除草剤グリホサートの有害性はどこまで?

2019-04-20 21:11:37 | Weblog

国際がん研究機関(IARC)は、2015年、グリホサートを発ガン物質と認定した。 2019年3月には、アメリカで、グリホサートを2年間使い続けたせいで、悪性リンパ腫になったと主張する、学校用務員が勝訴した(参考サイト1、2)。
 生協などからも、発がん性以外についても、続々と心配な情報が入って来ている。 大手メーカーの小麦製品から0.1ppm以上の グリホサートが検出されている(参考サイト3、農民連食品分析センター)。 グリホサートは、アミノ酸と類似した構造を持つ代謝阻害薬であるが、構造が単純なので、直感的には生体で簡単に解毒できそうに思われる。 これまでに、有害認証されてきた農薬の多くは、ダイオキシンを含めて、ベンゼン環をもったハロゲン化合物であるが、そのような特徴もない。 したがって科学的根拠が気になり、 文献をアメリカ国立医学図書館の検索(PUBMED)などでさがしてみた。 
 疫学研究では、リンパ腫や白血病で有意な関連が見つかっている (Andreott et al. 2018、Chang 51 402)。 動物実験については、IARCによる引用に、腫瘍発生を確認したものがあったが、 ピアレビュー(研究仲間による厳しいチェック)を経て公表されたものではなかった。  しかし、魚毒性、 哺乳類細胞に対する影響などが明らかになりつつある (Samanta 2018、 Smith 2019、 Mesnage 2017)。
 今後、100億円近い巨大な損害賠償事件をうけて、さらに活性化することが期待される、グリホサート研究の成果を見守りたい。

グリホサートが小麦不耐症(セリアック病)の原因?
年々、セリアック病が、グリホサートの使用量と相関するように増えているグラフを根拠としている論文をみつけた(Samsel Seneff 6 159)。これだけでは、私たちの生活や農業の仕方が、平行して、年々変化しているということしか言えないが、論文では、グリホサートが腸内細菌へ与える影響が原因との仮説を立てている。

グラフ: Samsel A, Seneff S. Interdiscip Toxicol. 2013 ;6:159より

性ホルモンへ影響
動物実験では、グリホサート製剤を皮下注射した幼若オスラットに過剰な乳腺の発達が報告されている(Altamirano 2018)。 
 培養細胞実験では、 乳がん細胞増殖促進効果(グリホサート単体100ppm、Mesnage 2017)や、 卵胞顆粒細胞(granulosa cell)の増殖抑制効果(Perego 2017)などが報告されている。
 グリホサート製剤が性ホルモン合成酵素(アロマターゼ)を阻害したとする報告がある。 グリホサート単体では効果がなかった (Gasnier 262 184)。

グラフ:Mesnage R et al. Food Chem Toxicol. 2017 Oct;108(Pt A):30-42. より
Glyphosateの乳がん細胞増殖効果が出始める1E+05 microg / L は、 0.1g / L = 100mg / L = 100 ppm。
グリホサート単体100ppmより 、乳がん細胞(エストロゲン感受性)に対する増殖促進効果が観察された。
たて軸:増殖度% 横軸:濃度 microg / L

グラフ: Gasnier C et al. Toxicology. 2009 Aug 21;262:184 より 横軸:% 純グリホサートは1番左(G)で 性ホルモン合成酵素への有意な影響は見られない。 製剤R400では10ppmよりアロマターゼを阻害した。

