黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

鎌田委員の詭弁にあきれる。

2013-04-28 20:12:49 | 法科大学院関係
 昨日から風邪を引いてしまったので,今回はあまり長い記事は書けません。執筆に結構手間の掛かる『僕は依頼者が少ない』シリーズの続きは,勝手ながらしばらく延期させて頂きます。

 ところで,法曹養成制度検討会議については,第11回会議の議事録が公開されました。
http://www.moj.go.jp/content/000110216.pdf
 第11回会議は,いわゆる中間的取りまとめの座長私案に関する議論が行われた会議で,約3時間にわたり結構白熱した議論が行われたようです。和田委員や田島委員など,検討会議の中では少数派になってしまっている委員もずいぶん頑張ったんだなあという印象を受けます。
 ただ,議事録の中で最も強く印象に残ったのは,鎌田委員のこの発言です(議事録19頁参照)。

「しばしばこういう場で法科大学院の立場で話をすると,法科大学院擁護という前提で必死になっているといった受け止め方をされるかもしれませんけれども,私は元々法科大学院制度には反対でございましたので,法科大学院に対する批判もそれなりに理解はしているつもりです。しかし,そうはいいながら,司法制度改革審議会の意見書があり,それを踏まえて閣議決定あるいは国会での審議を経て新しい理念の下での全く新しい法曹養成システムができたわけでありますから,我々大学人といたしましては,その制度ができた以上,そしてまたその新しい理念の法曹を目指して多くの学生が集っている以上,最大限の効果を発揮するような教育をしていかなければいけない。(後略)」

 実際,鎌田委員(鎌田薫早稲田大学総長,法科大学院協会理事長)は,『ロースクールを考える』という書籍の中で,ロースクール構想について次のような批判を展開されているそうです。
<参照:武本夕香子先生のブログより>
「法曹養成検討会議鎌田委員の意見」
http://www.veritas-law.jp/newsdetail.cgi?code=20130310223120
「『ロースクールを考える』(成文堂)鎌田薫委員執筆部分」
http://www.veritas-law.jp/newsdetail.cgi?code=20130311093339
「『ロースクールを考える』鎌田委員執筆部分その2」
http://www.veritas-law.jp/newsdetail.cgi?code=20130313134710

「このままの勢いでロースクールの創設に向けて突き進んでいくことには、大きな懸念を抱かざるを得ない。少なくとも今後数十年の法学教育や法律家のあり方を決める大改革である割には、教育目標や教育内容等の具体的な部分での議論が不足しているように思われる。」
 「実際問題としても、ロースクール構想は、「プロフェッションとしての法曹(裁判官、検察官、弁護士)の質と量を大幅に拡充する」ための中核的な手段とされているのであるが、全国に存在する法学研究者の数やロースクールを設置するための経費などを考えると、これによってそれほど多くの法曹を養成できるようになるとは思われない。また、少なくとも「中間報告」や「意見書」の提案する程度の教育内容で現在よりも優秀な法曹が大量に養成できるようになるとも思われない。それに対して、ロースクールの設置に伴って国庫や学生の課される財政的な負担は現状よりはるかに大きなものになると予想される。それらを総合して一言に要約するならば、「期待される成果に比べて、あまりにも負担が大きすぎる」ということができるであろう。こうした国民的な負担を考えるならば、ロースクールを作ることをやめるか、それを作ること自体は否定しないまでも、ロースクールを修了することを法曹になるための不可欠の条件とすることは避けるのが賢明であるように思う。それよりも、法学部教育の充実、司法試験の実施方法の改善」「実務修習体制の一層の拡充」「を図った方が、はるかに安価で効果的に良質な法学教育を実現し、法曹になるための門戸も大きく広げることができるように思う。」

司法制度改革審議会の提言や、その前提となった文部省(現文科省)内の検討会議が提案する内容で、その目標を達成できるとは考えられない。
「おそらく、学生のために骨身を削って教育をしている民法学者で、これだけの授業で、今よりも優秀な法曹を数多く排出できるようになると考えている人は皆無に近いと思う。」
「成文法主義をとり、判例・学説等も法典の体系に従って分類整理されている我が国において法律実務を行うためには、法体系の構造を理解し、その体系に沿った思考様式を身につけることが不可欠である。たった8単位の対話式授業で、民法全体について法曹として独り立ちするのに十分なほどに体系化された法的素養を身につけさせることは、絶対に不可能である。
 「ロースクール構想の核となっている標語に「公平性・開放性・多様性」というものがある。」「しかし、」「ここでいう「公平性・開放性・多様性」は、ロースクールに入る際に保障されているだけであって、司法試験については保障されていない。(原則としてロースクールを修了しないと司法試験を受験できない)のであるから、場合によっては、法曹界への途を狭めることにもなることに注意しなければならない。その最大の要因は学費その他の経済的負担の問題であるが、それだけにとどまるわけではない。」
法学部出身者にとっては、現状よりは期間を長期化させ、経済的負担を増大させる制度であり、それを理由に法曹への途を断念する人も出てくる可能性がある。
「すべての法学部は、積極的にであれ、消極的にであれ、ロースクール構想に載らざるをえないことになる。基本的にはロースクール構想に反対である大学も、そのほとんどが、もしこの構想が実現するならロースクールを設置せざるをえないと考えている。」
「ロースクールを新設するためには文部科学省の認可を得なければならないし、設置・運営にかかる膨大な経費等を考慮すれば大幅な国庫補助も期待しなければならなない。」
「ロースクール構想に反対の意見を表明することによって、損をすることは大いにありうるが、得をすることは一つもない。こうして、全国各地の大学法学部は、好むと好まざるとにかかわらず、その生き残りをかけて、あるいはさらなる発展を求めて、何はともあれ他に先んじてロースクールの設置に向けた積極的な姿勢を示すことを余儀なくされ、反対の意思を表明する大学は一つもでてこないこととなったのである。しかし、こうした大学側の対応は、もっぱら大学の都合を最優先に考えたものであり、国民にとって何が最善かとか、法律学と法学教育の将来像はいかにあるべきかという観点から慎重に考えて出された結論とはいうことができない。


