大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年09月15日 | 植物

<2086> 大和の花 (320) ヤマハギ (山萩)                                                マメ科 ハギ属

 ハギ(萩)はマメ科ハギ属の低木または多年草で、いずれも葉は3小葉からなり、マメ科特有の小さな蝶形花を咲かせる。一般にはハギ属ヤマハギ亜属に属する低木を指し、これらの総称としてあるもので日本には13種ほどが自生すると言われる。このうちヤマハギ(山萩)、ミヤギノハギ(宮城野萩)、ツクシハギ(筑紫萩)、マルバハギ(丸葉萩)、キハギ(木萩)、ニシキハギ(錦萩)、シロバナハギ(白花萩)などが主なものとして知られる。では、もっともポピュラーなヤマハギから見てみたいと思う。

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 ハギは『万葉集』の142首に見える万葉植物中一番多い登場数を誇る植物で、秋の七種(くさ)にもあげられ、当時から親しまれていたことがわかる。『万葉集』のハギについては、原文に波疑、波義。芽子、芽で登場し、萩の字は見えない。この萩の字については平安時代に登場した国訓の字とされている。また、『万葉集』のハギは総称と捉えてもよいようにも思われるが、地名が折り込まれている歌から考えると、ヤマハギが最も適しているということで、これが定説になっている。

 ヤマハギ(山萩)は山に生えるハギの意であるが、山野の日当たりのよいところであればどこにでも見られる落葉低木で、高さは1メートルから2メートルほどになり、細い枝をわける。葉は3小葉からなり、小葉は広楕円形または広卵形で、鈍頭の特徴がある。花期は7月から9月ごろで、葉腋に総状花序を出し、長く伸びて葉より上に出ることが多く、普通1.5センチほどの全体がほぼ紅紫色の蝶形花をつける。

       

 北海道から九州にかけて日本のほぼ全域に分布し、国外では朝鮮半島から中国、ウスリー地方に広く見られるという。大和(奈良県)には昔から多く、『万葉集』のハギを見分すると、高円、春日野、佐紀野、佐保(以上奈良市)、宇陀の野(宇陀市)、阿太の大野(大淀町)、秋津野(吉野町)、明日香(明日香村)、三諸(桜井市)、百済野(広陵町)等の地名と抱き合わせに詠まれ、これらの地名からはハギが大和(奈良県)のほぼ全域に見られていたことがわかる。つまり、『万葉集』のハギは大和(奈良県)の全域的に生えるヤマハギということになるわけである。

  一方、142首の歌の内容を見ると、花に関わるものが圧倒的で、散る花を詠んだものも多く、黄葉にも触れ、露や霜、霧などとともに、シカなども配して詠まれ、庭などに植えられていたようで、そのような内容の歌も見える。これにハギの歌数を重ねてみると、当時ヤマハギが如何に人々に親しまれていたかということがよくわかる。ヤマハギは秋の七草としての趣によって、後世は調度品や美術工芸品、着物などの模様に用い、紋所や餅の名などにも登場し、今に至っている。

  ところで、最近、このヤマハギが少なくなっている感じを受ける。公園や神社仏閣の庭園などには園芸種のミヤギノハギなどが見られるものの、野生のヤマハギは減少傾向にあるのが見て取れる。叢生するハギは刈り込んでも、また、次の年に元の株から芽を出し、花の時期にはもとどおりになる。ハギの名はこのように古い株から芽を出す生え芽(き)から来ているとする説もあるほどで、丈夫な株に守られている。それなのに何故に野生が少なくなっているのか。ということで、その要因が気になるところである。

  思うに、野生のヤマハギが少なくなっているのは、シカなどの食害によるものではなく、人為によって株ごと抜き取られるからではなかろうか。これはヤマハギに昔ほど風情を感じる向きが少なくなり、親しまれなくなったからではないかと思われる。自然の観点からすると、さびしい限りであるが、これも時流というものなのであろう。邪魔者扱いを受けるようになったと想像される。

