大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年04月17日 | 植物

<2300> 大和の花 (488) ショウジョウバカマ ( 猩猩袴)     ユリ科 ショウジョウバカマ属

     

 山地や山間地のやや湿ったところに生える常緑多年草で、花を中国の想像上の生きもの猩猩(しょうじょう)に、ロゼット状に広がる長い多数の根生葉を袴に見立てたことによりこの名があると一説にある。その葉は長さが5センチから20センチの倒披針形で、葉先にしばしば小苗を生じ、山地ではときに大きい群落をつくることがある。

 花期は3月から5月ごろで、袴のような根生葉の中心から小さな鱗片葉をつけた10センチから30センチの花茎を1つ立て、茎頂に長さが1.5センチほどの花被片の花を総状に数個つける。花は咲く場所によって変化が見られ、淡紅色から濃紅紫色、ときに帯黄色や白色の花も見られる。大和(奈良県)で見られる白色の花はほぼシロバナショウジョウバカマで、ショウジョウバカマより2週間ほど花期が早い。シロバナについては次回に紹介したいと思う。

 葉が常緑であるが、ショウジョウバカマも春季植物にあげられ、花が終わり、実を飛散すると、ほぼ翌年の春まで休眠状態に入る。実は蒴果で、花茎は果期になると別種を思わせるほど伸び上がり、60センチほどになる。 自生の分布は北海道、本州、四国、九州で、国外では朝鮮半島とサハリンに見られるという。大和(奈良県)には多く、葛城山や金剛山では大群落が見られる。

 写真はショウジョウバカマ。生える場所によって花の色に変化が見られ、左の紅紫色の花は葛城山、次の青紫色の花は矢田丘陵の個体。次は花のアップ。咲き盛りの雌しべが活動期の花。右端は裂開を終えた後の蒴果。

  移ろひはこの世の定め咲く花があれば散りゆく花もあるなり

 

<2301> 大和の花 (489) シロバナショウジョウバカマ (白花猩猩袴)     ユリ科 ショウジョウバカマ属

                        

  ショウジョウバカマの変種で知られ、本州の近畿、中国地方、四国東部に分布する日本固有の常緑多年草で、大和(奈良県)では奈良盆地の周辺の山、殊に東部青垣の山々に多く見られる。根生する葉は長さが7センチから15センチほどの倒披針形で、ショウジョウバカマよりやや薄く、縁がしばしば波打って見える。

  花期は3月から4月ごろで、ショウジョウバカマより開花が2週間ほど早い感がある。花どきの葉は越冬したもので、開花のころより新葉と交代し、その後、枯れる。ただ、ショウジョウバカマは花に変化があり、白い花の株もあるので見分け難い。私は主に花期によって見ている。 写真はシロバナショウジョウバカマ。右端の写真は花が終わりに近く、花被が淡緑色に変化している。

 足許の花も頭上の花もみな花は天地の間に輝く

 

<2302> 大和の花 (490) シライトソウ (白糸草)                                      ユリ科 シライトソウ属

                       

 山地の林下や林縁、または谷筋などに生える単子葉の多年草で、根茎は浅く、倒披針形の長さが8センチから15センチほどの根生葉をロゼット状につけ、一見ショウジョウバカマのように見えることもある。点在的に生えることが多いが、群生することもある。

 花期は5月から6月ごろで、放射状のロゼット葉の中心に高さが15センチから40センチの花茎を立て、花茎は分枝することなく、茎頂に10数センチの総状花序を出し、芳香のある白い花を多数つけ、下から順に咲く。花茎には小さな線形の茎葉または苞葉がまばらにつく。花序軸も白いが、花が終わると緑色を帯びて来る。

 花は花被片、雄しべともに6個、雌しべは1個。花被片は上方の4個が長く、1センチほどの先端に膨らみがある線形で、下方の2個は極めて小さく、雄しべや雌しべと同じく花茎に密着し、花序全体ではビンを洗う白いブラシのように見える。シライトソウ(白糸草)の名はこの花の姿による。

 本州の秋田県以南、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島南部に見られるという。大和(奈良県)では低山帯で見かけることの多い花で、私には山に足を運ぶようになって知り得た花の1つである。仲間に日本の特産で、奈良県のレッドリストに絶滅寸前種としてあげられているチャボシライトソウ(矮鶏白糸草)があり、県南端部に自生するが、私にはまだ出会えていない。 写真は林縁の草叢に花を咲かせるシライトソウと花のアップ。撮影は十津川村など。  縁とは出会ひのまたの言ひなれば生の展開上に言はるる

<2303> 大和の花 (491) スズラン (鈴蘭)                                           ユリ科 スズラン属

                               

 平地、高原、山地などの草地に生える多年草で、スズラン属はスズランただ1種でヨーロッパ、アジア、アメリカの温帯に広く分布し、日本のスズランは変種とされ、北海道、本州、九州等に見られ、北海道では主に平地、本州と九州では高原に自生し、北海道のイメージが強い。

  草丈は15センチから30センチほどで、根茎が横に這い、長く伸びて群生することが多い。単子葉の葉は2個が根生し、長さが15センチ前後の長楕円形で、基部が鞘状になって互いを抱くようにつく。花期は4月から6月ごろで、鞘状の葉腋から葉よりも低い花茎を出し、壷形で先端が6浅裂する純白の花を穂状に数個から10個前後つける。この下向きに咲く花は芳香があり、キミカゲソウ(君影草)、タニマノヒメユリ(谷間の姫百合)の別名でも呼ばれ、西洋では幸せの花として贈り物にされたりする。

  日本では北海道が道の花に指定しているが、大和(奈良県)では奈良市の吐山と宇陀市の向渕に自生地があり、この一帯のスズランについては地球寒冷期の遺存種と考えられ、吐山と向渕の自生地は国の天然記念物に指定されている。一方、奈良県では周辺を含め、自生のスズランが極めて限定的で、個体数も少ないことから絶滅寸前種にあげ、地元による保護がなされている状況にある。スズランの自生地宇陀市はスズランを市の花に指定し、大切にしている。

 なお、スズランは全草に毒性がある有毒植物で、殊に根茎は毒性が強く、注意が必要と言われる。毒性を弱め、強心剤や利尿薬に用いられるが、使用を誤ると命に関わるので、一般人には手を出さない方がよい。 写真はスズラン。早春のころの芽立ち(左)と純白の小さな壷形の花を咲かせる個体(右)。いずれも吐山の自生地。  競ふにはあらず種を継ぐ花の意味はたして数ある花の面影

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