AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

停電

2019年03月17日 | まったり邦楽
30周年の節目の年に、なにしとんねん・・・・


ピエール瀧、コカイン使用で逮捕。


このニュースは深夜にまぁまぁのリアルタイムで入ってきて、「まさか!!」の出来事に、やはり動揺を禁じ得なかった。
正直先日のProdigyのフロントマン、キース・フリントの突然の訃報よりも衝撃だった。

だってピエール瀧といえば、もう音楽ファンだけのものではなく(大規模なツアーやフェスも控えてたのに・・・)、今じゃドラマや映画にひっぱりダコの大物俳優としても広く世間に知られる存在となっており、今年のNHK大河ドラマ『いだてん』にも、なかなかの重要役として出演してる真っ最中だった。
その業界における混乱と経済的ダメージのことを考えると、どエライことになったなぁと。


で、ソニーの対応も迅速かつ冷酷。



当然、電気グルーヴの音源の出荷停止・在庫回収・配信停止を受けて、全国から猛反対運動が展開している。
今回のソニーの措置に対して、坂本龍一氏までもが「なんのための自粛ですか?」「聴きたくない人は聴かなければいいだけ。音楽に罪はない」と、苦言を呈す動きをとっており、日本音楽界における電グルの重要さがわかろうというものだ。
まぁ過去に数々のミュージシャンや役者の覚醒剤使用発覚により、その人物が携わった諸作品が販売停止、回収される騒ぎは今までに何度も見てきた。
でもファン以外の人はだいたい「自分には関係ないから別にどうでもいいや」っていうスタンスだったと思う。

私自身電気グルーヴの作品はけっこう所持してる方だと思うが、実はそれほど熱心なファンというわけではない。
新作出たら毎回チェックしてるわけでもないし、電グルのライブを見たのは今まで3回程度。
今年の30周年ツアーにも行く予定はなかったし(たしか先週の日曜の大阪公演が最後となったんだっけ?)
ピエール瀧個人にしても、最近のライブを間近で見て(2017年のPerfume FES!!の時)それほど存在意義は感じられなかったし、ドラマ、映画に関しては基本あまり興味がないので、たまにドラマ見てて瀧の姿を見たら「あ、出てはんな」くらいのもんだった。

なので、今回のソニーの措置に対して個人的には行動を起こす気にはなれないし、賛同もしない。
ファンの人はだいたい音源持ってるだろうし、瀧の早期復帰を祈るしかないかと。
まぁまだ電気グルーヴの音楽に触れられてない方とか、聴きたい!って方はレンタル屋いったらたぶん音源手に入ると思う。


ただ、ネットで無料動画がなんぼでも見られるこの時代に、電気グルーヴの映像作品が見られないのはなんとももったいない話だと思う。
すでにYOU TUBEにたくさんあった電グルのPVはことごとく削除されたようだ。

そこで私が数ある電気グルーヴ作品の中で、中古屋かなんかで良心的な値段の内に見つけたらすかさずゲットしていただきたいのが、電グルのPV集『ゴールデン・クリップス~Stocktaking~』である。



本作は、たしか電グル結成20周年のときにリリースされたもので、1990年から2009年にかけての28曲にも渡る電グルの珠玉のPV映像が詰めに詰め込まれているテンコ盛りDVD。

にわかの私から言わしてもらうと、電グルのあのつかみどころのない狂った魅力が一番よく表れているのは、実はPVなんではないかと。
音を切り貼りサンプリングしてなんぼの世界で躍動している電気グルーヴだからこその、そういう音楽の特性を活かした編集遊びのおふざけ感満開の、実にセンスのいいクリエイティヴな映像世界が展開している。
まぁこれは、電気グルーヴの20年間の歴史を辿る意味としてもよくデキた作品だと思う。時代も感じられるし。
今回の悲しいニュースを受けて暗い気持ちになっている人も、これ見たらきっと気分が晴れるんじゃないかと。

ということで、動画は貼り付けることはできないが、その中からいくつか抜粋して紹介していこうかと思う。


「WE ARE」


高校の時、このPVで初めて電グルを見て衝撃を受けたのを今でも覚えている。
「テクノか~、趣味やないけどこいつらなんかおもろいな」と。
バブル末期の90年。破廉恥でアホっぽいその時代の空気を逆手にとったアホっぽさがいい。


「誰だ!」


ハンディカムで撮ったアホなライブシーンやプライベート映像を編集しただけのチープな作りも電グルPVの手法のひとつ。
ドリルキングでの活動も伴って、一番電気らしいケミストリーが生まれてた時代ではないだろうか。


