
第9話、体当たり
私はとっても幸せだった。
あのラブパワースポット畑で、蝶々の魔法にかけられたからか、
それともこれは航平の言ってた必然の出会いなのか、私と航平は楽しく穏やかな時間を過ごしてた。
お互いのことを話す度に、彼との絆や信頼が深まっていたから何の不安もない。
あれ以降、彰彦からは何の音沙汰もなく、また来店してくることもなく、
あの日、突発的な事件が起きて、動揺したことなんてわすれてた。
しかし、音立てぬ嵐は確実にじわじわと、私と航平に忍び寄っていたのだ。
(華のお店『パティキュラリー』)
私達はいつものようにレジ締めと、今日は棚卸ししながら話してた。
華 「え?優里先輩、玲司さんと結婚決まったんだ。おめでとうございます」
苗 「わぁ~。優里先輩、おめでとうございます」
優里亜「二人ともありがとう。うん、付き合い7年でようやく、彼が決断したのか切り出したからね。
私、結婚は半分諦めてたのよね」
苗 「諦めてたってどうしてですか?」
優里亜「恋愛には賞味期限があって、3年過ぎると、
ゴールインの確率は低くなっていくってTVのある番組で言ってたの。
それが本当なら、私なんて賞味期限しっかり終わってるでしょ?
プロポーズされないのは、結婚相手として役不足なのか、
私に何かが欠けてるのかな、なんて考えちゃったわ」
華 「恋愛賞味期限?そんなのあるんですか?それって気持ちが冷め始める期限とか?」
苗 「やだ、優里先輩。そんなの全てじゃないですって。
それだったら私なんて、堅太郎ともうすぐ9年ですよ。
同棲したら結婚の『け』の字もでないんだから。
玲司さんは先輩を大切にして考えてくれてるじゃないですか」
優里亜「そうよね(笑)ただね、最近色々あったから、自信喪失気味だったのよね」
川ちゃん「やだな、皆さん。マイナス的発言だもの」
物品倉庫から出てきたこの子は、川合佳乃ちゃん、24歳。うちの若手スタッフなの。
優里亜「マイナス…よね、やっぱり」
苗 「そういうの無縁なのは華よね~。海辺さんとラブラブで、無茶美味しい時だものね。熟してるというか」
華 「もう!苗ちゃんったら。もっと言って(笑)」
優里亜「あの封筒の彼と上手くいってるのね。良かったわ」
川ちゃん「あっ!華先輩。言い忘れてましたけど、昨日お客様来てましたよ」
華 「ん?誰かな。何て人だった?」
川ちゃん「それが、名前聞いても言わなくて、若い女性でした。
いつなら華先輩に会えるかって聞かれたから、明日出勤だって伝えたら、
また明日来るって言ってたんですけど、今日来ませんでしたね」
華 「若い女性…」
苗 「用があればまた来るわよ。用事ができて来れなかったのかもだし」
華 「そうね。川ちゃん、ありがとう」
川ちゃん「はい。優里亜先輩、チェック終わりました。全部ありました」
優里亜「ありがとう。今回は一度で全部合ったわね。みんな、上がっていいわよ」
三人 「はい。お疲れ様でした」
私と苗ちゃんはスタッフルームへ、優里先輩と川ちゃんは商品を倉庫に戻してた。
苗 「華、今からデート?」
華 「ううん。今日は航平、会議なんだって。外国から偉い人が来てるらしくて」
苗 「へぇ~。海辺さんって、仕事バリバリこなせそうで、英語なんてペラペラ話しちゃう感じだもんね」
華 「うん(照れ)そうなのよね~」
苗 「あーっ、やだね~、この子は。賞味期限、めーいっぱいある人は余裕だね!やだやだ」
華 「もう!やだやだって、苗ちゃんがふったんじゃない」
苗 「あはははっ!そうだね」
(店内で)
コンコンコン!(ドアのガラスを叩く音)
優里亜「誰かきたわね」
優里先輩が入口から外を覗くと、若い女性が立っていた。
女性の声「すみません。いいですか?」
優里亜「(ドアを開けて)申し訳ございません、お客様。もう閉店なんですよ」
川ちゃん「あっ。優里亜先輩、昨日の華先輩のお客様です。華先輩ー!」
私は川ちゃんから呼ばれ、スタッフルームから店にでた。
華 「はい?どうしたの?」
店には優里先輩と川ちゃん。
そして、ショートヘアの小柄な若い女性がいて、彼女は私に話しかけてきた。
女性 「華さん、覚えてます?私のこと」
華 「え?え…。申し訳ありません。私覚えてなくて。あの、どちら様だったでしょうか」
女性 「やっぱり。あの時ちょっとだけしか、顔合わせてないから覚えてないか。私、弥生です」
華 「弥生…さん。あっ!彰彦の」
弥生 「あの!率直に言うわね。彰彦返してもらえます?」
華 「はい!?」
優里先輩も川ちゃんもびっくりしてたけど、いちばんびっくりなのは、この私!
