AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

マッケンサンバ

2012年03月12日 | ルルイエ異本
クトゥルー神話体系のルーツを探るべく、ラヴクラフトが多大なる影響を受け「高度の異次元恐怖を最も芸術的に高揚した作家」と賞賛してやまなかったイギリスの怪奇小説作家アーサー・マッケンの作品に初挑戦してみた。

昨年の創元推理文庫の“復刊フェア”で再プレスされた『怪奇クラブ』であるが、原題は“THREE IMPOSTORS”といって直訳すると“三人の詐欺師”。
プロローグで、その三人の詐欺師らしき男女がなにやら悪巧みを囁きあってるシーンから話は始まるのだが、全体的には約4つの独立したエピソードから成っており、最終的に全ての物語にこの三人の男女が絡んでいたという、なかなか構成力に富んだオムニバス作品であった。

雰囲気は探偵趣味の強い犯罪ミステリー風の展開なのだが、これら奇譚の中でとりわけオカルト趣味の濃いエピソードだったのが『黒い石印』の話で、石切り山で矮人と契りを交わした女が産み落としたという、癲癇病みの白痴少年が出てくる。
ここでの“矮人”というのは、いずれも人間以前の世界に生存していた未開な半人半獣なのであって、その姿は醜怪卑陋、その心ばえは罪そのもののように陰険邪悪のものなのである。

こいつが矮人?


人間誕生以前から生存していた半人半獣・・・・うん、いかにも旧支配者じみている。
そしてそれらと人間との異種交配ってところなど、まさにクトゥルー的ではありますまいか!

この異形の少年と“グレー・ヒルの石灰岩に記されたる文字”と黒き石印との関連性を研究しつづけるグレッグ教授の所有していた書物の中にポンポニウス・メラの『天体位相』というのが出てきます。
その中の「ソナリス」の章の冒頭に次のような文章が出てくる。

~リビアの奥地に住む人々の不思議と、六十石と称する石の不思議~
「この民族は奥地の秘境に住し、蛮地の山上において猥褻なる秘行を行う。彼らは顔は人間なれども、五体は人間と共通するものなく、また人間の習俗は彼らにとりてはことごとく奇異にして、太陽を忌む。もの言うときはほとんど語をなさぬ歯音なれど、声荒々しく、恐怖なくして聞くべからず。
この民族は六十石と称する石を崇ぶ。六十石とは、その石に六十の文字記されあるがゆえに、かくは名づくなり。この石に不文の秘密あり。
IXAXAR(イシャクシャ)これなり。」

この記述を読んで、私は宇宙的逸脱の汚穢と戦慄を感じないではいられなかった。
この何語ともつかぬ“イシャクシャ”なる言葉は、ウェールズ人特有の、小川がゴボゴボ鳴るかのような奇妙な発音と恐ろしくも似通っているようなのだという。
“イシャクシャ”とは、おそらく悠久の太古の暗黒の深淵からの何らかの類に違いない。

あともう1つは「白い粉薬のはなし」で、近所の薬屋で調剤した白い粉薬を服用したがために、肉体がドロドロに溶けてしまった青年の話。
ドクター・チャンバーズの報告書によると、
「この白い粉は、いわゆるヴィナム・サバッティ、つまり“サバト”の酒をつくる元で、コップの水の中へ白い粉薬を2、3杯入れた酒によって、生命の巣である人間の体はバラバラになり、五体は溶けて、今まで体内に眠って外形をなし、肉の衣をかぶっていた蟲だけが死なずに残る。やがて真夜中になると、原始の堕落が繰り返し反復されて、エデンの園の林檎の神話の中に隠されている恐ろしいことが、ここで新しく行われるのだ」という。

これは、ラヴクラフト著の『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』でチャールズがポートゥックスト農場の実験室にて調剤していたあの、“人間の死体ないし骸骨を還元しようと務めている塩”を彷彿とさせてはいまいか?

まぁ旧支配者の御名や、『ネクロノミコン』とかの禁断の書物も出てこないので(当たり前か)、私としてはチト物足りなかったが、陰険穢怪なるマッケン作品を今後も探求してみようかと思う。

今日の1曲:『誇大妄想狂』/ Black Sabbath

コメント
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