AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

セレファイス

2020年05月16日 | ルルイエ異本
またしても、谷弘兒作品について、3連続でご紹介するハメとなってしまいましたが・・・・
ついて来られてますか?


『薔薇と拳銃』の時にも言ったように、谷作品の画の魅力ってのは、どちらかというと長/中編ものより短編ものの方が、圧倒的に輝きを放つように思われる。




長/中編ものでは、徹底して無邪気にコッテコテのエロ・グロを描き殴る作家さんなんであるが、短編ものになると、実に洗練された画風で、幻想怪奇、エロティシズム、サイケデリック、耽美、抒情詩的な美世界を、その唯一無二の個性的な画力でもってして見事なまでに描き上げてしまう。

それはまるで、アルカロイドを含むある種の薬草を服用した夢想家以外に想像し得るものではないというほどに、幻惑的な世界である。

『妖花アルラウネ』(アックスVol.1 2001年)



思うに、谷氏は、ランドルフ・カーター(あるいはH.P.ラヴクラフト)、クラネスと同じく、一種の選ばれし夢見人なのではないかと。
というのも、再編版『快傑蜃氣樓』に掲載されている90年代初頭~後期にかけて発表された短編には、幻夢境の都市の一つ“セレファイス”を扱ったダンセイニ風の作品を多く描いている。

この谷氏の尋常ならざる“セレファイス”への憧憬の念は、6年くらい前に読んだ創元推理文庫刊行の日本人作家による書き下ろしクトゥルー神話アンソロジー『秘神界 ~現代編~』に掲載された、南條竹則著の『ユアン・スーの夜』という短編の扉ページに描かれた谷氏のイラストでも見てとることができる。




セレファイスとは・・・

夢の国(ドリームランド)のオオス=ナルガイの谷にある都市で、その大理石の壁とその青銅の門によって、すべてのドリームランドの都市で最も印象深い都市の一つに数えられる。
壮麗際だかなセレファイスでは、時というものが存在せず、ここで何年も過ごしてから現世に帰っても、以前と変わってない自分に気がつくという。
セレファイスはクラネスという、ロンドンの優れた夢見人がその夢の中で創造した幻想都市。
ちなみにクラネスは、アザトースの宮廷を訪れた3人の夢見人のひとりにして、その中で正気で戻ることができた唯一の人間である。
クラネスが現世で死んだとき、彼は支配者としてセレファイスに永遠に棲むこととなり、今なお雲の都セラニアンとを行き来しつつ政務を執り行っているという。


その谷弘兒先生による、“セレファイス三部作”ともいうべき短編を以下に紹介していこう。


『それは、六月の夕べ・・・』(ガロ1993年)

雨宿りのため、迎え入れられた親切な老人の家で青年は、その家に飾られていた女性の肖像画を巡って不可思議な体験を味わう。




画の中の女性に導かれるがまま、肉体から精神が離れ、異界の扉が開かれる。




なんという恍惚たる幻想風景・・・・・
まるでLSD使用による、ローン・ツリーのアドリブのごとき描写・・・・





『小さな風景画』(アックス Vol.1 1998年)

知らない異国の言葉で、少年に一枚の風景画を見せて話しかけてくる見知らぬひと。
そこで囁かれる魔法のような「セレファイス」という言葉。
しかし少年は、その時はその言葉が聞きとれない。




そして大人になって、子供の頃に聞きとれなかったコトバがふいに口をついて出る。
ただその瞬間に、その者は現世の人ではなくなってしまう。





『イップ君の思い出』(アックス Vol.4 1998年)

少年がある病気がちの同級生イップ君の家にお見舞いに行く。
ベッドに横たわったままイップ君は、見舞いに来た少年に、実に想像力豊かな様々な異国の奇妙な話を語って聞かせるのだった。
そして少年は、いつの間にかイップ君の語る不思議な異国の夢の中を漂っていた・・・・




お見舞いの後、少年はイップ君の家から一枚の絵葉書を持ち帰った。




しばらくして、イップ君家族は引っ越したのか、そのまま行方知れずとなった・・・・

そして、見舞いに行った少年もまた・・・・・


ところでこのGW中は、相変わらずネットであまりといえば希少すぎる谷弘兒作品をむなしく検索する日々を送っていたわけであるが、偶然にも谷弘兒のポストカードセット「CELEPHAIS」なるものが存在するという情報を入手した。
で、谷弘兒ポストカードで検索をかけると、すぐに販売元の青林工藝舎のHPに辿り着くことができた。
http://www.seirinkogeisha.com/koda/postcard.html