そのうち、苗ちゃんもスタッフルームから出てきた。
弥生 「彰彦が私との婚約破棄したのよ!結婚できないって。理由問い詰めたら、華さんと結婚するって言うんで、
どういうことなのか、華さんに詳しく聞きたくてきたわ!ちゃんと本当のこと教えてよ!」
華 「ち、ちょっと待って下さい。私は、彰彦と結婚なんかしないし、
それにあなた達が婚約破棄したことなんて、今初めて聞いたのよ」
弥生 「じゃあ、なぜ彰彦がそんなこと私に言うの!?式場も決まってて、親同士もあって話してるのに!
貴女がちょっかい出したしか考えられないわ!」
華 「そんなこと言われても…私」
苗 「ちょっと!さっきから聞いてたら、好き勝手訳分からないこと一方的に話してくれちゃって!
華はもう、あなた達とは無関係なの!だいたい貴女が一年半前に、華から彰彦さん奪ったんじゃないの!
よくもまぁぬけぬけと、華のところにこれたわね!
どんな神経してるの!ちょっかい出してるのは彰彦さんの方なのよ!?
こないだも、彰彦さんがいきなり華の前に現れて、勝手に結婚申し込んで!
挙げ句の果てに、華の彼氏には勝手にライバル宣言までして帰ったわよ!
自分の男、しっかり捕まえとかない貴女が悪いんでしょ!!」
弥生 「失礼な人ね!貴女誰よ!私達とは関係ない人でしょ!?部外者は引っ込んでて!」
苗 「なんですって!」
華 「苗ちゃん、ちょっと…」
感情的になる二人と、オロオロする私を見かねた優里先輩が、
優里亜「すみません。お客様…弥生さんでしたね。うちのスタッフが失礼を致しました。
お聞きしてて、お話は大体のところ分かりましたが、
海崎は今、お付き合いしている男性がおりまして、近々結婚話が決まる予定です。
ですから、貴女の婚約者との結婚はあり得ないと思います。
もう一度、婚約者の方とお二人でゆっくり話された方が良いかと思いますが」
弥生 「え?別の人と結婚…」
優里亜「はい。ですから、今日はお引き取りを」
弥生 「わ、分かりました。帰ります!でも…もし、まだ華さんが彰彦に関わっていることが分かればまた来ますから!」
弥生さんはそう言い残して帰っていった。
川ちゃん「ふぅ~!びっくりしたぁ。あの人、すごい人だな~」
苗 「さすが優里先輩だわぁ。こないだの件もあったばかりだから、私もう頭にきちゃって」
華 「優里先輩、ありがとうございました。みんな、びっくりさせてごめんなさい」
川ちゃん「華先輩は何も悪くないじゃないですか。何もなくて良かったですよ」
苗 「華、ごめん。私黙ってられなかった」
華 「苗ちゃん、いいのよ。ありがとうね」
優里亜「さぁ、華ちゃんもみんなも今日はあがりなさい。閉じまりは私がするわ」
三人 「はい。ありがとうございます」
苗ちゃんと川ちゃんはスタッフルームに下がり、私も行こうとした時。
優里亜「華ちゃん。さっきは結婚するなんて言っちゃって、ごめんなさいね。
場を納めるには、あれがいちばんいいと思ったから」
華 「いいえ、助かりました。私は突発的な対応が苦手なんで。
先日も同じようなことあった時、苗ちゃんに助けて貰ったんですよ」
優里亜「そうだったの。多分ああいう女性はまた来ると思うから、
何かあったらいつでも、遠慮せずに言いなさいよ。
達悪くて手に負えないなら、玲司もいるから解決策考えよう。
海辺さんには、昔の男のことで心配かけちゃ駄目よ。
上手くいくものも、上手くいかなくなるからね」
華 「優里先輩…はい。ありがとうございます」
