ラッキー博士のホルミシス効果, 危ない低線量被曝

2013-03-03 20:19:44 | Weblog


ホルミシス関連の日本の本に登場し、教祖のようにかつがれているラッキー博士の論文の妥当性を検証をしてみた。

参考書籍:
服部禎男著『「放射能は怖い」のウソ』2011.8武田ランダムハウスジャパン
ラッキー著茂木訳『放射能を怖がるな』2011.8日新報道

キーワード Luckey, Hormesis をPUBMED検索で2論文入手。

Radiation Hormesis: The Good, The Bad, The Ugly. Dose-Response 4p169

Atomic Bomb Health Benefits. Dose-Response 6p369 (原爆の健康増進効果)

要点:
1 ホルミシスの例としてデータを引用しているが、引用元のデータとの間に重要な違いが見つかった。(もともと存在しない誤差バーの追加、
プロット位置の間違いなど)

2 日本の電力中央研究所(CRIEPI)の研究者の顔写真が登場。原子力との利害関係の存在を示唆。

3 Lancetの論文などPUBMED検索で見つからない引用論文が6つ以上あり(全70位引用)多すぎる印象。17が自己引用


4 電力業界との利害関係、慎重さに欠けた引用などがあり、論文の信頼性が心配で、まに受けないほうが賢明。


5 低線量域でのマウスや人の遺伝子破壊や変異はすでに証明されている。



ラッキー論文の主張:
哺乳類による動物実験の根拠がないのに法律(由太郎注; 根拠あり、下記)

ホルメシスを受け入れないのは悪(bad)
効用を無視し続ける医学会の醜さ(ugly)



ラッキー論文、図の間違い(さしえ参照):
低線量被曝が健康によい証拠として引用しているグラフは、原典に忠実でない。
 Miller NEJM(1989)321p1285
プロットの位置が間違っている。
元のデータに存在しない誤差バーが追加されている。
 Schull SCIENCE(1981)213p1220
プロットの位置が間違っている。


ラッキー論文が健康増進効果の根拠として紹介している研究;

リンパ腫の予防効果
Ina 163p153 電力中央研究所
  小線量を照射し続けることでマウスリンパ腫の発症を予防できた。病原菌の少ない環境(SPF)で照射マウスに高齢で通常起こる脱毛がみられず体重も有意に重かった。

コメント:リンパ球は放射線で抑制されるので予想できる結果。他のガンまで予防できるかもと考えるのは乱暴。皮膚がんについても検討したようなことが論文にあるが以降発表がないこと(SCOPUS,PUBMEDで確認)より駄目だったのだろう。自己免疫が老化を進めていることを示唆する結果は興味深い。免疫が痴呆を起こし自分に関する情報を忘れて体の細胞を攻撃するのかもしれない。ただし私がマウス(Balbc)を飼った経験ではたまに変なマウスがいて他のマウスをハゲにしてしまうことがある。C57BL6はみんな年を取るとはげるのが本当かは知らない。Balbcではそんなことはない。

ラドン療法
Becker Nonlinearity in biology(2003)1p3 電力中央研究所の資金援助
  リウマチ、関節炎にたいして有効との研究を紹介。痛み止めで亡くなる人の数(アメリカでは毎年1万人以上)と比べたらラドン風呂の方が安全と主張。
日本では三朝(みささ;鳥取県人形峠の下流)16万Bq/L(流しているうちにラドンは飛んでいく。)1500~4500Bq/Lが最適。禁忌は感染症、精神病、妊婦、ガン。
ドイツ、オーストリアでは健康保険で旅費宿泊費込みでラドン療法が受けられる。
1920~40年ではラジウム入りのチョコレートや毛布が販売された。

コメント:放射線による免疫抑制効果によるものと思われる。感染症による死亡が増えていないか検討する必要がある。

ラドンと肺がん
Cohen68p157を引用してラドンは肺ガンを予防する証拠(benefit)としている。この研究はアメリカの地域ごとのラドン濃度と肺ガン死亡率のデータをもとにそのほかのデータを分析に組み込んだもの。喫煙、収入などで補正してもラドンが高い地域ほど肺ガンが少ない結果となった。LNT理論(被曝による被害は蓄積被曝量に比例し閾値はなしとする理論linear-nothreshold theory)のほうが間違っている(failure)証拠だと結論づけている。