白血病の原因となる?
米国でグリホサートを長年使った用務員が、悪性リンパ腫となり、訴訟でグリホサートが原因と認められた。
 動物実験については、論文化されていない、EPA内部で行った報告書がある(Dykstra EPA 1991)。IARCのレポート(IARC monograph 112)で引用されていた。 ラットの実験で、グリホサートの腫瘍促進作用を明らかにしている(Dykstra 1991)。 何故、論文として公表されなかったのか、そして、そのメカニズムを探求するなど、後続の研究がなぜ出てこないまま、30年近く経過しているのかは、少しおかしい気がした。
 疫学研究では、白血病とグリホサートの関連を示唆するものが多数出ている (Andreotti Koutros 110 509、  Chang 51 402)。
 Andreotti ら(2018)による研究では、許可が必要な農薬の使用登録をした、6万人を追跡調査し、 あらゆるガンとグリホサートの曝露量区分との関係を分析した。 T細胞非ホジキンリンパ腫(訴訟と同一タイプ)と急性骨髄性白血病でリスクの可能性が示された。 急性骨髄性白血病の P値は 0.04 であり有意差がでた。 ただし、これは、25回調査を行うと1回は偶然、有意なリスクとして評価されてしまう程度の確信度なので、たまたま有意差がでた可能性を否定できない(0.04 = 1/25, 1- 0.04 = 0.96 ,96%の確信)。 T細胞非ホジキンリンパ腫 では、なぜかP値が算出されていないが、その説明は見あたらなかった。 
 モンサント社がスポンサーではあるが、 多数の追跡調査研究( コホート研究)を総合解析した研究(メタ解析)においても、非ホジキンリンパ腫(NHL)、多発骨髄腫(MM)の有意な増加を認めている(メタ解析相対リスク:NHL 1.3.[1.0-1.6], MM 1.4[1.0-1.9], Chang 51 402) 。 
 疫学研究の問題点は、グリホサートを使う人ほど他の農薬も使う可能性が高く(2,4-D,砒素、水銀など、Chang 2016)、補正をしても、グリホサート単独の影響を評価するのは難しいことである。 疫学研究から示唆される結果を真実とするなら、骨髄球とリンパ球、つまり免疫細胞全体を狂わせる作用がグリホサートに疑われる。

表: Andreotti G eta l. J Natl Cancer Inst. 2018;110:509 より  一番右下に Acute myeloid leukemia(急性骨髄性白血病) の P値 0.04 (.04) 。 表は前後ページに続いている。 下から2番目 にある、裁判になった、T細胞悪性リンパ腫の相対危険度RR(Relative Risk)の95%確信範囲は1.2-7.3と1倍を超えている。 

腸内細菌と脳への影響
 グリホサートの投与により、脳内のモノアミン伝達物質(セロトニン、ドーパミンなど)の量が変化した(Martinez 2018)、腸内細菌フローラの変化とマウスの活動低下が観察された(Aitbali 2018)などの報告があるが、実験での投与量は人間が食べる量の100倍を越している。 ただし、解毒能、動物種による違いを考慮すると、用心が必要だ。
 さまざまな腸内細菌に対する影響を調べた研究では、ラウンダップ100~3000ppm (グリホサート45%含有)、24時間で増殖が完全抑制された(Lozano 2017)。 本研究が見逃した感受性の強い菌によっては残留基準値30ppm(大臣官房 生食発1225第5号 2017年)で影響を受けるはずだ。
 いずれの論文でも、腸内細菌変化と脳へ影響との因果関係については明らかにされていない。
 今後の研究成果を注意して見守るとともに、曝露量を減らす努力を続ける必要がある。

下図 腸内細菌培養に対するグリホサートの影響 Lozano VL et al.  Toxicol Rep. 2017 Dec 19;5:96-107. より

ラウンダップの重金属混入について
ヒ素の含有量が他の農薬と比べて不自然に多いとカーン大学(フランス)のセラリーニらが指摘(Defarge 2017)。
下図 ヒ素の含有量をラウンダップと他の農薬で比較 Defarge N et al.   Toxicol Rep. 2017 Dec 30;5:156-163. より

魚毒性
キノボリウオ(スズキ目Anabas testudineus)に対する曝露実験でエラ、肝、腎の変性(グリホサート製剤  2ppm、 Samanta 2018)、 メダカが卵からふ化する成功率の低下(グリホサート単体 0.5ppm、 Smith 2019)など、 続々と動物実験結果が出ている。

