大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年05月16日 | 植物

<3770> 奈良県のレッドデータブックの花たち(217) ヒオウギ(檜扇)           アヤメ科

               

[別名] カラスオウギ(烏扇)

[学名] Iris domestica

[奈良県のカテゴリー]  希少種(旧絶滅危惧種)

[特徴] 日当たりのよい原野や道端、山地の草地などに生える多年草で、観賞用に植えられているのを見かけることが多い。単子葉の葉は長さが30~50センチの広線形で、扇状につき、ヒノキで作った檜扇に似るのでこの名がある。

 花期は7~9月で、高さが60~100センチの花茎を伸ばし、上部で枝を分け、2~3個の花をつける。花は直径3~4センチで、橙色に赤い斑点がある内外の花被片6個が平開し、6弁花のように見える。花は朝開いて夕方には萎む1日花である。

 蒴果の実は長さが3センチほどの楕円形で、熟すと裂開し、直径5ミリほどの球形の種子が多数現われる。種子は光沢のある黒色で、古くはヌバタマ(射干、夜干、烏玉)と呼ばれ、艶やかな黒色に因み、ヌバタマは黒髪、夜などにかかる枕詞として古歌などに多用され、万葉集には81首に登場を見る典型的な万葉植物で、ウバタマとも呼ばれる。

 なお、漢名は射干(しゃかん)で、別名のカラスオウギ(烏扇)も黒い種子に因む名で、檜扇が世に出る前の名で、本草和名(918年)等に夜干、射干に当てているのが見受けられる。

[分布] 本州、四国、九州、沖縄。国外では朝鮮半島、中国、台湾のほかインド北部。

[県内分布] 五條市、曽爾村、御杖村、川上村、天川村、上北山村、下北山村、十津川村。

[記事] 大和地方(奈良県域)では南部に片寄って分布し、自生地は少ない。天川村の観音峰展望台(約1200メートル)の薄原で群生していたものはシカの食害によるものか、すっかり姿を消した。だが、調査が行き届いた関係もあって、奈良県では道端などで新たに見られ、絶滅危惧種から希少種に評価されるに至った。

 なお、漢方では根茎を日干しにしたものを射干と称し、煎じて扁桃腺炎や去痰に服用するという。ヌバタマの射干も夜干もこの薬用によるところの名であろうか。 写真は群生して花を咲かせるヒオウギ(左)と花のアップ(右)。いずれも上北山村。

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