ただ、このHPでは在庫が残ってるのかも分からず、ネット通販の入力フォームやレジもなかったので、もうこのポストカードが欲しくてたまらんくなって、直接青林工藝舎に電話で問い合わせたところ、翌日すぐに振込用紙と一緒に、あまりにもステキなダンセイニ風特製封筒に納められた、垂涎ものの5枚入り谷弘兒ポストカードが送られてきた。

これで500円(セール価格)は安い!てかまだ在庫残っててよかった。



そして今、私の机の上には、一枚の絵葉書が飾られている。




この風景が、
谷弘兒先生が夢想した夢の国の中での理想郷なのだろうか・・・



インスマスの断崖の下の、苔にびっしりと覆われたトレヴァー・タワーズ近くの岩場に、もし私の水死体が打ち上げられたのなら、私も谷弘兒先生が描いた不思議な物語の登場人物たちと同じように、ガレー船の行きかう、あの時の流れの止まったオオス=ナルガイの谷にある壮麗際だかな幻夢境の都に旅立ったものだと思ってくれても全然構わないことを、ここに書き留めておきます。


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ニョグサ(ありえべからざるもの)

2020年05月07日 | ルルイエ異本
谷弘兒の著作『快傑蜃氣樓』にも、『薔薇と拳銃』と同様、数々の怪奇と幻想を極めた短編が収録されている。

本編を読み終わった次のページに、早くも私の不埒な好奇心を震わす、あの神性の御名を冠したタイトルが目に飛び込んできた!


『Nyogtha(ニョーグサ)』である。




やはりディープな作家さんですぜ、谷先生は・・・・
クトゥルー神話を題材にマンガを描く作家多しといえど、ありふれたニャルラトホテプやディープ・ワンズなどではなく、本格的に、そしてここまで幻想的に「Nyogtha」を描いたマンガ家など今までにいただろうか!?
とにかく目のつけどころがすごい!


”Nyogtha”とは・・・・・・・

日本の書物では「ニョグサ」、あるいは「ニョグタ」と表記されることが多く、個人的にはニョグ・ニョグ太などというキャラクターを妄想したりしてる。
”ニョグタ”は、黒い無定形の塊として顕れるツァトゥグァ、あるいはウボ=サスラが生んだグレート・オールド・ワン。
ヨスの大洞窟の地下深くか、あるいはアークツルスを回る暗黒世界に棲んでいるといわれている。
虹色に煌めく黒々としたゼラチン状の不定型の存在で、”ありえべからざるもの”と呼ばれることが多い。
かつて<古のもの>が、ニュージーランドの洞窟にこの存在を封じ込めたという説もある。


『エイボンの書』によると、かつて黒魔術師アヴァルザウントが、ハイパーボリア東部のウスノール地方にあるカモルバ修道院に隣接する墓地にある霊廟を密かに改築し、自れの死後、弟子たちに自れの屍体をその中の地下墓室に安置するよう手配した。
その地下墓室には、秘密の出入り口が設けられており、その出入り口の後ろには、巨大で悪意ある強力な存在が棲んでいる地球の下の暗い深淵へと下りていく階段があり、その存在は“グレート・オールド・ワン”と呼ばれている。
それらの陰気な深淵の悪意ある居住者の中に”ニョグタ”という恐ろしい神性がいて、アヴァルザウントは生前口に出せないような淫らな儀式を執り行ってよくこの神性を礼拝していた。
黒魔術の力により地下墓室の中で復活したアヴァルザウントは、ニョグタの手下である食屍鬼どもの助けをかりて地上に這い出し、自れの弟子どもやカモルバ修道院の修道士どもの生き血を貪ったという。


また、セイレムの街に存在するいわゆる「魔女地区」に関する報告では、”魔女の隠れ処”といわれる切妻屋根の部屋の最初の住人アビゲイル=プリンという魔女が、自れの死後、この部屋に訪れた者を、彼女が暗黒の洞穴から度々呼びだした不死の恐るべき存在の力を通じて、意識と物質を隔てる深淵に架橋すること、その者の精神にとり憑くことを可能ならしめるべく、魔術的な仕掛けを施した秘密の地下室にて待ち続けているという。
この魔女が呼びだした存在こそがニョグサだという。

