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「日本語の学校」 コラム その4 鴨下 信一

2016年10月10日 00時13分27秒 | 朗読・発声
「日本語の学校」 声に出して読む<言葉の豊かさ> 鴨下 信一 平凡社新書 2009年

 コラム その4 P-134

 呼吸を整えて――まだ台本は開けられない(2)

 客席に正対せずに、少し角度(アングル)をつけて立つなり座るなりする。こうした姿勢をとると、どちららの足が自然と引かれる。いわゆる半身になる。これがいいのです。これで下半身に力が入る、相撲と同じで足がそろうと力が入らないので投げ飛ばされる。両足をそろえたらとび上がれない。朗読や演技にはスポーツとの共通点が多いのです。
 ずっと同じ姿勢で朗読をしていると、すごく疲労するもの。どちらか片足を引くなり前に出すなりしておくと(オーバーに引いたり出したりしないのはもちろん)、体重が片足だけにかかる。その足を交替させてゆけばいいのです。実は皆さん無意識のうちにやっているはず。当然、意識してやったほうがいい。
 ただ、読みはじめは両足がそろってないと、妙に崩れた姿勢に見えてよくない。少し朗読が進んでから、自然にわからないように楽な姿勢にする。
 朗読をする時、身体のどの部分に注意すればよいか。コルところです。マッサージされて気持ちのよいところ。肩・首筋。足の裏。
 いまの足の位置も足の裏に属する注意点ですが、ぜひ覚えておきたいのは、足の親指に力が入るような靴なり履物を履くこと、これです。
 着るものは、あれがいいこれがいいというくせに、靴・履物はいいかげんですね。ぼくはこちらのほうがずっと大事だと思いますよ。足に力が入らないと、本当に<声が出ない>。そして見た目、<姿勢>が悪くなる。
 靴はキツくて硬いのは損、履物の鼻緒は緩めておく。だいたい履き慣れたものがいいのだけれど、その場合は<裏>をちゃんときれいにしておく。意外と舞台では裏が見えることがあるのです。観客が下から見上げていることを忘れないように。特に靴の<横>の部分はきれいにしておくこと。
 もう一つ、肩の使い方にもコツがある。たとえば舞台に立っていきなり呼吸が困難になったような気になることがある。
 こんな時には、両方の肩甲骨(貝がら骨)をくっつけるような動きを二、三度やるといい。肩の固まったのがホグれます。呼吸もラクになる。これなら客席から見えない(肩を上下させるとわかってしまいます)深呼吸などよりずっといい方法です。
 読み出す前の注意はこんなところです。もう本を開いてもいいですよ。