黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

今年の司法試験・論文式試験問題の感想

2013-05-27 00:22:10 | 司法試験関係
 法務省のホームページで,今年の司法試験問題が掲載されていました。
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00082.html

 以下,論文式試験の問題(必須科目に限る)について,黒猫の感想を述べておきます。なお,出題の趣旨や答案の書き方に関する記述は,あくまで黒猫個人が考えたことに過ぎませんので,間違っていたらごめんなさい。
 なお,全体的な感想としては,行政法のみならず民事訴訟法でも問題文での誘導が目立つほか,以前のように重要判例は知っていて当然という立場は次第に放棄され,問題文中に判例を引用してその趣旨について考えさせる,といった問題が多くなっています。択一試験は知識が必要ですが,今の論文試験に受からないというのは,法的知識ではなく日本語能力の問題ではないか,という気がします。

公法系科目第1問(憲法)
 B県を相手方とした,格差の是正を訴えるデモ行進の不許可処分と,「格差問題と憲法」をテーマにしたゼミ主催講演会における県立大学の教室使用不許可処分に関する出題である。
 設問1で原告代理人としてあり得る憲法上の主張を列挙させ,設問2で自身の見解を述べさせるパターンは恒例のものであるが,設問2については,平成24年度までの「憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べなさい」という文言ではなく,「B県側の反論についてポイントのみを簡潔に述べた上で,あなた自身の見解を述べなさい」という文言になっている。書き方のコツが分からず,出題者の意図に反して被告側の反論を必要以上に厚く書いてしまったりする答案が多かったことに配慮したものと思われるが,昨年までと実質的に異なるパターンの答案作成を求めるものではないので,出題の趣旨を見誤らないようにしたい。
 デモ行進の不許可処分については,表現の自由に対する制約の限界を問うものであり,憲法問題としてはオーソドックスな部類に属する。設問1では表現の自由に対する侵害を指摘し,設問2では対立する憲法上の利益(表現の自由と交通秩序,生活の平穏等)を挙げ,その評価と違憲審査基準の定立を行った上で,問題文の事案に即した丁寧な当てはめを行うことが求められる。なお,飲食店の売上減少といった商業活動上の利益は,憲法判断上過度に重視すべきではないことにも注意が必要である。
 教室使用の不許可処分については,やや難しい問題である。学問の自由について,各教授や学生による研究発表の自由を重視するのであれば違憲の結論が導かれやすく,逆に大学の自治を重視して政治的中立性を維持しようとする大学運営の方針を保護するのであれば合憲の結論が導かれやすい。どちらの立場を採るにせよ,問題文の事実関係をうまく拾い,論理的に一貫した答案になっていれば十分合格点は取れるであろう。

公法系科目第2問(行政法)
 土地区画整理事業に関する問題であり,設問1で認可の処分性,設問2は違法性について問われている。具体的に何を論じるべきかは,「法律事務所の会議録」で丁寧な誘導がなされているので,それに沿って論じていけばよい。
 設問1については,土地区画整理組合が事業のため賦課金の徴収を認められ,国土交通大臣や都道府県知事に組合に対する報告徴収や勧告等の権限が認められていることに照らすと,土地区画整理組合は行政主体の一種であり,これに対する定款変更の認可処分は行政内部の意思決定に過ぎず処分にあたらないとの議論も成り立ち得るが,賦課金の徴収する旨の定款変更の認可は組合員に賦課金納付義務を発生させるものであり,このような法的効果に照らせばなお処分性を認めるべきである,といった趣旨のことが丁寧に書かれていれば問題なかろう。
 設問2については,本件組合が度重なる資金計画の変更を行っており,土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びその他の能力が十分であるといえるか,内容白紙の書面議決書に理事が議案賛成の記載をしたものを有効な賛成とみなし得るか,300平方メートルを超える宅地所有者(総組合員の約2割)のみに賦課金を課す方法が公平なものといえるか,定款ではなく総会決議で定められる賦課金の違法性が認可の違法性に影響を及ぼすか,といった問題について,関連する条文を挙げながら論じていく必要がある。