”ニョグサ”については、ケスター文庫に所蔵されるアラブの狂詩人アブドゥル・アルハザードが著した恐るべき禁断の『ネクロノミコン』に、こう記されている。

「彼の存在(もの)、世には”闇に棲む者”、旧支配者の朋の一人にして”ニョグサ”と呼ばるるもの、若しくは「在りうべからざる存在」として知れり。
彼の存在、しかるるべき秘密の洞窟または、他の裂け目あらば、そこよりこの地表に呼びい出すを得ん。
あるいはシリアの地にて、あるいはレンのぬばたまの塔の下には、その姿を目にしたる魔導師あり。
韃靼はタルタンの峡谷より彼の存在荒ぶる姿を顕現し、偉大なる汗(フビライ・ハン)の幕舎のただ中に恐怖と破壊をもたらしたると。
そを鎮めんがためには、エジプト十字架、ヴァク=ヴィラの呪文、あるいはティクゥオン霊液において他の術なし。
これによりてのみ、彼の存在自れの棲み処たる隠秘の蒸気立ちこむ暗黒の洞穴に再び追い返さんを得んか?」

このセイレムの魔女に関しては、カーソン著の小説『狂える暗黒神』を参照されたし。


それにしても、谷弘兒の筆によるクトゥルー短編作『ニョーグサ』、いやはやこれも絶品である!
この時空を捻じ曲げるかのような歪んだ画力!!
そして、幻想怪奇極まりないこの狂った構成力・・・・


谷先生は、ニョグサを「底深き妄想の沼にひそむ存在」と定義し、このショゴスもどきな神性を、もう一段高めた存在にしている。

舞台は谷ワールドではお馴染み、ある種の人々が憎しみをこめて「墓場(ネクロポリス)」と呼ぶ幻想都市の一角、「極楽横丁」。




哀れな老婆が番をする石造りの房室の鉄格子の間から洩れ聞こえる悲痛の叫び・・・・・
記憶のはるか彼方から聞こえてくるあの悲痛な叫び・・・・

それを耳にしたとたん、男はその叫び声に苛まれ、意識を失い、悪夢的な異世界へと迷い込む・・・・




そしてついに!!ありえべからざるもの、“ニョーグサ”と対峙する。




その存在は、以前より男の脳ズイの中に棲んでいたのだろうか・・・・?
男の不埒な妄想から分泌される不浄なアドレナリンを培養として肥え太ってきたのか・・・




谷先生はダテに蛸の触手を描いているのではない。
そこにはちゃんとした恐るべき邪悪な精神プラグ的機能が備わっていたのだ。




ニョーグサの精神が男の中に流れ込み、その肉体をも支配していく!!

・・・ニョグサ・・・・クヤルナク・・・・

「助けて~~~!!金田ぁぁぁ~~~!!」って、これちょっと鉄雄入ってるな。



最後に、念のため、私が所蔵する禁断の文献に掲載されていたニョグサを暗黒の洞穴に追い返すための、“ヴァク=ヴィラの呪文”と思われる文言を以下に記し、万全の備えをひいておくこととしよう。


ヤ・ナ・カディシュトゥ、ニルグリ・・・ステルプスナクナァー ニョグサ・・・・

グルナク フレゲトール・・・・

アンタガッタ・ドッコサ・・・・ニョグサ・・・・ニョグドコサ・・・・


ただ、ニョグサが谷先生が描いたような、男の精神分裂による妄想から生まれた産物のような存在ならば、この呪文もさして助けにはならず、ドグラ・マグラな無限ループ地獄に陥るほかないのかもしれない。


The Thing That Shoud Not be・・・・・
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快傑蜃氣樓

2020年05月06日 | 二酸化マンガ
昨年、魅惑の稀覯本『薔薇と拳銃』を奇跡的に入手してからというもの・・・・

無謀にも、谷弘兒先生の作品を探し求めて止まない日々を送り続けている。
初期作品は陰溝蠅兒名義で執筆なさってたというし、”兒”という字の変換の仕方もわからない・・・
いつもコピペだ。

嗚呼・・・

谷弘兒作品蒐集は、ヘタしたら私の生涯のライフワークになるやもしれない。

とにかく不出世のマイナー作家ゆえに、単行本化されてるものも少なく、もちろんほとんどが絶版で、全然出回っていないというのが現状。
まぁ青林堂から再編刊行された『薔薇と拳銃』の単行本は、まんだらけとかで探したら割と手に入りやすいかと。


