このブログへのコメントで,やっぱりビジネス弁護士には憧れますとか,渉外弁護士は儲かると思っている人が多いとかいう声がありましたが,こういうコメントを読んでいると,塩野七生さん風に言えば「思わず微苦笑を禁じ得ません」。
黒猫のオリジナルはクレサラ弁護士であり,ビジネス系でも渉外系でもありませんが,別に同期でそれらの方向に進んだ人をうらやましいとはあまり思いません。
その理由を話す前に,黒猫が,これまで「渉外系」「ビジネス系」に進んだ弁護士について聞いた話をいくつかご紹介します。なお,いずれも再々伝聞くらいの話であり,しかもネタばれ防止のため事案をデフォルメしてあるので,「実際にありがちな話だけどそれ自体はフィクション」の話として読んで下さい。
<ケース1>
某証券会社に勤務していたAさんは,毎日決算書類のチェックばかりしている証券会社の仕事が嫌になり,弁護士を目指して司法試験の勉強を始めた。司法試験は見事に合格し,司法修習を経て大手渉外事務所に就職したが,その後A弁護士は友人にこう漏らしたという。
「せっかく弁護士になったのに,やってることは証券会社時代と変わらないよ・・・。」
どうやらM&Aの仕事をやっているらしいのですが,実際に若手弁護士がやる仕事は,決算書類のチェックなど下働きばかりのようです。
<ケース2>
司法試験に一発合格を果たしたBさんは,司法修習を経て意気揚々と渉外事務所に就職しましたが,そこでの仕事は来る日も来る日も契約書の翻訳ばかり。たまりかねて独立したものの,事務所の経営はうまく行かず,やがて非弁の事件屋に事務所を乗っ取られることに・・・。
ちょっとやばい事案なので,これ以上の詳細についてはコメントしません。
<ケース3>
東京の某有名大学を出て弁護士になったCさんは,当時急成長を遂げていた某大手渉外事務所に就職したが,同期の弁護士(渉外系でもビジネス系でもない個人事務所勤務)がCさんに具体的な仕事の内容を聞いてみると,中小企業の社長さんからの相談だったり,刑事の国選やってたりで,自分とあまり変わらない内容だったので安心したという。その後Cさんの勤務する事務所は分裂し,Cさん自身はその前に転職してしまった。
1 渉外事務所の仕事
ここから本題に入りますが,色々な人から話を聞いている限り,まず渉外事務所の仕事はすべてが国際系というわけではなく,国内の仕事も相当数やっているのが通常です。そして,企業法務だけでなく普通の訴訟業務をやっている事務所もあります。
ビジネス弁護士に憧れる人というのは,おそらく企業法務に憧れているのでしょうが,訴訟に関係しないM&Aなどの企業法務の場合,若手の弁護士がやる仕事の大半は,ケース1及びケース2のような単なる下働きです。大手渉外事務所で弁護士の求人数が多いのも,下働きの弁護士に人手が必要だからです。つまり,弁護士の肩書きが必要でも,やることはあまり一般企業と変わらないのが企業法務という分野なのです(企業のコンサルティングをやったり,企業がやるべきことの一部を請け負ったりするのが企業法務ですから,まあ当然といえば当然ですが)。
もちろん,事務所の中でもっと格上になればきらびやかな表舞台に立てるかもしれませんが,それは毎年何十人も採用される新人弁護士のうち,競争で淘汰されて残った何分の一か。某大手法律事務所では,採用する側も「3分の2くらいは途中で辞めていく」ことを前提に採用人数を決定しているそうです。
2 勤務環境及び待遇
渉外弁護士の仕事は毎日苛酷な下働き労働の繰り返しであり,毎日夜中まで仕事をさせられるところも珍しくありません。しかも法律の専門家の職場であるにもかかわらず,法律事務所では労働基準法などきちんと守っているところの方がむしろ稀です。
給料の水準は,一般の会社員よりはいくらかましだと思いますが,事務所によってかなり格差があるらしく,年収600万円どころか500万円にも満たないかなりの低賃金で酷使されている人も多いと聞きます。しかも経営者の弁護士には気まぐれな人や変な人が多いためか,経営者同士のいさかいで事務所が分裂したり,独立を勧められ体よく追い払われたり,さらには事務所自体が破綻してしまうケースなどもあり,職場としての安定性は芳しくありません。
私が見聞きして知っている「ビジネス弁護士」の実態というのはこんなところであり,どう考えてもそれほど魅力のある分野だとは思えません。もちろん,一部には成功して年収何千万円ももらっている弁護士もいるわけですが,そのように成功する確率というのは,弁護士になるまでの労力と費用を考えれば,おそらく普通に大手企業に就職して出世を目指した場合の確率や,自分で起業した場合の確率に比べ,それほど高いとはいえないと思われます。
