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「本屋さんで待ちあわせ」 その23 三浦 しをん

2018年01月05日 00時02分28秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その23 三浦 しをん  大和書房 2012年

 希望が生まれてくるところ その2
 ――『花宵道中』宮木あや子・著(新潮社/新潮文庫) P-162

 だがなにより素晴らしいのはやはり、登場人物の内面に注がれる作者の眼差しだ。
 たとえば一話目の「花宵道中」では、朝霧という遊女の燃え上がる恋と哀しみのすえの選択が描かれる。彼女が選んだ凄絶な、けれど強さを秘めた結末に、私は人間の真実を見て涙した。ところが、三話目の「青花牡丹」において、朝霧が恋した男の心が明らかになる。思いを通じあわせた両者のあいだに、実は大きな断絶が横たわっていたことが、残酷なまでに淡々と語られていく。ひりつく痛みと虚無を、慄然と感じぜずにはいられない。しかしそれもまたたしかに、人間の真実の一面なのである。

 作中で救いが明確に描かれることはない。人間に心があるかぎり、生きても死んでも、私たちを完全に満たしうる救いなど訪れようもないからだ。だが、希望は描かれる。

 登場する女性のほとんどが、貧困にあえぐ村と吉原のなかしか知らない。「外」の世界を空想するよすがすら与えられていないのだ。それでも彼女たちは希望を抱く。諦念の泥沼に沈みそうになりながら、それでも自分自身の喜びと希望を力強く胸に抱く。