黒猫のつぶやき

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合法だがいまいち納得行かない? 朝鮮学校の「無償化」

2012-11-11 23:53:14 | 時事
 3大学の不認可騒動で世間を騒がせた田中真紀子文部科学大臣ですが,今度は朝鮮学校の無償化に言及し波紋を広げているようです。黒猫自身は,今までこの問題に関心を持ったことがなかったので,まず問題点を整理したいと思います。

1 高校無償化制度の概要
 この記事では便宜上「高校無償化」制度と呼ぶことにしますが,正確には公立高校の授業料無償化(不徴収)と私立学校の生徒に対する就学支援金を主な内容とする制度であり,民主党政権下で平成22年3月31日に成立した『公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律』に基づくものです。
 この法律の第3条では,公立高等学校の授業料を徴収しないこと及び授業料相当額を国から(公立高校を運営する)地方公共団体に交付する旨を定めており,この法律の施行により公立高校については文字通りの「無償化」が実現しましたが,私立高校については授業料が一般的に公立高校より高く,しかも金額には当然ばらつきもあるので,結局私立高校の学費を一律に無償化することはできませんでした。
 その代わりとして設けられたのが就学支援金制度で,法律の第4条以下では,私立高校等に在籍する生徒又は学生は,概ね公立高校の授業料に相当する金額について「就学支援金」を交付する旨を定めています。就学支援金の金額は,原則として年額118,800円が限度とされていますが,保護者の所得が低い場合は一定額が加算されます。無償にはならないにせよ,私立高校の授業料は平均で年額30万円前後かかると言われているので,支援金は結構大きな金額です。
 そして,制度適用の対象となる「高校」の定義ですが,まず無償化の対象となる「公立高等学校(公立高校)」とは,法2条2項で「地方公共団体の設置する高等学校,中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部をいう」ものと定められており,「私立高等学校等」とは,2条3項で「公立高等学校以外の高等学校等」をいうものとされています。
 この法律にいう「高等学校等」には,高等学校,中等教育学校の後期課程,特別支援学校の後期課程,特別支援学校の高等部,高等専門学校,専修学校及び一定の各種学校が含まれるものとされています。朝鮮学校など日本に居住する外国人を対象とする学校はこのうち「各種学校」に含まれます。
 具体的には,同法施行規則1条1項2号の規定により,各種学校のうち①出身国の教育制度に沿った教育を日本で行っている「外国人学校」として文部科学大臣の指定を受けたもの(ブラジル学校、韓国学校、中華学校、ドイツ学校、フランス学校など),②いわゆるインターナショナルスクールのうち文部科学省が指定した国際的教育評価団体から学校として認可されたもの,③高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学大臣が指定したもののいずれかに該当すれば,外国人向けの各種学校も「私立高校等」に該当し,それらの学校に通学する生徒・学生は国から就学支援金の交付を受けることができます。
 朝鮮学校は,北朝鮮の教育制度に沿った教育を行っているわけではないので上記①には該当しませんが,北朝鮮の民族教育を取り入れつつも日本の学校制度に沿った6・3・3制の教育課程を導入しており,朝鮮学校の高等課程修了者には高等学校修了者に準じて大学の受験資格が認められてきた実績もありますので,上記③に該当するものとして文部科学大臣による指定の対象となり,指定を受けた朝鮮学校に通う生徒達は,法律上私立高校の生徒に準じて就学支援金の交付を受けられることになります。
 ここでのポイントは以下の2つです。

① 朝鮮学校については,公立高校のような学費無償化が問題とされているのではなく,そこへ通う生徒達に対し,私立学校に通う生徒達と同様に就学支援金を交付するかどうかが問題になっているということ。
 マスコミの報道では「朝鮮学校無償化」と大々的に報じられているので,これだけを読むと「朝鮮学校も公立並みに無償化するのか」と誤解しそうになりますが,実際には私立学校並みに扱うかどうかを問題にしているだけです。黒猫も,詳しく調べなければ危うく誤解したまま記事を書いてしまうところであり,マスコミ報道の質の低さには怒りを禁じ得ません。
 なお,記事のタイトルで「無償化」と括弧書きを付けたのは,実際には本当の意味で無償化されるわけではないという意味が含まれています。

② 大学設置不認可騒動のときと異なり,朝鮮学校の生徒に対し就学支援金を交付しようという田中文部科学大臣の判断は,法的には完全に合法なものであること。
 法律及び省令の規定に照らせば,朝鮮学校は「各種学校」として文部科学大臣の指定を受けることができ,その生徒は私立学校等の生徒に準じて就学支援金の交付を受けられるはずであり,現に朝鮮学校以外の在日外国人向け高等学校(韓国学校含む)に通学する生徒は概ね就学支援金の交付対象となっているため,むしろ朝鮮学校の生徒に対してのみ就学支援金を交付しないのは違法であるばかりか,法の下の平等に反するとして憲法違反となってしまうおそれがあります。そのような違法状態を解消しようという田中文部科学大臣の判断には,法的に非難する余地は全くありません。