特に,これからは弁護士の人数が国策によって爆発的に増やされてしまい,弁護士という集団は特権階級でも何でもなくなってしまうので,わざわざ弁護士になって一般企業の仕事と変わらない企業法務の仕事をしたいという人がいたら,「面白いことを言う人だ。そんなことをして一体何のメリットがあるのか。」とつっこみを入れざるを得ないように思われます。
黒猫のオリジナルはクレサラ弁護士であり,ビジネス系でも渉外系でもありませんが,別に同期でそれらの方向に進んだ人をうらやましいとはあまり思いません。
その理由を話す前に,黒猫が,これまで「渉外系」「ビジネス系」に進んだ弁護士について聞いた話をいくつかご紹介します。なお,いずれも再々伝聞くらいの話であり,しかもネタばれ防止のため事案をデフォルメしてあるので,「実際にありがちな話だけどそれ自体はフィクション」の話として読んで下さい。
<ケース1>
某証券会社に勤務していたAさんは,毎日決算書類のチェックばかりしている証券会社の仕事が嫌になり,弁護士を目指して司法試験の勉強を始めた。司法試験は見事に合格し,司法修習を経て大手渉外事務所に就職したが,その後A弁護士は友人にこう漏らしたという。
「せっかく弁護士になったのに,やってることは証券会社時代と変わらないよ・・・。」
どうやらM&Aの仕事をやっているらしいのですが,実際に若手弁護士がやる仕事は,決算書類のチェックなど下働きばかりのようです。
<ケース2>
司法試験に一発合格を果たしたBさんは,司法修習を経て意気揚々と渉外事務所に就職しましたが,そこでの仕事は来る日も来る日も契約書の翻訳ばかり。たまりかねて独立したものの,事務所の経営はうまく行かず,やがて非弁の事件屋に事務所を乗っ取られることに・・・。
ちょっとやばい事案なので,これ以上の詳細についてはコメントしません。
<ケース3>
東京の某有名大学を出て弁護士になったCさんは,当時急成長を遂げていた某大手渉外事務所に就職したが,同期の弁護士(渉外系でもビジネス系でもない個人事務所勤務)がCさんに具体的な仕事の内容を聞いてみると,中小企業の社長さんからの相談だったり,刑事の国選やってたりで,自分とあまり変わらない内容だったので安心したという。その後Cさんの勤務する事務所は分裂し,Cさん自身はその前に転職してしまった。
1 渉外事務所の仕事
ここから本題に入りますが,色々な人から話を聞いている限り,まず渉外事務所の仕事はすべてが国際系というわけではなく,国内の仕事も相当数やっているのが通常です。そして,企業法務だけでなく普通の訴訟業務をやっている事務所もあります。
ビジネス弁護士に憧れる人というのは,おそらく企業法務に憧れているのでしょうが,訴訟に関係しないM&Aなどの企業法務の場合,若手の弁護士がやる仕事の大半は,ケース1及びケース2のような単なる下働きです。大手渉外事務所で弁護士の求人数が多いのも,下働きの弁護士に人手が必要だからです。つまり,弁護士の肩書きが必要でも,やることはあまり一般企業と変わらないのが企業法務という分野なのです(企業のコンサルティングをやったり,企業がやるべきことの一部を請け負ったりするのが企業法務ですから,まあ当然といえば当然ですが)。
もちろん,事務所の中でもっと格上になればきらびやかな表舞台に立てるかもしれませんが,それは毎年何十人も採用される新人弁護士のうち,競争で淘汰されて残った何分の一か。某大手法律事務所では,採用する側も「3分の2くらいは途中で辞めていく」ことを前提に採用人数を決定しているそうです。
2 勤務環境及び待遇
渉外弁護士の仕事は毎日苛酷な下働き労働の繰り返しであり,毎日夜中まで仕事をさせられるところも珍しくありません。しかも法律の専門家の職場であるにもかかわらず,法律事務所では労働基準法などきちんと守っているところの方がむしろ稀です。
給料の水準は,一般の会社員よりはいくらかましだと思いますが,事務所によってかなり格差があるらしく,年収600万円どころか500万円にも満たないかなりの低賃金で酷使されている人も多いと聞きます。しかも経営者の弁護士には気まぐれな人や変な人が多いためか,経営者同士のいさかいで事務所が分裂したり,独立を勧められ体よく追い払われたり,さらには事務所自体が破綻してしまうケースなどもあり,職場としての安定性は芳しくありません。