何だか優里先輩の言葉は意味深で、真に迫ってた。
玲司さんとも同じようなことがあったのかな…
私達は優里先輩に挨拶すると店を出て、自分達の家に帰っていった。
実は私の知らないところで…航平の身にも、嵐は迫っていた。
私にはそんなこと微塵も想像もできず…
華 「航平はまだ仕事かな。帰ったらメールして、家に居たら電話してみよう」
(航平の会社『クリエイティブ・プランティア』オフィス)
社員数人「お疲れ様でした」
青田 「お疲れさん!おっ、航平!今からカンタや山田達と呑みに行くんだが、一緒に行かないか?」
航平 「ありがとうございます。僕はまだ明日の会議書類の用意あるんで、もう少し残りますよ。
青田先輩、今度はぜったい行きますから。先輩達に宜しく言っといて下さい」
青田 「おお、そうか。じゃあ、今度は一緒に行こうな。頑張れよ!お疲れさん!」
航平 「はい!お疲れ様でした」
(オフィスには航平ひとり。書類を見てる)
航平 「はぁ~!腹減った。早く帰りてぇ~」
女性の声「航平…航平よね?」
航平 「…風香!?なんで君がここに…New York支社にいるはずだろ?」
風香 「あはっ。びっくりした?航平に会いにきちゃった(笑)
パパが会議で日本に行くって聞いたから、臨時秘書で一緒にきちゃったの」
航平 「そうか。君のお父さん、会議に出席してたもんな」
風香 「あーあ。なんだかつまらないな。久しぶり会えたのに、もっと喜んでくれると思った」
航平 「風香。悪いけど、僕まだ仕事あるから」
風香 「航平。私、終わるまで待ってるから、久しぶりに一緒に食事しましょうよ。
まだ『プリマヴェーラ』開いてるだろうし、久しぶり行きたい。
食べながらNew York支社の話もしたいし、それに思い出話もしたいし」
航平 「本当にごめん。僕は行かないよ。風香、今僕には…」
風香 「STOP!『僕には今、彼女がいるんだ!だから君とは一緒に居られない』でしょ?
航平。私ね、日本に転勤願い出したのよ。パパに頼んでここに戻してもらおうと思って。
だから戻ってきたら、また前のように二人で楽しく過ごせるわ。
今度はパパのマンションで一人暮らしするし、一緒に住みましょうよ」
航平 「な!?…風香。僕達は二年前に別れて終わったんだよ。君がNew Yorkに行く時懇々と話したろ?
そんな僕らが前のように、仲良く住めるわけないだろう。
それにごめん。僕には今、大切にしたい女性が居るんだよ」
風香 「私は嫌よ!どんな手を使っても、航平は誰にも渡さないわよ。
それに航平が私と縁を切れば、ここに居られるのかしらね」
航平 「そういうこと言うんだ…君は変わってないな。どうして僕達が駄目になったか、君はまだ分かってないな」
風香 「ねぇ、航平。お願い、一緒に食事しましょう」
そこへ警備員が来る。
警備員「海辺さん、そろそろ鍵閉めますよ」
航平 「はい!すみません!今出ます(書類を紙袋に詰めながら)
ごめん。僕は帰って仕事するから、君はお父さんの所に戻りなよ。New Yorkにもね。
それから…風香。あの頃のように何でも君の思う通りにはいかないよ。もう、あの頃とは違うんだ。じゃあ!」
風香 「航平ったら!ねぇ!待ってよ!」
航平は、元カノの風香さんを振り切って、荷物抱えてエレベーターに乗った。
航平 「くそっ!こんなに荷物抱えてちゃ自転車に乗れないな。
しかし、いきなり現れて何なんだ、風香のやつ…。
もしかして…華にも何かあった!?
