実は疑問に感じている点なのです。
この点についてはあらためて議論したいと思います。
コメント (2)
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