コメント:
  しかしながら室内ラドン、鉱夫などに関する研究は多数存在し鉱夫、室内ラドンに関する研究報告全体としては、低線量被曝による肺ガン発生を支持している。 つまりLNT理論を支持している。
  Lubin Boice (1997)89p66によると室内ラドン150Bq/m2以上ではそれ以下と比べて、肺ガンリスクは20-30%増加するとされる一方、喫煙では10倍以上(1500%)増加とされる。
  アメリカは西部ではラドンが高い一方、喫煙率は低い(Stidley 139p312)よって喫煙補正が不十分だとラドンが高いいほどガンが少なく見えてしまう。
  喫煙率は50%だが室内ラドン150Bq/m2以上で暮らし続けている人は5%とされている。(アメリカ環境省EPAによると3軒に1軒とされるがこれは家の中で最も危なそうな所で窓を閉めて計った場合)Samet NEJM(1989) 320p591,Lagarde Pershagen 152p195
  喫煙に関する補正がいかに難しいかは直感でわかるはずだ。
  たとえばLubinが集めて検討した8つの症例対照研究のうちラドンが高いほどガンが増える傾向を示した(喫煙の有無などで補正した上で)のは4つだけ。
 地域別統計には~町の喫煙率~%、平均ラドン濃度~Bq/m3、 といったデータはあるがその組み合わせ(例えば 喫煙していて、かつラドンの高いところに住んでいる人 ~%)のデータは存在しないものがほとんどだ。したがって相乗効果を分析できない。
症例対照研究では喫煙とラドンの相乗効果による肺ガン発生増加が示唆されている。(Lubin 89p49, Samet320p591)
 Cohenの結果は喫煙に関する補正が不十分による可能性が大きい。
  Cohen の研究結果だけを取り上げて放射線の有益性の根拠とするのは無理がある。




「小線量」(100mSV未満)でも相応の被害を受けうる証拠:

蓄積300mSVで子供に突然変異遺伝子が伝わる
Dubrova PNAS(1995)p6251
自然界の突然変異のペースを2倍にする蓄積被曝線量は300mSVであることが数100匹の親子マウスを使った実験で確かめられる。

Dubrova 453p17
300mSVを一気に被曝させても100時間かけて被曝させても突然変異は同じ頻度でおこる。


CT検査で遺伝子破壊
CT検査を受けた人(4~20mSV被曝)した人からリンパ球を取って調べたところ、DNA鎖の切断の数が被曝量に正比例(原点を通る一次関数)してみられた。(Löbrich M. et al.. In vivo formation and repair of DNA double-strand breaks after computed tomography examinations. Proc Natl Acad Sci USA. 102, 8984–9 )

原点を通る一次関数
人の培養細胞(線維芽細胞)に1mSV~100SV被曝させたところDNA鎖の切断の数が被曝量に正比例(原点を通る一次関数)してみられた。(Rothkamm PNAS 100p5057)

人でも原発事故による遺伝子突然変異が子孫へ伝わる
Dubrova Nature380p683、381p267 チェルノブイリから150km地点のMogirevでは夫婦平均20mSV未満の蓄積被曝でも英国の同じ白人と比較して子供の遺伝子に突然変異が1.5倍、夫婦平均20mSV以上ではさらに1.5倍見られる。(いずれもP<0.01)
  1986-1994の8年間で蓄積被曝20mSVは7Ci/km2の汚染地居住が相当とされる。
  参考;南相馬の住宅、地上1mで2.8マイクロSV/毎時 (2011・6・27NHKラジオ)
蓄積被曝10年で200mSVに相当
  分析の対象となっている遺伝子(minisatellite tandem repeat
小衛星くりかえし)は体のタンパク質をコードしている物ではないが、その役割はよくわかっていない。しかし放射線による傷(突然変異)は今後、子孫代々受け継がれることになるので迷惑で気味の悪い話だ。


総合コメント:
  ラドン温泉に関しては、ガン(特に免疫細胞の白血病、リンパ腫など)、リウマチなど免疫の暴走によるとされる病気の人にはよいかもしれない。放射線がガン細胞や免疫細胞を抑制することはよく知られているから効きそうだ。
蓄積被曝300mSVでマウス遺伝子の突然変異が実験で確かめられているから若い人は近づかない方が賢明。子育てが終わるまでは行かないほうがよいと思われる。高齢者でも、リウマチや関節炎への効果は期待できるが、免疫低下とそれによる肺炎などの感染症も覚悟しておいたほうがよい。
  合計20mSV以下であっても、小分けにしても一気に浴びても遺伝子には確実に傷が残り子孫代々伝えられていく。
CTをうけた回数の多い子供ほどガンになりやすいとの報告もあり(Pearce Lancet[2012] 380p499)これで説明できるのかもしれない。