「FLASHBACK DISCO」


これは金かかってそうなサイケデリックなPV。「シャングリラ」で儲かった後やからな。
気つけばめっちゃスタイリッシュな音楽になってた電グル。このあたりから音源を買いあさるようになる。


「VOLCANO DRUMBEATS」


これも編集遊びがハンパない。すっかり定着した電グルキャラに「アボジー!」


「Mr. Empty」


電グルはアニメーションPVもけっこうあるが、どれもこれも秀逸作ぞろい。
昭和感に満ち溢れたネタが満載で、それでいてすごくアートフルでもある。


「Cafe de 鬼(顔と科学)」


アニメの終わりの歌風PV。
ダフト・パンクの「One More Time」の百万倍センスを感じる。


「少年ヤング」


セーラー服にスケバン。とにかく80年代アイドルのカッコした女の子がいっぱいのノスタルジックなPV。
これ、ファンに扮装させてるんやろか?


「モノノケダンス」


世界初?紙人形劇PV。天久聖一はやっぱ天才。
このPVは確かSSTVで「BEST VIDEO OF THE YEAR」に輝いた。
ひとつひとつの妖怪の人形を見てるだけでも楽しい。オチがサイコー。


「Fake It!」


CG動画のいきすぎた例。はっきりいって狂ってる。
瀧というより、この映像つくったやつの方がヤクやっているとしか思えない。


「電気グルーヴ20周年のうた」


不二子不二雄風コミックスPV。
アルミ伯爵画の『前髪タラちゃん』のマンガ本、欲しい。


「Upside Down」


二十歳前後くらいの素人っぽいねーちゃんたちが自室(あるいはホテル?)にて我流ダンスをいっぱい踊りたくってるだけという、シンプルかつクラブっぽいオシャレさが出たPV。
男性はけっこう目の保養になるかと。これって募集映像もん?


このPV集を見てると、電グルの音楽ってほんと懐が深くて、持ってないカッコいい音源もあったりして、自分まだまだ追求できてないなぁと。


これらの傑作動画を本ログでお届けできないのがほんと残念でならない。
ネット上で映像くらいは残しといてあげてもいいのに・・・
どっかのしょーもないユーチューバーのバカ映像よりはよっぽど健全だと思うんだけどね。


なお、瀧の一切関わってないこのCM映像は「続ける方向で協議中」とのこと。
よかった・・・・
(まぁそれゆうたら電グルの曲でもいっぱいあると思うんやけどね)



今日の1曲:『力医師』/ 鳥゛留噛男
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ポリリズム

2019年03月10日 | まったり邦楽
ついに入手した!(去年やけど)

『ポリリズム』初回目ぇつむってしもたヴァージョン。

Perfumeの他の初回限定シングルはけっこう出回っているのに、このPerfumeの代表曲ともいえる『ポリリズム』の初回限定盤は、以前より入手困難でいまだなかなかのプレミア価格で取引されている。
リリース当時、東京ではアッという言う間に売り切れて、Perfume本人たちですら買うことができなかったとか。
地元広島とか地方にはけっこう余ってたらしいけど。

基本シングルは買わない主義なので、当時この曲にひっかかったのにも関わらず購入しようなどとは露程にも思わなかったんだが、でもこのジャケット、実にスタイリッシュでこのリサイクル識別表示マークをイメージした三位一体のポーズといい、ほんとよくできていてコレクターの性から徐々に手に入れたい願望が強くなったのは必然であったかと。


まぁPerfumeにそれほど関心のない方でも「チョコレイト・ディスコ」と、この「ポリリズム」くらいはご存知の方も多いだろう。
「ポリリズム」は、まだアイドルという存在が低迷していた2007年に満を持してリリースされ、その楽曲の持つクオリティとキャッチーさだけで多くの人間を一瞬で振り向かせた神曲と言って差し支えないPerfume躍進劇の転機ともなった重要ナンバー。
「チョコレイト・ディスコ」は実はそのちょっと前に発表された曲で、リリース当時はそれほど売れてなくて(木村カエラなどの一部の人間には認知されていた)「ポリリズム」の大ヒットにより再認識された曲だ。


私自身、12年前この「ポリリズム」の曲が起用されたNHK公共広告機構ACリサイクルキャンペーンのCMを見て、「なにこの曲?!」とビビっときてPerfumeにハマった口である。
その時はこれを歌ってるのがアイドルなのか何なのかもわからないことだらけだった。

