オマージュにしないで、「47の心得」への反論

2015-07-15 21:30:14 | Weblog

 

はじめにガンの治療効果の実態を見ておこう。
対照群(今までで最善とされている治療をうける人たち)と治療試験群(治験群、新しい治療法を試す人たち)の生存曲線をくらべてみよう。
 新しい治療法は今までの治療より善い可能性が少人数の患者で試して見込まれていることが倫理的必要条件。途中で悪いことが見えてきたら治療実験は中止になる。
 カーブがゼロ(図の底辺)に達すると全員死亡したことになる。
 カーブが治験群で右にふくらめば一時的な延命効果があると見ることができる。
 カーブが2つの群とも底につかないで、治験群で上に平行移動するなら、一部の人が(上に移動した割合だけ)完全に治ったと見ることができる。

 

図1:(左) 悪性リンパ腫の化学療法組み合わせによる違い。治療でほとんどの人が治ってしまう。 この研究により、どの薬が重要かが明らかになった。(右) 再発なしで生存する割合の曲線 再発なしで生存する割合の曲線多発骨髄腫の時代とともに改善する生存率。自己幹細胞移植が始まって急に改善。 このグラフは多数の治験を寄せ集めて作ったもの。
図2: 早期よりすすんだ(筋肉のバリアーを破壊した)膀胱ガンの外科のみと外科に化学追加の比較 (Grossman 349 859)

図3: 免疫療法 乳ガンのワクチン型療法 前立腺ガンの自己リンパ球を体外で教育して戻す療法

図4: 進行した胃ガンの化学療法 胆管細胞ガン(胆嚢ガンを含む)の化学療法

図の引用文献:

Behringer, K., Goergen, H., et al., 2015. Omission of dacarbazine or bleomycin, or both, from the ABVD regimen in treatment of early-stage favourable Hodgkin's lymphoma (GHSG HD13): an open-label, randomised, non-inferiority trial. Lancet 385(9976), 1418-1427.

Grossman, H.B., Natale, R.B., Tangen, C.M., S et al., 2003. Neoadjuvant chemotherapy plus cystectomy compared with cystectomy alone for locally advanced bladder cancer. N Engl J Med 349(9), 859-866.

Kantoff, P.W., Higano, C.S., Shore, N.D. et al, 2010. Sipuleucel-T immunotherapy for castration-resistant prostate cancer. N Engl J Med 363(5), 411-422.

Röllig, C., Knop, S., Bornhäuser, M., 2015. Multiple myeloma. Lancet 385(9983), 2197-2208.

Sakuramoto, S., Sasako, M., Yamaguchi, T., et al., 2007. Adjuvant chemotherapy for gastric cancer with S-1, an oral fluoropyrimidine. N Engl J Med 357(18), 1810-1820.

Valle, J., Wasan, H., Palmer, D.H., et al., 2010. Cisplatin plus gemcitabine versus gemcitabine for biliary tract cancer. N Engl J Med 362(14), 1273-1281.

Vassilaros, S., Tsibanis, A., Tsikkinis, A., et al., 2013. Up to 15-year clinical follow-up of a pilot Phase III immunotherapy study in stage II breast cancer patients using oxidized mannan-MUC1. Immunotherapy 5(11), 1177-1182.

 

著書への反論

(表紙の裏より)
病院へいくほど、命を縮めやすいー
しかし、命をのばすこともできる。
 医療はリスクを伴うため事実だが、命がのびたり、救われたりすることのほうが全体としては大きく、病院は全体としては人々の健康に役にたっている。当たり前といえばそれまでのこと。

(p1)
まともな賞をいただいて、うれしくー
経済界の意向としては、医療費を削り、法人税を減らし、防衛装備品(武器)等、工業製品の国家予算を拡大したい。そこへ一流大学(慶大:万札の福沢諭吉が作った)の医者が都合のよいことをいってくれる。ともなれば、賞の1つや2つなどお安い御用。

私の話を聞いて、乳房を温存する療法ー
乳房温存療法は放射線を使う立派なガン治療。当てた放射線により数年後に新たなガンを作る危険を伴う。

がんは治療しないほうが長生きできるー
すべてのガンのようにとれる。がんによっては前立腺ガンのようにおとなしいものもあり、この場合に治療の選択はケースバイケースとなる。

世界一医者が好きな日本人ー
医者に気軽にかかれる、日本の健保制度を見習おうとしている国は多い。患者は好きで医者にかかるわけではない。馬鹿にしているような表現。

インフルエンザを薬で治せるという証拠はなくー
ウィルスを抑えて回復を早める薬はある。私としてはふとんをかぶって2、3日寝ればよいだけだと考える。3日越して熱がつづいたら風邪でないかもしれないので医者にかかるべき。