2 朝鮮学校の指定に関する経緯
 では,法的には当然行われるべきはずの指定が朝鮮学校に行われていないのはなぜか。原因を探る前に,これまでの経緯について簡単にまとめておきます。
 法律の制定当初は,政府も朝鮮学校に対する制度適用の可否については「外交上の配慮などにより判断すべきものではなく,教育上の観点から客観的に判断すべき」であるとの立場を表明しており,朝鮮学校にも制度を適用するという考え方を採っていたことは明らかですが,朝鮮学校に対する適用には,北朝鮮の拉致問題に取り組んできた自治体などから猛烈な反対の声が挙がり,大手マスコミでも意見が分かれる(黒猫の見たところ,概ね朝日新聞は適用に賛成,産経新聞は大反対,読売新聞は中立という立場のようです)事態となったため,政府としても反対論を無視することができず,朝鮮学校に対する審査基準等の公表は見送られました。
 平成22年の11月になり,文部科学省はようやく審査基準等を公表し,朝鮮学校はその手続きにのっとって申請を行いましたが,同月に北朝鮮が韓国・延坪島での砲撃事件を起こしたことから,朝鮮学校への審査手続きは「停止」されました。その後,平成23年に,菅直人総理(当時)が辞任間際に審査手続きの再開に言及したことがありましたが再開は実現せず,今回田中文部科学大臣が朝鮮学校の「無償化」に言及したのは,約2年越しで続いている懸案の解決に乗り出そうというものです。

3 朝鮮学校の指定に対する主な反対意見
 国論を二分する問題であるため,朝鮮学校を制度適用の対象とすることには反対者からも様々な意見が上がっていますが,その主なものを要約すると,概ね以下のようなものになります。

① 高校無償化政策自体に異論があるとするもの
 自民党は,民主党の掲げる高校無償化政策自体に反対し,無償化や就学支援金の給付には所得制限を設けるべきである,真に支援が必要な子供には給付型奨学金を創設して対応すべきなどと主張しています。3党合意でも民主党に高校無償化政策の見直しを了承させていますが,朝鮮学校に対する審査手続きの再開は現行制度の維持を前提とするものであり,3党合意に反し認められないという立場を採っています。

② 北朝鮮等との外交問題になるとするもの
 朝鮮学校に対する審査手続きは,北朝鮮の起こした砲撃事件により停止され,再開の条件として「国際的・国内的な状況が砲撃事件以前に戻ること」とする方針が示されました。しかし,北朝鮮では金正日総書記が死去し指導体制が変わったとはいえ,砲撃事件に対する謝罪もなく,国際的・国内的状況が砲撃事件以前に戻ったわけではない以上,審査の再開は日本政府が「韓国・北朝鮮との間の砲撃事件は解決した」との外交判断をしたと受け取られ,北朝鮮に対し日本政府の態度が軟化したという誤ったメッセージを伝えることになりかねないばかりか,韓国やアメリカとの外交問題に発展するおそれも無いとは言えません。

③ 朝鮮学校の思想教育を問題とするもの
 どこまでが真実なのかは分かりませんが,朝鮮学校で使用されている現代歴史の教科書は,これでもかと言うくらい独裁者の金一族を称える記述や写真などで埋め尽くされているほか,大韓航空機事件は韓国側のでっち上げである,拉致問題は日本政府が「極大化し,反朝鮮騒動を大々的に繰り広げている」ものである,北朝鮮のミサイル発射は「人工地球衛星」の発射であるなど,明らかに事実に反する北朝鮮側の主張が公然と記載されており,しかも教科書の内容が開示されないので教育内容の検証もできない,そのような金正恩体制を支えるための思想教育に国民の血税を投入することは許されない,といった主張がみられます。
 もっとも,このような主張に対しては,朝鮮学校の授業は公開されており,文科省などによる調査も何度か行われているがそのような事実は報告されていない,といった反論もみられます。

④ 朝鮮総連との関係を問題とするもの
 これもどこまでが真実なのか分かりませんが,朝鮮学校は,北朝鮮の下部組織である朝鮮総連の下部組織とされ,朝鮮総連幹部と朝鮮学校校長などの人事も一体化されているほか,自治体からの補助金を含む朝鮮学校予算の多くが朝鮮総連に流用されている,したがって朝鮮学校(またはその生徒)に就学支援金を出しても,それは実質的には朝鮮総連に流れるだけであり,学生に対する真の支援にはならない,といった主張がみられます。