民事系科目第1問(民法)
 全体的に見慣れない論点が多く,やや難問という印象が強かった。
 設問1は,保証債務の有効性を問うものである。保証契約は,主債務者BがCの了承を得ずにCの無権代理人として契約し,Cが後日これを口頭で追認したものであることから,このような契約を「書面」(民法446条2項)でしたものと言えるか,仮に書面性が認められない場合でも,Cが電話で連帯保証人となるのに異存はない旨を債権者Aに告げておきながら,書面でないことを理由にその効力を否認するのは禁反言の原則に反しないか,といったことを論じることになろう。
 平成17年に施行された保証制度の見直しに関する新論点からの出題であり,予想外の問題に面喰らった受験生が多いかも知れないが,軽率な保証を防止するという446条2項の趣旨を踏まえて適切な問題点の指摘が出来ていれば,結論は有効・無効のどちらでも差し支えないであろう。
 設問2は,建物の賃借人Fが賃貸人Bの承諾を得て内装工事を発注したHの過失により建物に亀裂を生じさせた場合,Fに修理費用の賠償を請求し得るかという問題である。Bは,借主の用法違反(債務不履行)を主張するのに対し,Fは民法105条1項を根拠に,Hの選任監督に過失がなければ責任を負わないと主張するのが一般的であろう。いわゆる履行補助者の過失について,説得力のある論述ができるか否かがポイントである。
 設問3は,目的物たる不動産の修繕を行った賃借人Gが,賃貸人の修繕義務(民法606条)を根拠にその修繕費用を賃貸人Bに請求できることを前提として,当該債権を自動債権とする賃料債権の相殺が,抵当権に基づく物上代位としてBの賃料債権を差し押さえたDに対抗できるか否かを問うものである。
 抵当権の絡む難問であることを出題者も意識しているのか,民法の問題としては珍しく,本設問に関係する判例が参考として掲げられている。考えられるGの主張としては,Gの留置権・果実収取権(民法297条)を根拠に,その優先弁済を受ける権利は抵当権者に優先するというものであろうが,そこまでは気付かなかった受験生も多いのではないかと思われる。
   
民事系科目第2問(商法)
 昨年の予備試験では手形法や商行為法の内容も含む出題であったが,今回は100%会社法の問題である。実質的な出題内容も,概ね典型論点と呼べる範囲にとどまっており,的確に関連条文を指摘し落ち着いて解答すれば,それなりに得点できたのではないかと思われる。
 設問1は,非公開会社である甲会社の株式が取締役の承認決議なくEからFに譲渡された事案について,甲会社に対する譲渡の効力と甲会社がFを株主として扱うことの当否を問うものである。
 論点としては,代表取締役Aが株式譲渡の承認が拒否されるのを恐れて,他の取締役に譲渡承認請求があった旨を知らせなかった場合にも会社法145条1項1号による「みなし承認」の適用があるか,みなし承認の適用がないとする場合,甲会社が任意にFを株主として扱うことが許されるか,といったものが挙げられる。
 設問2(1)は,Bが総会決議の効力を否認する会社法上の手段について論じることを求めているが,これは言うまでもなく総会決議取消しの訴え(会社法831条),無効確認の訴え及び不存在確認の訴え(同830条)について問うものである。本問では,法律上の理由もなく議案に反対する株主Bの議決権代理行使が認められておらず,代理行使が認められていれば本件報酬決議が否決されていたことは明らかであることから,取消訴訟のみならず無効確認訴訟も認められると解するのが一般的であろう。
 設問2(2)は,取締役の報酬総額を引き上げる総会決議の効力が否定される場合,会社法361条違反の効果として支払済みの報酬まで返還を請求できるか論じることを求めている。返還請求を認める立場を採る場合にも,引き上げ前の報酬総額である年6000万円を超える部分のみが返還請求の対象となり,各取締役についていくらが返還の対象になる,といったことを論ずればよいと思われる。
 設問3は,募集株式の発行を阻止する手段として,会社法210条による株式発行の差止請求,効力を否定する手段として会社法828条1項2号による無効の訴えについて論じることが求められている。

民事系科目第3問(民事訴訟法)
 民事訴訟法は,設問が4つに分かれており,知識ではなく応用的な法的思考力を問う問題になっている。頭の柔らかい受験生は「ああ,引用されている判決文と逆のことを書けばいいんだな」とすらすら書けた一方,頭の固い受験生は「こんな問題聞いたこともない,分からない」と頭を抱えてしまったのではないか。 
 設問1は,遺言無効確認の訴えにつき,訴えの利益が認められるか否かについての立論を求めるものである。一般論としては問題文中に引用された判例で訴えの利益が認められているが,判例の事案は三十数筆の土地及び数棟の建物を含む全財産を共同相続人の一人に遺贈するものである一方,本問の遺言は単に一筆の土地を遺贈する内容のものに過ぎないから,過去の法律行為である遺言の無効確認を求めることが紛争の合理的解決に資するとはいえず,請求の趣旨は現在の個別的法律関係に還元して判断すべきである,といったことが書ければよい。
 設問2は,同じく遺言無効確認の訴えにつき,被告適格に関する立論を求めるものである。一般論としては問題文中に引用された判例で遺言執行者の被告適格が認められているが,本問の事例では遺言執行者の任務は一筆の土地をCに遺贈することのみであり,相続登記によりその任務も既に終了していることから,このような場合には遺言執行者Dではなく受遺者Cを被告にすべきだ,といったことが書ければよい。
 設問3は,設問1及び設問2とは別の事例で,相続による特定財産取得の請求原因事実について論じさせている。(1)については,土地乙が(Fの死亡当時)Fの財産であったこと,GがFの子であること,Fについて相続の開始があったことが請求原因事実であることを説明できればよく,(2)については,弁論の全趣旨によれば上記請求原因がすべて認められる以上,裁判所が適切に釈明権を行使すれば上記請求原因を判決の基礎とすることは可能であると答えておけば,特に問題はないと思われる。
 設問4は,設問3と同じ事例について,既判力による遮断効の縮小についての立論を求めるものである。要するに,前訴で贈与による所有権の取得を主張し敗訴した者が,同一の財産について後訴で相続による所有権の取得を主張する場合,形式論としては当該主張は前訴の既判力によって遮断されるものの,前訴では当事者が専ら土地の買受人及び贈与の有無について争って相続による所有権の取得については主張しておらず,判決も相続について審理判断していないとみられるときは,後訴で相続による所有権の取得を主張しても前訴では認められなかった請求及び主張を実質的に蒸し返すものとはいえない,といったことを説得的に書けるかどうかがポイントである。