世界のグリホサート禁止への動き
2017年、フランス大統領マクロンはグリホサートを3年以内に禁止へ追い込むと表明。(ロイター通信 November 27, 2017 ) 反対署名130万筆が集まる中、EUは5年に限ってグリホサートの認可を延長。(ガーディアン2017/nov/27)
考察 フランスはオーガニック農業を推進している様子。 米国との農業貿易摩擦が関係しているのではないか? 米国寄りで、グリホサート支持派の英国がEU離脱する要因になったかもしれない。

参考文献;
Aitbali Y et al.  Glyphosate based- herbicide exposure affects gut microbiota, anxiety and depression-like behaviors in mice.  Neurotoxicol Teratol. 2018 May - Jun;67:44-49. 
 純粋なグリホサート250、500mg/日を最長3ヶ月、マウスに投与。 投与期間や量に依存して活動低下や不安傾向が観察された。 ただし、投与量はヒトで25g/日に相当し、基準値30ppm小麦800kgに含まれる量となる。

Andreotti G et al.  Glyphosate Use and Cancer Incidence in the Agricultural Health Study.  J Natl Cancer Inst. 2018 May 1;110(5):509-516.

Altamirano GA et al.  Postnatal exposure to a glyphosate-based herbicide modifies mammary gland growth and development in Wistar male rats.  Food Chem Toxicol. 2018 Aug;118:111-118.
グリホサート製剤を皮下注射した幼若オスラットに過剰な乳腺の発達が観察された。

Defarge N et al.  Toxicity of formulants and heavy metals in glyphosate-based herbicides and other pesticides. Toxicol Rep. 2017 Dec 30;5:156-163.

Dykstra W, EPA.   Glyphosate; 2-Year Combined Chronic Toxicity/Carcinogenicity Study in Sprague-Dawley Rats―List  A Pesticide for Reregistration, B. William Dykstra. Toxicology, Editor. 1991. V. MRID 416438-01. Tox review 008390,0-2037
https://archive.epa.gov/pesticides/chemicalsearch/chemical/foia/web/pdf/103601/103601-263.pdf
白内障、腺腫(肝臓、甲状腺、膵臓)の増加傾向が観察された。統計的有意だったのは白内障と膵島腺腫(P < 0.05)。
方法と結果;
純度96.5%グリホサート
ラットをそれぞれの群にオス・メス各60匹ずつ
各群、餌のグリホサート濃度: 0,2000,8000,20000ppm(0, 0.2, 0.8, 2%)
各群の;
白内障発生(%) 
オス 7,9,18,42、 メス 4,4,6,16
膵島腺腫発生(%)  オス 2,18,10,15

Gasnier C et al.  Glyphosate-based herbicides are toxic and endocrine disruptors in human cell lines.  Toxicology. 2009 Aug 21;262(3):184-91.

IARC MONOGRAPH-112
https://monographs.iarc.fr/iarc-monographs-on-the-evaluation-of-carcinogenic-risks-to-humans-4/
・ マウスで腎臓腺腫、悪性リンパ腫、肺ガンの増加が観察された(統計的有意、それぞれ餌の最大濃度は 3, 0.5,1%)。
・ ラットでも乳ガン、膵臓腺腫などの増加が観察された(統計的有意、餌の最大濃度は それぞれ 1.5, 2%)。

Lozano VL et al.  Sex-dependent impact of Roundup on the rat gut microbiome.  Toxicol Rep. 2017 Dec 19;5:96-107. 

Martinez MA et al.  Neurotransmitter changes in rat brain regions following glyphosate exposure.
Environ Res. 2018 Feb;161:212-219. 
大脳皮質や海馬を含む、あらゆる脳領域で影響が観察されたが、特に基底核が影響を受けやすいようであった。
活性酸素などによる、神経毒性が原因と著者は考察している。
 ただし有意な変化が見られたのは、体重1kg当たり35mg(6日間)より多く投与した群である。 ヒトでは1日2gに相当し、市販の小麦だと2トン以上に含まれる量となる(市販の全粒粉で1ppmの汚染が観測される)。 ところが、小麦残留基準値 30ppmでは、70kgに、グリホサート2gを含むことになる。 動物種や解毒能による違いに対する安全係数を100倍とすると、1日量700gとなり、現実的に食べる量である。 蓄積の可能性などを考慮すると、基準値は甘いと考えられる。