血圧、コレステロールを薬で下げると早死にする、世界中の数万人規模の追跡調査ー(p6)
ちゃんと引用文献をだすべき。寿命延長効果、血管事故発生確率を下げる効果が科学的に証明されているからこそ(無作為割付二重盲検)新薬として承認されている。インチキ研究には用心しなければいけないが、その場合、他の国で違う結果が次々とでてバレる。

抗ガン剤は治したりするわけではありませんー
小児ガン、悪性リンパ腫など完全に治してしまえるものもあるし、多くのガンで治療が効いて10年以上生きる人が一定割合あります。
(図1)

がんは放置したほうがラクに長生きー
乳房温存療法推進の著者が書いたとは思えない。ゴーストライターが書いているのでは?だとすれば受賞は詐欺。

ヤクザはしろうとを殺したり、ありません、強盗だって金を取るだけー
上納金脱税でつかまった福岡のヤクザは?おそらくこの文章は穏健派のヤクザが代筆しているのだろう。医療事故はわざとおこすものではない。

医者のおいしいお客にならないよう気をつけましょうー
本書のテーマかと思われる。医療不信の世論をあおり政府による改革の切り口をつける。郵便、農協と同じやりくち。金をへらそうというのが本当の目的だから医療の質など向上するはずがない。
 5%の人でもこの本をよんで医者にかかるまいと考えれば、だいぶ医療費が浮いて他のことに使えると言うもの。

心得1
濃厚診療をする医師に気をつけなさいという点で合意。

心得2 血圧もコレステロールも高い方が長生きー
家族性高コレステロール血症、糖尿病などの読者に与える致命的影響を配慮していない。

心得3 医者にいくほど早死に
具合が悪いほど医者にいく、当然死亡リスクも高い。受診頻度は交絡因子であり原因ではない。著者が医者になりたてのとき(1973年)のガン治療を見た経験で、がんは治らないとしている。

心得4 血圧130
同意。
オーストラリアの治療ガイドラインでは180以上が薬の対象。

心得5 血糖は薬で下げても無意味
下げすぎるのはいけないという内容と大分ちがう表題。

心得6 病気を防ぐ確率は宝くじ以下
50分の一のこと。

心得7 がんの誤診
誤診でない可能性も考えて治療を検討する。

心得8 早期発見
今後の疫学調査に期待。検診が有効かどうかということ、早期治療をしたほうがよいかというのは同じ問題ではなく別々の検証が必要。早期治療でリスクが小さいければやっておくのが無難。


心得9 徹底検証してから決めてくださいー
同意。

心得10 CT発ガンリスク
同意。記念写真のようにとってはいけない。ではご一緒にとでも。

心得11 健康指導
科学的根拠にもとづくもの、もとづかないもの明らかにして伝えるべき。私は養生訓派(貝原益軒)。

心得12 3種の薬
同意。一度に出すとどれが効いたかわからないし、副作用がでたらどれがいけないかもわからない。

心得13 風邪で抗生物質
同意。使わない。二次的に細菌感染する危険性が高い人に限って予防投薬するならまだ理解できるが、菌によっては効かないこともあるので、やはり発症してから細菌を調べて投与する抗生剤をきめるべき。副作用は多くの場合おなかをこわす(腸内細菌の構成が乱れるから)程度だが、まれに重い副作用があり心配。

心得14 抗ガン剤を使えば寿命ー
のびることがある。

心得15 がんの9割は治療するほど命を縮めるー
切るとがんが暴れると言われますー
これをまにうけて初期かもしれないガンを放置する人がでてくるのが心配。
扁平上皮ガン、腺ガンは化学療法が効きにくい。しかしすすんでいても延命効果は期待できる。  (図2)
 十分病巣から離して切るから多くの場合はうまくいく。フグの調理のようなこと。暴れたときにはもはや病理部の保存液の中かゴミ箱の中。手術侵襲による、局所の炎症、血管新生、酸素分圧の変化が、とりきれなかった周辺のガンの芽を発芽させるとの仮説がある。 N Engl J Med. 2015;373:1267-9.

心得16 薬をもらうを習慣にしてはいけない
同意。

心得17モルヒネ
同意。

心得18 もしみつかっても治療しなければ逆に長生きできる。
なら医療費は大分安くなる。

心得19 安らかに逝く
周りが安らかか判断するなら、それはナチスの医療。

心得20 検診はやるほど死者を増やすー
PET検査1回でもガンの原因になりえますー
(検診)疫学調査ではそうではなく、寿命については、やった方が微妙によいかも、といったところ。 検診で見つけたガンを治療しながら、少し長生きした場合と、何も知らずに、のびのび生きて亡くなった場合との、QOLの差については、あまり調査がないので今後の研究に期待。
(PET) PET検査をガン検診に使うのは被曝量が多いので勧められないが(ガン発生確率は千分の一程度)、すでにがんがある場合は転移巣を見つけて治療方針を決めるのに役立つ。
疫学調査ではそうではなく、寿命については、やった方が微妙によいかも、といったところ。 


心得21 乳がん検診
特に血縁の人が亡くなっているなら是非受けるべきである。

心得22 胃ガン放置で消えたー
興味深い症例なので、学術的に報告してほしい。

心得23 動脈瘤
同意。

心得24 ずさんなエピソードが多すぎます。
心得22は?