 実際,鎌田委員が指摘していたとおり,法科大学院制度によって学生や国庫の経済的負担は以前よりはるかに大きなものとなり,学費その他の経済的負担により法曹界への途が狭められ,それほどの負担を背負っても法科大学院の教育効果はさしたるものではなく,いまや法科大学院修了者よりも予備試験合格者の方がエリートとみなされる状況になっています。
 このような記述を踏まえて鎌田委員の発言内容を読み返すと,要するに鎌田委員は「もともとロースクール構想には反対であり,法科大学院制度が司法審の意見書どおりに行かないことは最初から分かっていたが,自分の立場上大学の都合を最優先に考えるしかないので,法科大学院擁護という前提で必死になって発言している。国民にとって何が最善かとか,法律学と法学教育の将来像はいかにあるべきかという観点からの発言ではない」と主張しているものと理解するしかありません。
 政府の有識者会議で委員を務めるような人にはろくな人がいないとも言われますが,平然とこんな趣旨の発言をする人間を,有識者会議の委員として放置してよいのでしょうか。

27 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-04-28 21:26:14
鎌田先生、正直すぎます・・・。
きっと、その通りだと思います。
根は、悪い人じゃないんでしょうか、ちょっと空気を読めないというか象牙の塔の中の人っぽいですね。

まあ、相棒の方よりは、マシかもしれません。
Unknown (Unknown)
2013-04-28 21:58:35
制度が走り出したら制度への適応を最優先する典型的日本人。むしろ空気読みすぎてフラフラする結果になったかと。
Unknown (ひとこと)
2013-04-28 22:52:27
学問の研究者なら、自分が真実と信じていることを発言するべき。そのための学問の自由であり、大学教員の身分保障でしょう。
Unknown (Unknown)
2013-04-28 23:21:19
過去の戦争回避発言が記録上明らかで,「早期終結」に協力すれば戦犯処罰から免れる資格が十分あるっていうのに…体制と心中する気ですね,この人。むしろ潔い。ただ,来たるべき東京裁判で「俺は最初からこう言ってたんだ」なんて見苦しい申立てはせずに,広田弘毅みたいに文句があっても完全黙秘してくだいよ。
Unknown (Unknown)
2013-04-29 01:59:23
ま、大学教授だって仕事でやってるんだから、そんなもんでしょ
Unknown (Unknown)
2013-04-29 03:42:08
でもデメリットの指摘は的確ですね。
Unknown (Unknown)
2013-04-29 09:00:43
学生は新しい法曹の理念なんかに魅かれてきた訳では無いでしょ
Unknown (ひとこと)
2013-04-29 09:27:25
通常、学者が審議会委員になるときには、中立的な立場から公平な意見を述べる学識経験者として委員になりますね(実態はともかく、建前上は)。
利害関係者の立場から発言するのは、学者の仕事ではないんじゃないでしょうか。
Unknown (ぐーたん)
2013-04-29 20:28:57
鎌田委員は自分の身がかわいくてそのような発言をしているのではなくて、これだけ金をかけて制度を変えた上ロースクールに入学して今も通っている生徒が多数いるのに、全部間違いでしたすぐ潰しましょうというのはあまりにも無責任だし生徒にとっても大きな混乱を招くという趣旨じゃないですかねえ。
いつも黒猫さんのブログを読んで思うのは、ちょっと意見が極端で揚げ足とりになっているところが多い気がします。言っていることには大変共感できる部分も多いのですが(私自身もロースクール制度には反対です)、あまりにも極論すぎると逆に説得力がなくなるのではないでしょうか。怒りをぶつけているだけのような文章では共感する人も少なくなるとおもいます
Unknown (Unknown)
2013-04-29 21:01:53
>これだけ金をかけて制度を変えた上ロースクールに入学して今も通っている生徒が多数いるのに、全部間違いでしたすぐ潰しましょうというのはあまりにも無責任だし生徒にとっても大きな混乱を招くという

なんて言っている場合ではもうないということですよ。事は一国の司法制度を崩壊の淵に追い込んでいるのですから。金をかけたからとか言ってるのは,英霊に申し訳が立たないと言って血を流し続け終戦を遅らせたのと同じコンコルド・ファラシーでしかありません。また今の生徒が大事だからなどと言って今後もさらなる被害者を出し続けていいわけはないでしょう。しかも血税までつぎ込んで。ロー即刻廃止,ないし受験要件撤廃は極端でも揚げ足取りでもなんでもありませんよ。