Mesnage R et al.  Evaluation of estrogen receptor alpha activation by glyphosate-based herbicide constituents.  Food Chem Toxicol. 2017 Oct;108(Pt A):30-42.
Glyphosateの乳がん細胞増殖効果が出始める1E+05 microg / L は、 0.1g / L = 100mg / L = 100 ppm。
乳がん細胞(エストロゲン感受性)に対する増殖促進効果が観察された(グリホサート単体100ppmより)。

Perego Mcet al.  Evidence for direct effects of glyphosate on ovarian function: glyphosate influences steroidogenesis and proliferation of bovine granulosa but not theca cells in vitro.  J Appl Toxicol. 2017 Jun;37(6):692-698. 
月経周期の進展とともに卵胞の中で増殖し、エストロゲンを増産する細胞granulosa cell(培養)の増殖を0.5ppmで阻害。

Samsel A, Seneff S.  Glyphosate, pathways to modern diseases II: Celiac sprue and gluten intolerance.  Interdiscip Toxicol. 2013 Dec;6(4):159-84. 

Samanta P.  Assessment of adverse outcome of Excel Mera 71 in Anabas testudineus by histological and ultrastructural alterations.  Aquat Toxicol. 2018 Dec;205:19-24. 
 キノボリウオ(スズキ目Anabas testudineus)に対する曝露実験(グリホサート製剤 [含有率不明] 2ppm, 17ppm)でエラ上皮の過形成、肝細胞の空胞化、腎糸球体の萎縮、尿細管の破壊などが、対照群と比較して高頻度に観察された。 濃度2ppmより17ppmで異常がより強い傾向が見られた。

Smith CM et al.  Developmental and epigenetic effects of Roundup and glyphosate exposure on Japanese medaka (Oryzias latipes).  Aquat Toxicol. 2019 May;210:215-226.

ガーディアン2017/nov/27
https://www.theguardian.com/environment/2017/nov/27/controversial-glyphosate-weedkiller-wins-new-five-year-lease-in-europe
反対署名130万筆が集まる中、EUはグリホサートの認可を5年延長した。

大臣官房生活衛生・食品安全審議官  各検疫所長殿  生食発1225第5号 H29.12.25
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/1225-2.pdf#page=10
グリホサート残留基準値を、最高40ppm(ごま など)まで引き上げる。 小麦は30ppm。(2017/12月)

ロイター通信 November 27, 2017
http://organic-newsclip.info/log/2017/17110866-1.html
フランス大統領マクロンはグリホサートを3年以内に禁止へ追い込む(take all necessary measures to ban)と表明。

参考サイト
1 www.courthousenews.com/monsanto-lawyers-question-cancer-expert-in-roundup-trial
2 www.baumhedlundlaw.com/toxic-tort-law/monsanto-roundup-lawsuit/dewayne-johnson-v-monsanto-company/
用務員Dewayne Lee Johnson 氏のガンが T細胞非ホジキンリンパ腫であること、グリホサート使用期間は2年であることを以上2つのサイトで確認。
3 http://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_flour_1st/index.html
一般社団法人 農民連食品分析センター で残留測定結果を公開。 大手メーカーのパンで0.1-0.2ppm、 全粒小麦粉で1ppm、 薄力粉で0.1ppm 程度検出。
4 https://www.iarc.fr/wp-content/uploads/2018/07/IARC_response_to_criticisms_of_the_Monographs_and_the_glyphosate_evaluation.pdf 
IARCによる意見表明。 モンサント社がマスコミを操作してIARCの信用を落とそうとしたことなど。
5 おすすめサイト
http://organic-newsclip.info/log/2019/19111021-1.html
有機農業ニュースクリップ 発行元は伏せているが、信頼できるソースをもとに記載されている。 世界のグリホサートに対する規制の動きが進んでいることがよくわかる。


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