刑事系科目第1問(刑法)
 甲・乙ともに,殺人罪,建造物等以外放火罪の成否が問題となる。本問で論じる必要があるのは,共謀共同正犯の成立要件,方法の錯誤,公共の危険に関する故意の要否,罪数処理といったところであるが,理論的問題の論述に偏ることなく,問題文の事例を的確に引用して妥当な結論を導く必要がある。若干ひねくれた事案ではあるが,決して惑わされずに常識を忘れないこと。

刑事系科目第2問(刑事訴訟法)
 基本問題の範囲内である。こういう科目で得点を稼がなければ,とても上位合格は覚束ないだろう。
 設問1は,逮捕①(甲の逮捕),逮捕②(乙の逮捕)及び携帯電話差押えの適法性を論じるものである。2件の逮捕については,「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる」具体的事情を問題文から指摘していけばよい。携帯電話の差押えについては,令状によるものではないので,逮捕の現場(刑事訴訟法220条1項2号)にあたるか,差押えの必要性があるか,といったことを事例に則して論じていけばよい。
 設問2は,実況見分調書の証拠能力に関する出題である。実況見分調書は,司法警察職員による検証の結果であり,作成者Pが公判廷において真正に作成されたものであることを供述したときは,刑事訴訟法321条3項により証拠能力が認められるが,Wの説明を記載した部分は実質的なWの供述書面ではないかという論点があるほか,警察官による犯行再現の写真が,要証事実との関係で証拠能力が認められるかについて検討する必要がある。

36 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-05-27 00:31:21
つい数日前までは「あらゆる手段を使ってロー擁護派を社会的に抹殺する」とか息巻いていたのに、調子に乗って名誉毀損したこと突っ込まれると、途端に関係ない話題を振りまいて、必死に話をそらそうとする黒猫さんでした(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
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Unknown (Unknown)
2013-05-27 01:24:46
「【受験生向け】民法改正の要点・契約各論編」の際に、両論併記の項目のためか黒猫氏が取り上げなかった、今回の民法(債権法)の改正の議論項目の一つ、「保証」が見事出題。そのことについて、なぜか感想では触れていない。
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Unknown (Unknown)
2013-05-27 01:35:31
国家公務員一種と新司法試験ではどちらが難関ですか?
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Unknown (Unknown)
2013-05-27 06:32:14
浜辺陽一郎の自宅に電凸した伊藤真塾長は男の中の男だわ!
マジでガチでしびれたぜ!
伊藤真ばんざい!!
伊藤塾ばんざい!!!
http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/0b5046c5dd5073f3c22ae53ae53bac3f?guid=ON
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Unknown (Unknown)
2013-05-27 07:20:11
わざわざ回答の方向性まで試験問題で誘導しないといけないとは。差が付きにくくなるはずですが、逆にここまでそろえないとそもそも試験の回答にならないような答案が出てくるということですね。
これで旧試は金太郎飴で俺たちは優秀だと言っているのだから笑ってしまいますね。
もしかしてローの教授が無能であることを隠すための処置?

それにしてもブログのコメント欄を荒らす浜辺マンセーのクソはうざいな。
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Unknown (ロー生)
2013-05-27 08:04:58
受験生のレベルはともかく、今年の国1はかなり難しい問題だったらしい。
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Unknown (Unknown)
2013-05-27 09:43:28
>受験生のレベルはともかく、今年の国1はかなり難しい問題だったらしい。

優秀層の官僚離れ、弁護士離れが進んでるみたいだけど、官僚はまだまだ質を保ててるのかな。
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Unknown (Unknown)
2013-05-27 10:35:46
黒猫さんは毎日ブログの記事書いてコメントまで自演して大変ですね。

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Unknown (Unknown)
2013-05-27 10:52:10
働いてなくてヒマだから無問題
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Unknown (Unknown)
2013-05-27 11:14:01
黒猫さんをディスっているやつだって、仕事していないんじゃん。
人のこと言えるかって話だろ。
黒猫さんの擁護に回っている人はたくさんいるけどディスっているやつは浜辺とその身内だけだから。
大変だな。
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