今回ご紹介する谷弘兒連続活劇漫画3部作の一つ、『快傑蜃氣樓(ミラージュ)』などは、意外とAmazonや楽天で普通に購入できたりします。



本編である『快傑蜃氣樓』は、雑誌ガロに1980年9月~11月にかけて掲載された作品で、2002年に青林工藝舎から再編刊行されている。
まぁ今回も谷先生、もうどうしようもなくやりたい放題の、ひっちゃかめっちゃかな冒険活劇を無邪気に描いておられます。
ほんと、しょーがねぇな~って感じ。

『薔薇と拳銃』に比べて、エロ・グロは今回いたって控えめ。
いわゆる怪傑ゾロみたいな覆面を被った正体不明のヒーローが、悪の組織に敢然と立ち向かうお話なんですが。
いうなれば、『新青年』に載ってる昭和初期の少年探偵団的なノリといいましょうか。


舞台はやはり、横浜・港町13番地無国籍横丁。
頽廃的な者どもが集うパブ『蝙蝠亭』から物語が始まる。




パブ『蝙蝠亭』のカウンターには、やはり私立探偵ハニー・サテンが座っている。
今回も『薔薇と拳銃』の時と同じような役割(つまり大して役に立たない)。




そしてハニーがピンチの時に、必ず颯爽と現れる我らがミラージュ!
その実態とは!?

まぁ思うにハニーのストーカーというのが一番正しいかと。




それにしても、このミラージュ・・・・
キザったくヒーローぶることには全くブレない男なんだが、立ち振る舞いとは裏腹に、全編通してビックリするくらい事件を解決しないという。
谷先生は、おそらくこれ、読者を笑わそうと思って描いているとしか思えんのですよ。
特に終盤には、もうふざけてるとしか思えないB~C級SF映画ばりのドンデン返しの結末(オチ)が用意されている。

劇中いちいち挿入される怪傑ミラージュのテーマ(笑)。



で、結局谷先生は、これが一番描きたいんですよね。
そう、エロとグロが交差する阿鼻叫喚の図。


この暗黒の帝王ドクトル・アレキサンダー・サミノルフのこの恍惚の叫びこそが谷先生の声なんですね。

そして、この蛸のような触手を備えた怪獣X。
こいつは、外宇宙より隕石に乗って地球に飛来したバケモノという設定。
言わずもがな、H.P.ラヴクラフトの『宇宙からの色』、あるいは『狂気の山脈にて』をモデルにしたSFホラー映画『遊星からの物体X』を元ネタにしているのは、明白ですわな。


まぁでも、この作品をクトゥルー漫画と分類するのはいささか抵抗を禁じえない。
これといったクトゥルー用語も出てこないし、あまりにもおざなりな結末を含め、この稚拙すぎるストーリー展開には宇宙的な何かを感じ取ることはできなかった。
それに、蛸の触手が出たからといってなんでもかんでもクトゥルーものにするという安易な慣習には、もういい加減飽き飽きしている。

でも安心して下さい。
これから紹介しようと思っている同時収録のアーティスティックな短編に、なんぼでもクトゥルー神話要素が出てきますから・・・・

それは次回のお楽しみということで。


怪傑ミラージュのテーマ 最終笑。



ちなみに本書ラストに収録されている2001年作の短編作に、再び私立探偵ハニー・サテンが登場するのであるが、約20年も経っているからか、とても同一人物とは思えないキャラ設定で、まぁたいして私立探偵らしいことしてないところは一緒。




【おまけ】

当時桜井文庫から出版された初版の『怪傑蜃気楼』はなんと文庫本で(トップ写真)、同時収録されてる『女戦士セアラ』には、マンガ化された谷弘兒先生の自画像も描かれててとてもレア。
内容は、田中圭一のマンガを遥かに凌駕する変態・破廉恥ファンタジー。
ただ、画が最高にポップでかわいい。

BIG BROTHER & THE HOLDING COMPANYの『CHEAP THRILL』のジャケ画を彷彿とさせるアメコミ感が素晴らしい。永久保存モノ。


てゆーか、当時この作品を連載してた出版社てほんまあったんかいな・・・

正気の沙汰やないでしかし。
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