当時からダフト・パンクとの類似性が指摘されていたが、確かにこのPVは「Around The World」っぽいな。



「ポリリズム」は、リサイクルキャンペーンソングであることにもちなんでポリエチレンテレフタラートの「ポリ」(重合体)からヒントを得た楽曲であるということもあるが、間奏部に複数のリズムを同時進行させるという音楽の技法である“ポリリズム”を導入するという、中田ヤスタカ氏の天才的で常識ハズレなアイデアが見事に功を奏した革新的J-POPナンバーであるといって言いだろう。

ただ、この中田氏の奇抜な楽曲のアイデアに対して、発表前事務所サイドからはかなりの抵抗があったらしい。
一介のアイドルユニットの曲に、そんなワケのわからない難解な音楽技法を盛り込んでリスナーがついていけるのかと。

この時の、異端児中田氏の武勇伝がカッコよすぎる。
まぁ最近でいういと、ロングヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』で印象深かった、クイーンのメンバーとレコード会社の社長が、今までにない奇抜な発想の名曲「Bohemian Rapsody」をシングルとして出すか出さないかと真っ向から対立する、あのシーンを彷彿とさせるエピソードだ。

当時のPerfumeのマネージャーもっさんの証言。


そして、シングル『ポリリズム』はオリコンチャート7位にランクインするという、結成7年目にしてこれまでにない大快挙を成し遂げる。


この「ポリリズム」の突飛な音楽技法の妙に関しては、かつてインテレクチュアル・スラッシュメタル・バンドの始祖MEGADETHのメンバーで黄金時代を築き、今ではすっかりお馴染みの日本在住外人タレントになってしまったJ-POP好きで有名なマーティー・フリードマンが、昨年アーバンギャルドの松永天馬氏とのラジオ対談で熱く語っている音源があるので、ここに紹介しておく。

181013-20【Perfume考察 2週まとめ】


最初にPerfumeのサウンドを聴いて「小室哲哉?」と思ってしまうその感性が理解に苦しむし、「Perfumeを今頃知るなんて遅いんだよ」って、オマエも常に邦楽チェックしてた割に「Baby cruising Love」が初めてって気づくの遅いやろ!ってつっこみたくなったが、マーティーがここまでPerfume好きとは知らなかった。
やはり彼もJ-POPの曲にこんな変拍子を駆使した複雑でプログレッシヴな音楽技法を取り入れるなんてヘンタイだ!みたいな、ミュージシャンならではの視点でこの楽曲を評価している。

私自身、まぁキング・クリムゾン好きってのもあって“ポリリズム”という技法はアルバム『Discipline』などで学生の頃から馴染みはあった。
だからそういうプログレッシヴな観点でPerfumeのことを好きなんだと思われがちかもしれない(自意識過剰?)。
ただ、私が最初Perfumeの「ポリリズム」にビビっときたのはACのCMでだったというのはさっきも言った通りで、CMではあのポリってる部分はハショられている。
つまり「ポリリズム」は、サビメロの部分だけでもリスナーを一瞬で振り向かせられる十分な魅力を持った、二重にも三重にも優れた名ポップナンバーなんだということ。

“ポリリズム”を導入し、「肉体的な鍛錬をした者しか演奏できないような高度な音楽でありながら踊れる音楽にもなる」というコンセプトの元に、80年に再びメンバーを招集して制作されたフリップの勤勉で変態的な人間性が爆発した異色作『Discipline』。


ちなみに私の周りにもプログレ好きは何人かいるが、歌い上げない軽めな歌唱の女の子3人によるダンスユニットという形態、生楽器で演奏しない打ち込みで作られた電子サウンドに対して寛容でない彼らがPerfumeの楽曲を受けいれることは、まずない。


Perfumeの楽曲の魅力はいろいろあるけど、やはり中田氏の紡ぎ出す軽やかで良質なポップサウンドに、彼女たちの決して前に出すぎない声音が乗っかるという絶妙なバランスの耳心地の良さにあるかと。
マーティーは自身のギターアルバムで「ポリリズム」をカヴァーしていて、この複雑構成な楽曲を己のギターテクで弾きこなすという挑戦の意味でもあったらしいけど、ハッキリいってこの曲をギンギンにメタリックに表現しようなんてのはナンセンスにもほどがあるし聴く耳が持てない。
Perfumeの大ブレイクをキッカケに、メタルとかハードコアとかをアイドルにやらせるという「型破りでしょ!」っていう鼻息の荒いユニットが、それこそゴミみたいに世の中に溢れだしたし、今じゃアイドルがプログレッシヴな楽曲をやることなんて珍しくもクソもなくなった。