  なお、ヤマハギを含むハギは、観賞用のほか、砂防用などとして用いられ、道路脇の斜面などにも植えられ、牧草や箒、また、新芽をお茶に利用し、種子を粥に混ぜて食用にするなど多方面に貢献して来た。だが、現代におけるハギ、殊にヤマハギはそれほど評価が高くなくなっているのかも知れない。 写真はヤマハギ。写真左の曽爾高原のヤマハギはススキとともに高原の秋を彩る役目を果たしていたが、今は淋しくも高原の風景の中にない。これはヤマハギの評価が低くなっている昨今の1例と見てよいのではなかろうか。   秋の夕家族か四人行き過ぎぬ

<2087> 大和の花 (321) マルバハギ (丸葉萩)                                           マメ科 ハギ属

           

  明るく日当たりのよい山地や高原の草地に生える落葉低木で、高さは1メートルから1.5メートルほどになる。3小葉からなる小葉は長さが2センチから4センチほどの楕円形乃至は倒卵形で、先端が少し凹むものが多い。また、葉表は無毛で、葉裏には伏毛が密生する特徴を有する。

 花期は8月から10月ごろで、葉腋ごとに花序をつけるが、花序が葉よりも短く、花が半分葉に隠れ気味につくのでヤマハギとは様相を異にするところがある。花は紅紫色の蝶形花で、葉腋に固まって見えるので、花の1個1個は目立たない。 本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国にも見られるという。大阪奈良府県境の葛城山の草地ではよく見かける。 写真はマルバハギ。   秋の水穏やかに澄みこころまで

<2088> 大和の花 (322) キハギ (木萩)                                                  マメ科 ハギ属

       

  山地の林縁や崖地、あるいは岩場の土がわずかしかないような厳しい環境にも動じることなく生える落葉低木で、高さが1メートル前後になるものが多く、ときには垂れるように生えるものも見られる。葉は3小葉からなり、小葉は2センチから4センチの長楕円形乃至は長卵形で、先は尖り、葉表は無毛、葉裏は微細な毛が生える。

  花期は6月から10月ごろと長く、葉腋から総状花序を出し、旗弁の基部と翼弁が紫紅色になる淡黄色または白色の蝶形花をつける。花の色は生える場所の環境によるところがあり、日当たりのよいところでは暖かみのある花がつき、日陰に生えるものは冷めた色になる印象がある。どちらにしても、ヤマハギほどの見映えはなく、地味に見える。 

  本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)では紀伊山地でよく見かける。写真はキハギ。左から崖地の岩場に生えるキハギ、日当たりのよいところの花、日当たりのよくないところの花、花のアップ。   カフェに秋コーヒーの香もそれとなく

<2089> 大和の花 (323) マキエハギ (蒔絵萩)                                            マメ科 ハギ属

             

  日当たりのよい丘陵地や山地の林縁、草地などに生える落葉小高木で、高さは40センチから60センチほどになる。3出複葉の小葉は長さが2センチ前後の楕円形もしくは長楕円形で、葉先は尖らない。花期は8月から9月ごろで、葉腋に短い柄の総状花序を出し、旗弁の基部に淡紅色の模様が入る白色の蝶形花を普通数個つける。

  本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島から中国にも見られるという。大和(奈良県)でも見られるが、生える場所も個体数も限られて少なく、絶滅危惧種にあげられ、近畿地方でも絶滅危惧種Cのレッドリストの植物である。

  私は奈良市の若草山で出会ったが、シカの食害から逃れ、身を隠すように生えている貧弱な個体が2株ほど。花が見られない年もあるほどで、その姿は何かいじらしいようなところが感じられる。3小葉の葉と白色の花が蒔絵を思わせるからか、この名がある。 写真はマキエハギ。写真の花は淡紅色の模様がはっきりしないが、かすかに見える。   台風の一過安堵の大気感

 

 

 


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