 以上のほか,拉致問題などに起因する反北朝鮮感情をむき出しにした意見,制度自体への誤解に基づく意見(マスコミの報道に問題があるためか,朝鮮学校を他の私立高校より優遇するのは相当でないという趣旨の意見や,そのような制度であることを前提とした意見が散見されます)もみられますが,そのような主張を検討する意味はないのでここでは省略します。

4 私見
 上記に挙げた反対理由のうち,まず①は理由になり得ません。民主党の掲げた高校無償化政策に見直すべき点があるとしても,当該政策は既に実行されている以上,これを見直すにあたっては現行政策との継続性を考慮しなければならない上に,仮に所得制限などの見直しを行うとしても,見直しにあたり外国人を対象とする高校を適用除外とすべき実質的理由はない以上,現行法の規定に反して朝鮮学校に対する審査を止めることは正当化できません。
 また②も,おそらく問題にはなり得ません。そもそも,韓国もアメリカも,日本ほど徹底した反北朝鮮政策で一貫しているわけではありませんし,朝鮮学校をめぐる問題は,本来純粋な日本国内の教育問題であり,しかも朝鮮学校に対するわが国の措置は国連の人種差別撤廃委員会で「子どもの教育に対し差別的な影響を及ぼす行為」として問題視されているものです。
 少なくとも,朝鮮学校に対し特段の優遇措置を取るものではない旨の事情を正確に説明した上であれば,韓国やアメリカが問題にすることはまずないと考えられますし,北朝鮮については,どちらにせよ軍部のクーデターか何かで金正恩体制が崩壊でもしない限り,拉致問題に関する態度が変わることは当分ないでしょう。
 問題は③と④です。学校の教育内容に対する国の余計な介入は極力避けるべきだとは思いますが,実質的な「宗教」であるとまで言われる北朝鮮の金一族を崇拝する思想教育が,噂のとおり朝鮮学校でも徹底的に行われているというのであれば,もはやそれは教育ではなく実質的なマインドコントロール(洗脳)であると言われても仕方ありませんし,日本の教育予算が実質的には朝鮮総連を通じて北朝鮮の軍事予算などに転用されているおそれがあると言われれば,そのような事態を是認できる日本国民はそれほど多くないでしょう。
 教育界や弁護士会では,朝鮮学校も制度の対象にすべきであるとの意見を表明しているところが多いですが,いくら法的には朝鮮学校も就学支援金制度の対象にしなければならないと訴えてみたところで,③や④の問題を解決できない限り国民の一般的理解を得ることは難しく,むしろ「そんな法律を作った民主党が悪い」「教育内容等に重大な問題がある朝鮮学校を高校と認める方がおかしい」などと反論されるだけでしょう。

 ただ,この問題は次の総選挙で政権が自民党に移ったとしても,引き続き懸案として残されることが予想されます。高校無償化を見直すといっても,高校に進学する生徒への経済的支援を行う必要性を正面から否定するわけには行かず,また朝鮮学校は自民党政権下でも長年存続を認めてきた学校であり,外国人学校として明らかに不適格であると言い切れるほどの証拠もないため,国際的にも通用する理由で朝鮮学校だけ各種学校としての認可を取り消す,または支援の対象から除くという政策を採ることにもかなり無理があります。
 いわば,安倍総裁時代から保守色を全面に打ち出し国民の反北朝鮮感情を煽ってきた自民党が,政権を奪還するとそれが足枷になって身動きが取れなくなるという皮肉な事態に陥りかねないわけです。
 衆議院の解散により年明けまで大臣でいられるかどうか分からない田中氏にこの問題を解決できるとは思えませんが,自民党中心の政権に代わっても現状をすっきり解決する方法があるわけではなく,散々揉めた末に,結局は適用を認めざるを得なくなるのではないか,というのが黒猫の結論です。
 そもそも,学校は広く設立を認めた上で市場原理で競争させるというのが,自民党の決めた基本政策であり,朝鮮学校だけを例外とするというわけにも行きません。また,朝鮮学校の卒業者が全員金一族崇拝に染まっているというわけでもなく,卒業者にも朝鮮学校の教育内容を批判する人が少なくないようなので,朝鮮学校の教育内容に問題があるならば,そのうち市場原理で淘汰されることでしょう。冷静になって考えれば,取り立てて問題にすべきようなことではないように思えるのです。

1 コメント

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Unknown (さすけ)
2012-11-12 08:55:28
【三浦小太郎】文科省・田中文科相の朝鮮学校無償化を許すな![桜H24/11/6]
http://www.youtube.com/watch?v=Vpcc74a1By8