Perfumeの、現在の他とは次元の違う確固たる地位があるのは、その他大勢みたいに時代に寄せるのではなく、中田ヤスタカ氏の「自分がカッコいいと思えるもの」「単純にいい曲を作りたい!」という、天然ともいえる音楽に対しての実直さと熱意、そして、アイドルとかテクノポップとかの前に、事務所の仕掛けとか選抜ではなく、自らが結成し小学生の頃から築き上げてきた(これはかなり稀なケースであるが)この3人でPerfumeをやり続けるという彼女たちの固い絆と強い意志とが、見事に合わさったからではないかと。
(だから他のユニットみたいに誰かが抜けるなんてことがない)

それをあたかもこの『ポリリズム』のジャケットが示しているようではないか。





今日の1曲:『ポリリズム』/ Perfume
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蠅兒と幻想

2019年03月03日 | ルルイエ異本
さて、最近ようやく存在を認知した谷弘兒のマンガについて、3回にも渡ってお送りしているワケでございますが・・・
まぁそれだけ彼の作品にハマったってことです。

で、今回は青林堂から刊行された『薔薇と拳銃』の単行本に収録されていたその他の5編もの短編マンガについて。
私が思うに、谷弘兒の画の真骨頂は、実は短編にあるのではないかと。

中編『薔薇と拳銃』では、諸星大二郎と漫☆画太郎を足したような、グチャグチャとしたコミカルでちょっと雑い画風だったのに対し、短編では実にアーティスティックで怪奇と幻想を極めた芸術作といっていいほどのクオリティを誇っている。

これだけの想像力と画力を備えていながら、諸星大二郎や丸尾末広ほどメジャーにならず、マイナー作家の地位に留まっているのが不思議でならない。
まぁたしかにポップさはないし、扱っているテーマが偏りすぎているかもしれないが。


谷氏は時折、『薔薇と拳銃』に出てくる主人公の名であった「陰溝蠅兒(かげみぞようじ)」を作者名として名乗ることもあったみたいだ。
そこがまた、彼をマイナーで謎めいた作家に仕立て上げたのかもしれない。
“蠅”というアイテムがとてもお気に入りのようだ。


『夜の蛇使いあるいは眼を盗む男』





『盲時計』の幻惑的な画も秀逸。これも最終的に眼を盗む話。





『怪人・蠅男/妖夢の愛液』は、本書収録の短編の中で一番の傑作といってよいだろう。





暗黒惑星”ヒィアーデス”に漂う無定形の精神体を主人公とした幻想物語で、もうこの設定だけでクトゥルー愛読者にはたまらない!




かの水木しげるもビッグコミック創刊号掲載の物語で扱っていた妖夢の花「アルラウネ」が中盤でからんでくる。
夢のなかで女体と怪植物とが絡み合う幻想的でエロティックな画は秀逸。

で、中編『薔薇と拳銃』に女城主あるいは魔女として登場したキルケが、この物語では心霊生理学者キルケ博士として再登場。
やはり彼女は時空を超越した存在なのかもしれない。





本書ラストを飾るのは、企画モノ『摩天楼の影』。
ずばりH.P.ラヴクラフト本人が登場する本格派クトゥルー神話もの。




これは、1987年に刊行された『別冊幻想文学2 クトゥルー倶楽部』に谷氏が新たに書き下ろしたもので、20世紀のニューヨークを舞台に、HPLとウィルバー・ウェイトリーとの邂逅を描いた、なんとも異界的で眩夢的なコズミックワールドが展開している。




HPLが、人間と異界からの存在との混血児ウィルバーの取引と導きにより、驚異的な宇宙恐怖の深淵を垣間見るに至るその有様が、谷氏の邪神がかった圧倒的な画力によって見事に描き出されている。




幻想の摩天楼から、非ユークリッド幾何学様式の石造都市へと・・・



水木しげるの『地底の足音』、諸星大二郎の『栞と紙魚子』シリーズ、魔夜峰央の『アスタロト外伝』、室山まゆみの『とびきり特選あさりちゃん(気分はホラー)』、田邊剛の『魔犬』・・・・etcと、様々なマンガ家によるクトゥルー神話ものの稀覯書を入手しては目を通してきたが、谷弘兒氏の怪奇性と幻想性溢れる異次元の画は、これまでで最高峰にあたるといっていい。