ふっ!まさか。こんな出来事まで一緒なんてあり得ないな。
でも何か…胸騒ぎがする。またあいつが華に会いにくるとか…」
オフィスビルを出た航平は、タクシーに乗り私の店の前を通り、
航平 「さすがにもう閉まってるか」
航平を乗せたタクシーは、私の家へと向かったのだ。
私はそんなことなど知らずに、ご飯とお風呂を済ませてソファーに座った。
携帯の待ち受けにしてる、蝶々畑の航平の写メを見つめて。
華 「航平、無茶いい笑顔なんだから~」
嵐の矛先は、ダークグレーの街からじわじわと、我が家に近づいてくる。
(続く)
この物語はフィクションです
私はとっても幸せだった。
あのラブパワースポット畑で、蝶々の魔法にかけられたからか、
それともこれは航平の言ってた必然の出会いなのか、私と航平は楽しく穏やかな時間を過ごしてた。
お互いのことを話す度に、彼との絆や信頼が深まっていたから何の不安もない。
あれ以降、彰彦からは何の音沙汰もなく、また来店してくることもなく、
あの日、突発的な事件が起きて、動揺したことなんてわすれてた。
しかし、音立てぬ嵐は確実にじわじわと、私と航平に忍び寄っていたのだ。
(華のお店『パティキュラリー』)
私達はいつものようにレジ締めと、今日は棚卸ししながら話してた。
華 「え?優里先輩、玲司さんと結婚決まったんだ。おめでとうございます」
苗 「わぁ~。優里先輩、おめでとうございます」
優里亜「二人ともありがとう。うん、付き合い7年でようやく、彼が決断したのか切り出したからね。
私、結婚は半分諦めてたのよね」
苗 「諦めてたってどうしてですか?」
優里亜「恋愛には賞味期限があって、3年過ぎると、
ゴールインの確率は低くなっていくってTVのある番組で言ってたの。
それが本当なら、私なんて賞味期限しっかり終わってるでしょ?
プロポーズされないのは、結婚相手として役不足なのか、
私に何かが欠けてるのかな、なんて考えちゃったわ」
華 「恋愛賞味期限?そんなのあるんですか?それって気持ちが冷め始める期限とか?」
苗 「やだ、優里先輩。そんなの全てじゃないですって。
それだったら私なんて、堅太郎ともうすぐ9年ですよ。
同棲したら結婚の『け』の字もでないんだから。
玲司さんは先輩を大切にして考えてくれてるじゃないですか」
優里亜「そうよね(笑)ただね、最近色々あったから、自信喪失気味だったのよね」
川ちゃん「やだな、皆さん。マイナス的発言だもの」
物品倉庫から出てきたこの子は、川合佳乃ちゃん、24歳。うちの若手スタッフなの。
優里亜「マイナス…よね、やっぱり」
苗 「そういうの無縁なのは華よね~。海辺さんとラブラブで、無茶美味しい時だものね。熟してるというか」
華 「もう!苗ちゃんったら。もっと言って(笑)」
優里亜「あの封筒の彼と上手くいってるのね。良かったわ」
川ちゃん「あっ!華先輩。言い忘れてましたけど、昨日お客様来てましたよ」
華 「ん?誰かな。何て人だった?」
川ちゃん「それが、名前聞いても言わなくて、若い女性でした。
いつなら華先輩に会えるかって聞かれたから、明日出勤だって伝えたら、
また明日来るって言ってたんですけど、今日来ませんでしたね」
華 「若い女性…」
苗 「用があればまた来るわよ。用事ができて来れなかったのかもだし」
華 「そうね。川ちゃん、ありがとう」
川ちゃん「はい。優里亜先輩、チェック終わりました。全部ありました」
優里亜「ありがとう。今回は一度で全部合ったわね。みんな、上がっていいわよ」
三人 「はい。お疲れ様でした」
私と苗ちゃんはスタッフルームへ、優里先輩と川ちゃんは商品を倉庫に戻してた。
苗 「華、今からデート?」
華 「ううん。今日は航平、会議なんだって。外国から偉い人が来てるらしくて」
苗 「へぇ~。海辺さんって、仕事バリバリこなせそうで、英語なんてペラペラ話しちゃう感じだもんね」
華 「うん(照れ)そうなのよね~」
苗 「あーっ、やだね~、この子は。賞味期限、めーいっぱいある人は余裕だね!やだやだ」
華 「もう!やだやだって、苗ちゃんがふったんじゃない」
苗 「あはははっ!そうだね」
(店内で)
コンコンコン!(ドアのガラスを叩く音)
優里亜「誰かきたわね」
優里先輩が入口から外を覗くと、若い女性が立っていた。
女性の声「すみません。いいですか?」
優里亜「(ドアを開けて)申し訳ございません、お客様。もう閉店なんですよ」
川ちゃん「あっ。優里亜先輩、昨日の華先輩のお客様です。華先輩ー!」
私は川ちゃんから呼ばれ、スタッフルームから店にでた。
華 「はい?どうしたの?」
店には優里先輩と川ちゃん。
そして、ショートヘアの小柄な若い女性がいて、彼女は私に話しかけてきた。
女性 「華さん、覚えてます?私のこと」
華 「え?え…。申し訳ありません。私覚えてなくて。あの、どちら様だったでしょうか」
女性 「やっぱり。あの時ちょっとだけしか、顔合わせてないから覚えてないか。私、弥生です」
華 「弥生…さん。あっ!彰彦の」
弥生 「あの!率直に言うわね。彰彦返してもらえます?」
華 「はい!?」
優里先輩も川ちゃんもびっくりしてたけど、いちばんびっくりなのは、この私!
