弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

優先権主張の効果

2006-05-22 00:13:48 | 知的財産権
特許出願では、国内優先権主張出願をよく利用します。

特許出願(ここでは「先の出願」という。)をした後、その1年以内に、国内優先権主張出願(「優先権出願」という。)を行うことができます。先の出願の記載にさらに新たな事項を記載して優先権出願を行います。先の出願は自動的に取下げになります。
すると、優先権出願のうち、先の出願にも記載した事項については、先の出願をした日に出願したとして、新規性・進歩性・先後願などの判断が成されます。

先の出願は実施例に近い部分のみを請求項に記載した。良く考えたらもっと広い範囲で発明の効果が発揮されることがわかった。そこで、その広い範囲について新たな特許出願を行いたいと考えることがあります。この広い範囲の発明で独立に特許出願を行うとどうなるでしょうか。先の出願を残しておくと、先後願の関係で後の出願が拒絶されてしまいます。かといって、先の出願と新たな出願との間に同じ発明が公知になったような場合、後にした出願は全体として拒絶になってしまいます。

後の出願を国内優先権主張出願とすれば、この問題を解決することができます。優先権出願には、先の出願の狭い範囲の発明と、新たな広い範囲の発明とをともに記載します。
もし先の出願と優先権出願との間に公知発明が出現したとしても、少なくとも先の出願でした狭い範囲の発明については優先権効果が認められ、特許にすることができます。

先の出願において、実施例は一つしか記載しなかったが、特許請求の範囲には広い範囲の発明を記載することがあります。特許はなるべく広い範囲をカバーすべきですから、こういったことはよくあります。1年以内に、その広い範囲の中に入り、より効果的な実施例を思いついたとします。その場合にも優先権主張出願を使うことができます。優先権出願では、特許請求の範囲はそのままにして(もちろん変更してもいいのですが)、実施例のみを追加します。「実施例補充型」と呼ばれています。
例えば、先の出願X、優先権出願Yのいずれも特許請求の範囲に記載した発明がA、先の出願Xに記載した実施例がa1、優先権出願Yに記載した実施例がa1とa2であるとしましょう。

先の出願Xと優先権出願Yの間に出願した先願Zの存在が明らかになりました。その先願Zにはa2が記載されています。
さて、優先権出願Yの特許請求の範囲に記載した発明Aは特許になるでしょうか、という問題です。
もちろん、先願Zではなく、先の出願Xと優先権出願Yとの間に公知になった公知例Pでもかまいません。
発明Aについて優先権の効果が認められれば、出願日はX出願日とされるので、先願Zの存在があっても、優先権出願Yにおける発明Aは特許になるはずです。ところが、優先権の効果が認められなければ、出願日はY出願日とされるので、先願Zの存在に基づいて拒絶になってしまいます。

最近、結論の異なる2つの判決が相次いでされました。
[優先権の効果が認められなかった例]
東京高裁平成14(行ケ)539審決取消「人工乳首」事件(裁判所ホームページ
ドキッとする事件名なので「ピジョン」事件と呼びます。

[優先権の効果が認められた例]
東京高裁平成16(ネ)1563特許権差止請求権不存在確認「レンズ付きフィルムユニット」事件(裁判所ホームページ
事件名が長いので「写ルンです」事件と呼びます。


パテント誌4月号で、田辺徹先生がこの2件を取り上げて論じられています。そこでは、特許権の本質について専用権説、排他権説、専権説を挙げ、各判決がこのうちのどれに該当するか、という観点で議論されています。
そこで、私もこの2つの判決を読み直してみました。

次回以降に、ピジョン事件写ルンです事件両者のまとめのそれぞれについて論じます。
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