まさに理想的な形で、クトゥルー神話のヴィジュアル化を成し得た類稀なる作家であると。


先週、希少な『薔薇と拳銃』を発掘した日の夜、真っ先にニンギジッダ通信(Twitter)に谷氏の画を添付しつぶやいたところ、クトゥルー好きの方々からかなりの反響があって、その中には暗黒神話の権威であられる東雅夫先生(『クトゥルー神話辞典』等を編纂)などからも反応をいただいた。


谷氏の近年の仕事としては、外国人作家の幻想小説(いずれも絶版)の表紙絵を2、3作手掛けられたということが判っている。
もしまだ御存命で創作活動できる状態であるなら、関係者は是非もっとクトゥルー神話に関する画を谷氏に依頼してほしいと、切に願うばかりである。


ヨグ・ソトホース・・・・・

 


今日の1曲:『Beelzebub』/ Bill Bruford
コメント (3)
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薔薇と拳銃

2019年03月02日 | ルルイエ異本
谷弘兒氏の『薔薇と拳銃』・・・・

いやぁ~ここ数年来、久々の掘り出し物の稀覯書をゲットできたと、悦に浸っている。
まぁ今回入手したのは、1993年に再編され青林堂から刊行された単行本で、少なすぎる情報をかき集めたところ、おそらくマンガ雑誌『ガロ』に1980年くらいから連載されて単行本オリジナル版は1983年頃に刊行されたかと思われる。
本書の中身の内容とはほとんど関連性がないような幻想的なカバーデザインは、1993年再編されるにあたって谷氏が新たに書き下ろしたものかと思われる。


まずは本編、空想探偵漫画『薔薇と拳銃』。
絢爛豪華な登場人物紹介の扉ページからワクワク胸躍らされた。



「全ての人間は多刑態的に倒錯している。すなわち多くの点で可能的に異常なのである」

という、倫理観なしにしてまことに真理をついたかのような前文句で幕を開けるこの『薔薇と拳銃』、想定以上にエログロナンセンスを極めた異常にしてド変態な世界が展開していて最初はかなりひいた。

画のタッチは、まず諸星大二郎が頭に浮かんだが、そこに漫☆画太郎のようなオゲレツ感が炸裂していて、丸尾末広以上にエログロ描写がストレート。
正直作者の日頃の「頭おかしいんちゃうか?」というくらいの常軌を逸した妄想、その精神構造を疑ってしまう。しかもそれを思いっきり絵で曝け出しているところが凄まじい。

全体の話の流れは、主人公の探偵陰溝蠅兒がひとりの女(畸形淫婦)を悪の組織から救出するために奮闘するハードボイルドヒロイック活劇という体裁をとっているのだが、作者が本作で渾身の力を込めて描いているのは、悪の組織の女城主マダム・キルケが営む秦の始皇帝の阿房宮ばりの淫欲と畸形の宮殿内で行われている変態たちとフリークどもの酒池肉林の図であるとしか思えない。
そういった変態どもの跋扈する宮殿内の仕組みをこと細かく解説してるところがなんとも偏執的で、まぁ本編はいわゆる世にも淫らな変態図鑑といったところか。


どのページ開いてもエログロすぎるので、ここで紹介できるのはこれが精一杯。



谷氏の画は、とにかく青木雄二ばりにスクリントーン使わずの背景がおもしろい。
物語の最初の舞台となる無国籍横丁の退廃的な街並みが細かく描かれていて、壁に貼られているポスターなど、実に読者の目を楽しませてくれる。



で、ガイドブック『本当に恐ろしいクトゥルフ神話』に関連作品として紹介されていた本書であるが、どこにクトゥルー神話要素があるのかと最初薄目がちにサラーっと読んでたのでわからなかったが、このシーンを見逃していた。

女城主マダム・キルケの側近中の側近ソルティ・ブラウン・シュガーが使う必殺技、それが九唐流骸之魅剣(クトウリュウムクロノミケン)だ!!



そしてマダム・キルケの謎めきすぎる正体。
このセリフまわしからして、キルケはおそらくナイアルラトホテップの化身ではないかと。



結局女賊マダム・キルケは捕縛されることなく忽然と姿を消して物語は終わる。
冒頭に「第一部」とあるので、作者はおそらく三部作くらいの壮大な物語を構想していたのであろう。
が、今のところ続編が描かれたという様子も情報もない。


本書には他、5作品の幻想を極めた短編も収録されてて、一度に紹介するのはあれなので、また次回ということで。




今日の1曲:『Mr.Brown Stone』/ Guns 'n' Roses
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