弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

東海村JCOでの臨界事故(2)

2006-05-09 00:22:24 | 歴史・社会
昨日に引き続き、東海村のJCOで臨界事故を追います。

事故原因を追っていくと以下のようになるでしょうか。
(1) 事故の直接的な原因は、スペシャルクルーの副長が専門知識を持たず、作業効率と品質確保のみの観点から「沈殿槽」での作業を提案し、相談を受けた専門家である主任も勘違いして許可を出した点にあります。主任はこのときの判断ミスの責任を感じ、一時はノイローゼとなって自殺しかねないほど憔悴したようです。

(2) 副長は、直属の上司である職場長の許可を受けていませんでした。実は副長と職場長とはJCO配属時はともに作業員リーダーであったものが、その後昇進に差が生じました。それが両者のコミュニケーションを阻害していた可能性があります。

(3) 「転換試験棟」は、もともと溶液製造には使いづらい設備であることが分かっていながら作られました。溶液製造は頻度が少ないという認識の元、取り敢えず当面の作業を納期までに製造できることのみを優先して認可を受けた設備なのです。その後、溶液製造の注文を動燃から受けると、認可を受けた手順を逸脱する作業を行うことが恒常化していました。「バケツ」に象徴されます。ただし、今回の事故は「バケツ」を使ったことと直接は関係ありません。

(4) 転換試験棟という工程が、JCOの主ラインではなく、スペシャルクルーという雑用係が担当する工程であったというのも不幸でした。たとえ非定常作業であってマニュアル外の作業を行ったとしても、原子力の専門家が作業に立ち会うのであれば最悪の事態を防止しえた可能性はあります。

(5) 余計な作業である「均一混合化」が課せられたのは、発注者である動燃側の都合によるものでした。

(6) それにしても、転換試験棟内に容量の大きな沈殿槽さえなければ、この事故は発生し得なかったのです。
ウラン濃度の高い材料を取り扱うにもかかわらず、なぜ転換試験棟に容量の大きな沈殿槽が設けられていたのか。話は、事故から16年前の1983年にさかのぼります。
このとき、動燃からの発注に備えて期限までに設備(転換試験棟)を設置しなければならず、科学技術庁に認可を申請します。設備計画は粉末を前提とするのに、文書中に1箇所だけ「溶液」を潜り込ませます。行政の一次審査ではこの「溶液」が見過ごされ、専門家による二次審査ではじめて指摘されます。この間のごちゃごちゃの末、「1バッチ縛り」という操業を義務づけることで臨界管理を行うことで決着します。
「1バッチ縛り」は極めて操業しづらい制約であり、設備稼働当初からこの約束は守られなかったようです。

もちろん、上記(1) ~(6) のうち、(1) の責任が一番重いことは当然です。刑事責任もこの人たちが負うことになりました。しかし、人間は間違える動物ですから、このような間違いは一定の確率で起こりえるのであり、そのような間違いがあっても事故が起きないようにフェイルセーフシステムを構築することこそ重要です。

第1の失敗は、事故が起きる16年も前に、容量の大きな沈殿槽を設けてしまったことです。その後、問題点は是正されることなく、事故発生に至ります。
また、事故の起きた「転換試験棟」での作業は、JCOとしては収益の主体ではなく、日陰者扱いされていたようです。そのため、設備を安全かつ使いやすく改造しようとする発想が生まれず、危機意識が薄く、管理が行き届かず、使いづらい設備なので裏マニュアル作業が常態化し、とうとう最後の日を迎えることとなってしまいました。

「16年前に沈殿槽を付した設備に認可を与えさえしなければ」「JCOが転換試験棟にもっと関心を寄せていれば」「科学技術庁や動燃の監査がもっとしっかりしていれば」など、どれか一つでも該当していれば臨界事故は起こらなかったわけですが、「これさえしっかりしていれば今後同様な事故は発生しない」といえるような決め手は見つかりませんでした。

それこそ、事故調査委員会が責任を持って出さなければいけない結論なのですが・・・。
一般論で考えると、JCOに対する官の査察が甘すぎたという印象です。
通常の製造事業所であれば、労基局や消防署による日常の厳しい査察が行われています。JCOはウランを扱う事業所ですから、通常の製造事業所よりも厳しい監査を受けて当然と思うのですが、消防署の通常の査察の方がよっぽど厳しいという印象を受けます。
火災は毎日のように発生しており、火災に対する備えは官側にも常に緊張感が伴っているのに対し、原子力については、観念としては重要であることを理解していても、過去に事故が発生したことがないことから実感が伴っていなかったのでしょう。
しかし事故は起きてしまいました。現時点では、ウランを扱う事業所に対して厳しい査察が行われているものと信じたいです。
以下次号
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