心得25 免疫療法
効果が実証されてきている。まだ費用対効果は納得しがたいものがあるが今後に期待できる。 
 転移している前立腺ガンに4ヶ月の延命効果(P = 0.02;Kantoff 363,411 NEJM2010;)自分のリンパ球をとりだして前立腺に反応するようにしてから体内へもどす(Sipleucel-T 免疫療法)。価格は法外で1年生存当たり3000万円支払う計算(Longo 363,1968,NEJM2010)一般の化学療法は300万円位。
 乳ガンのステージ2、リンパ節転移4個以下の人にガンの成分(mannan-MUC1)を注射して免疫を活性化する(感作)療法。有意(P = 0.02)な効果(Vassilaros 5,1177,Immunotherapy 2013)。
(図3)

心得26 医療被害
まれなケース。現在保障制度(PMDA)があり年金も。

心得27 太りすぎは寿命を縮めるー
同意。何でもやせさせればよいというものでもない。なぜ太ったかという原因に問題が見つかれば要改善。

心得28 卵と牛乳
アレルギーには注意。

心得29 ロング缶2本
適量をこえている。ちょうどよいのはおれ・・・というやつだろう。

心得30 ヨウ素で放射線の害を防げるというデマ
放射線治療の専門家なのに放射能と放射線の区別ができていない。この下りは著者が書いたか怪しい。甲状腺を事前にヨウ素でいっぱいにすることで放射性ヨウ素の取り込みを最小限にできる。

心得31 コラーゲン、グルコサミン
同意。とりすぎで肝臓の数値が上がった症例を経験した。消化できなかった分が腸でアンモニアなど有害物質になるからと考えた。

心得32 塩
自然塩は精製時の釜の状態が心配(もしかしたらさびだらけとか)焼き塩なら残留有機物は少ないのではと思う。

心得33 コーヒー
多変量解析による疫学研究はまに受けないほうがよい。20項目があれば95%の確率でとまちがって結果として報告されるものがでてくる。

心得34 昔からずっと、朝4時前に起きてー
明け方は副腎皮質や甲状腺などのホルモン分泌がピークを迎えるので無理をして妨害しないように気をつけたい。

心得35 石けん、シャンプーを使わないー
皮脂がつまると吹き出物になる。低刺激のものに切り替えて様子をみてはどうか。天然と表示しつつ天然成分から合成している偽物に注意。ナチュロン、シャボン玉の二社がおすすめ。

心得36 大病院
治験は内容をみきわめるのが難しいがまともなものは最善の治療を受けるチャンスになる。

心得37 手当ー
ハンドパワー、お金を払ってまではどうかと思う。むしろ出し方を教えてもらおう。

心得38 口を動かすー
よくかんで食べましょう。

心得39 痛い方向に涙がにじむくらいまでくり返し動かすー
痛みが出る一歩手前の範囲で動かすことで循環がよくなる。 痛いのを無視するとケガの原因になりかねない。 スポーツトレーニングと同じ考えでやるとよい。

心得40 ワクチン
かかったら危ない人(心臓病など)は受けた方がよい。保存料の水銀なしのものを選びたい。

心得41 医者がストで死亡率減
死亡診断するのも医師の仕事。

心得42 ポックリ
ポックリいくと「異状死」として司法解剖されるかもしれない。

心得43 喜怒哀楽ー
感情はコントロールできないと思う。無理に泣いたり笑ったりする健康法はおかしいと思う。

心得44 100歳まで働きー
若い人を育てて隠居することで社会は持続可能になるのではないか。急に亡くなると周りは困り技術は途絶えてしまう。頭脳、体力ともに寿命がある。昔の人の知恵に学ぶべき。

心得45 胃ガン転移、胆嚢ガン
予後長くないが化学療法で延命が期待できる。一時的だが元気になって思い出の旅にでたり、身辺を整理したりと余裕が期待できる。
(図4)

心得46 2センチ大の乳ガンー
手術で根治できたかもしれない。

心得47 自宅で亡くなる
ガンの治療、延命療法とは別の問題。しても自宅でなくなることは可能。


「医者に殺されない47の心得」近藤誠 2012アスコム

 


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