そのうち、苗ちゃんもスタッフルームから出てきた。
弥生 「彰彦が私との婚約破棄したのよ!結婚できないって。理由問い詰めたら、華さんと結婚するって言うんで、
どういうことなのか、華さんに詳しく聞きたくてきたわ!ちゃんと本当のこと教えてよ!」
華 「ち、ちょっと待って下さい。私は、彰彦と結婚なんかしないし、
それにあなた達が婚約破棄したことなんて、今初めて聞いたのよ」
弥生 「じゃあ、なぜ彰彦がそんなこと私に言うの!?式場も決まってて、親同士もあって話してるのに!
貴女がちょっかい出したしか考えられないわ!」
華 「そんなこと言われても…私」
苗 「ちょっと!さっきから聞いてたら、好き勝手訳分からないこと一方的に話してくれちゃって!
華はもう、あなた達とは無関係なの!だいたい貴女が一年半前に、華から彰彦さん奪ったんじゃないの!
よくもまぁぬけぬけと、華のところにこれたわね!
どんな神経してるの!ちょっかい出してるのは彰彦さんの方なのよ!?
こないだも、彰彦さんがいきなり華の前に現れて、勝手に結婚申し込んで!
挙げ句の果てに、華の彼氏には勝手にライバル宣言までして帰ったわよ!
自分の男、しっかり捕まえとかない貴女が悪いんでしょ!!」
弥生 「失礼な人ね!貴女誰よ!私達とは関係ない人でしょ!?部外者は引っ込んでて!」
苗 「なんですって!」
華 「苗ちゃん、ちょっと…」
感情的になる二人と、オロオロする私を見かねた優里先輩が、
優里亜「すみません。お客様…弥生さんでしたね。うちのスタッフが失礼を致しました。
お聞きしてて、お話は大体のところ分かりましたが、
海崎は今、お付き合いしている男性がおりまして、近々結婚話が決まる予定です。
ですから、貴女の婚約者との結婚はあり得ないと思います。
もう一度、婚約者の方とお二人でゆっくり話された方が良いかと思いますが」
弥生 「え?別の人と結婚…」
優里亜「はい。ですから、今日はお引き取りを」
弥生 「わ、分かりました。帰ります!でも…もし、まだ華さんが彰彦に関わっていることが分かればまた来ますから!」
弥生さんはそう言い残して帰っていった。
川ちゃん「ふぅ~!びっくりしたぁ。あの人、すごい人だな~」
苗 「さすが優里先輩だわぁ。こないだの件もあったばかりだから、私もう頭にきちゃって」
華 「優里先輩、ありがとうございました。みんな、びっくりさせてごめんなさい」
川ちゃん「華先輩は何も悪くないじゃないですか。何もなくて良かったですよ」
苗 「華、ごめん。私黙ってられなかった」
華 「苗ちゃん、いいのよ。ありがとうね」
優里亜「さぁ、華ちゃんもみんなも今日はあがりなさい。閉じまりは私がするわ」
三人 「はい。ありがとうございます」
苗ちゃんと川ちゃんはスタッフルームに下がり、私も行こうとした時。
優里亜「華ちゃん。さっきは結婚するなんて言っちゃって、ごめんなさいね。
場を納めるには、あれがいちばんいいと思ったから」
華 「いいえ、助かりました。私は突発的な対応が苦手なんで。
先日も同じようなことあった時、苗ちゃんに助けて貰ったんですよ」
優里亜「そうだったの。多分ああいう女性はまた来ると思うから、
何かあったらいつでも、遠慮せずに言いなさいよ。
達悪くて手に負えないなら、玲司もいるから解決策考えよう。
海辺さんには、昔の男のことで心配かけちゃ駄目よ。
上手くいくものも、上手くいかなくなるからね」
華 「優里先輩…はい。ありがとうございます」
何だか優里先輩の言葉は意味深で、真に迫ってた。
玲司さんとも同じようなことがあったのかな…
私達は優里先輩に挨拶すると店を出て、自分達の家に帰っていった。
実は私の知らないところで…航平の身にも、嵐は迫っていた。
私にはそんなこと微塵も想像もできず…
華 「航平はまだ仕事かな。帰ったらメールして、家に居たら電話してみよう」