私が見聞きして知っている「ビジネス弁護士」の実態というのはこんなところであり,どう考えてもそれほど魅力のある分野だとは思えません。もちろん,一部には成功して年収何千万円ももらっている弁護士もいるわけですが,そのように成功する確率というのは,弁護士になるまでの労力と費用を考えれば,おそらく普通に大手企業に就職して出世を目指した場合の確率や,自分で起業した場合の確率に比べ,それほど高いとはいえないと思われます。
特に,これからは弁護士の人数が国策によって爆発的に増やされてしまい,弁護士という集団は特権階級でも何でもなくなってしまうので,わざわざ弁護士になって一般企業の仕事と変わらない企業法務の仕事をしたいという人がいたら,「面白いことを言う人だ。そんなことをして一体何のメリットがあるのか。」とつっこみを入れざるを得ないように思われます。
大変興味深いエントリでした。
うちのロースクールに来ている先生は
「もうそんなに要らないよというほど
仕事が来て困っている」
「今は儲かって儲かってもうどうしようも
ないほど仕事が舞い込んでくる」と
おっしゃっていたので、ちょっとビックリ
です。
また、最近は女子大生にも大規模法律
事務所が人気で、秘書やパラリーガルに
なりたいという学生が殺到するという話を
聞いていて、
その先生は
「この世をば、我が世とぞ思う、・・・」
というフレーズを酔っ払った時におっしゃ
っていたので、黒猫先生の話を聞いていて
驚きです。
私のローでは「儲けたい人は渉外」という
ことはほぼ「定説」で争いすらない状況で、
友人は今の段階で既に、渉外弁護士に
なったら乗る車の話や、どこの億ションに
住むかという話で盛り上がっていて、
鼻息の荒い人はみな渉外弁護士を目指して
います。
昔の見合い相手が、こういう渉外事務所に勤務する外弁だったんですが、書かれていたことと同じことを言っていました。
その時聞いた話では、米国ロースクールの女子学生も『アリーmyラブ』のイメージで入ってくるが、ローファームの実情に愕然とするそうです。
いわゆる大企業を辞めて、弁護士を目指している変わり者です。
ロースクールの中には(特に新卒の人)、「渉外命」のような方が多数見受けられますが、待遇の良さにだけに目が行っていて、その逆サイドの仕事の過酷さやつまらなさは全く考えてない人が多いようです。
アソは雇用だと思うんだけどね
「儲かってしかたがない」という人がいても必ずしもウソではないと思いますが「いまは『儲かってしかたがない』が、1年後にこの風がやんだらどうしようか」と考えていればそれだけで上出来、考えてその先が見えている人はごくわずか、考えていない人ならアホです。
徹夜上等の若者を大量採用しますが、早期退職者や、いくら徹夜しても能力がなく組織にしがみついているだけの若者が相当割合含まれていることは覚悟の上です。適性も確認できない段階で採用活動をせざるを得ないのだからしかたがありません。
それでも事務所が拡大傾向にあるうちは、余剰人員の問題は顕在化しないので、みな「オレ様」のつもりですが、事務所が合併・分裂などで再編されるときは、上司は有能な部下しか連れて行かないので、明暗がはっきりと分かれます。
ちなみに、大手事務所ほどアソは雇用契約と言わざるを得ない状況。まがりなりにも就業規則を作っている事務所もあるようです。
パートナーは、クライアントを下に引き継いでいこうという意識もなく、自分でクライアントを獲得しながら、パートナーへの道を模索していかなくてはならないと、悩んでおりました。
私は、田舎で仕事をしており、生活には困らない程度の収入は得られていますが、それでも「来年も今年ぐらい売上げがあるかなぁ。」と不安は感じます。
商売としては、いい仕事ではないですね。
今の大規模な渉外事務所において上に立っている人が弁護士を始めたころ、そういう人がそういう仕事をたくさんやっていたのか、非常に疑問。
いわゆる渉外事務所にいながらM&Aに触れずに仕事をしていられるからかもしれないけど、そう思う。
ちなみに、僕のところでは、アソは実質雇用。
でも、個人事業主で、労働者としては扱われないのだ(笑)。
>業界人
自分もどうやれば生き残るか考えておきます。多分想像を超えた過酷さでしょうが。
気合い・根性だけじゃだめですが。
今は東京市場のバブルなんですよね。バブル崩壊後の市場縮小時に事務所・個人としてどう生き残るかがポイントな気がする。