(航平の会社『クリエイティブ・プランティア』オフィス)
社員数人「お疲れ様でした」
青田 「お疲れさん!おっ、航平!今からカンタや山田達と呑みに行くんだが、一緒に行かないか?」
航平 「ありがとうございます。僕はまだ明日の会議書類の用意あるんで、もう少し残りますよ。
青田先輩、今度はぜったい行きますから。先輩達に宜しく言っといて下さい」
青田 「おお、そうか。じゃあ、今度は一緒に行こうな。頑張れよ!お疲れさん!」
航平 「はい!お疲れ様でした」
(オフィスには航平ひとり。書類を見てる)
航平 「はぁ~!腹減った。早く帰りてぇ~」
女性の声「航平…航平よね?」
航平 「…風香!?なんで君がここに…New York支社にいるはずだろ?」
風香 「あはっ。びっくりした?航平に会いにきちゃった(笑)
パパが会議で日本に行くって聞いたから、臨時秘書で一緒にきちゃったの」
航平 「そうか。君のお父さん、会議に出席してたもんな」
風香 「あーあ。なんだかつまらないな。久しぶり会えたのに、もっと喜んでくれると思った」
航平 「風香。悪いけど、僕まだ仕事あるから」
風香 「航平。私、終わるまで待ってるから、久しぶりに一緒に食事しましょうよ。
まだ『プリマヴェーラ』開いてるだろうし、久しぶり行きたい。
食べながらNew York支社の話もしたいし、それに思い出話もしたいし」
航平 「本当にごめん。僕は行かないよ。風香、今僕には…」
風香 「STOP!『僕には今、彼女がいるんだ!だから君とは一緒に居られない』でしょ?
航平。私ね、日本に転勤願い出したのよ。パパに頼んでここに戻してもらおうと思って。
だから戻ってきたら、また前のように二人で楽しく過ごせるわ。
今度はパパのマンションで一人暮らしするし、一緒に住みましょうよ」
航平 「な!?…風香。僕達は二年前に別れて終わったんだよ。君がNew Yorkに行く時懇々と話したろ?
そんな僕らが前のように、仲良く住めるわけないだろう。
それにごめん。僕には今、大切にしたい女性が居るんだよ」
風香 「私は嫌よ!どんな手を使っても、航平は誰にも渡さないわよ。
それに航平が私と縁を切れば、ここに居られるのかしらね」
航平 「そういうこと言うんだ…君は変わってないな。どうして僕達が駄目になったか、君はまだ分かってないな」
風香 「ねぇ、航平。お願い、一緒に食事しましょう」
そこへ警備員が来る。
警備員「海辺さん、そろそろ鍵閉めますよ」
航平 「はい!すみません!今出ます(書類を紙袋に詰めながら)
ごめん。僕は帰って仕事するから、君はお父さんの所に戻りなよ。New Yorkにもね。
それから…風香。あの頃のように何でも君の思う通りにはいかないよ。もう、あの頃とは違うんだ。じゃあ!」
風香 「航平ったら!ねぇ!待ってよ!」
航平は、元カノの風香さんを振り切って、荷物抱えてエレベーターに乗った。
航平 「くそっ!こんなに荷物抱えてちゃ自転車に乗れないな。
しかし、いきなり現れて何なんだ、風香のやつ…。
もしかして…華にも何かあった!?
ふっ!まさか。こんな出来事まで一緒なんてあり得ないな。
でも何か…胸騒ぎがする。またあいつが華に会いにくるとか…」
オフィスビルを出た航平は、タクシーに乗り私の店の前を通り、
航平 「さすがにもう閉まってるか」
航平を乗せたタクシーは、私の家へと向かったのだ。
私はそんなことなど知らずに、ご飯とお風呂を済ませてソファーに座った。
携帯の待ち受けにしてる、蝶々畑の航平の写メを見つめて。
華 「航平、無茶いい笑顔なんだから~」
嵐の矛先は、ダークグレーの街からじわじわと、我が家に近づいてくる。
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