東海村から富山県神岡への人工ニュートリノ照射実験

2019-03-31 22:33:19 | Weblog

 

梶田先生の講演を聞いてニュートリノに興味を持った。 調べているうちにT2K実験(Tokai to Kamioka)のことを知った。 T2K実験は東海村から富山県神岡鉱山跡にあるニュートリノ観測装置スーパーカミオカンデへ人工ニュートリノを放射してニュートリノの挙動を調べる実験である。
 ニュートリノが民家に向かって放射されていることに気がついたため(上図)、ニュートリノの生物的影響について検討してみた。
 結論としては、T2K実験の危険性は微弱と考えられるが、 住民へのインフォームドコンセントはどうなっているか、研究倫理に疑問を感じた。
目次
1 人工ニュートリノ照射実験
2 ニュートリノ線の生物的影響
3 ニュートリノとは?

1 人工ニュートリノ照射実験
(1) T2K実験による住民被曝はあるが、数百mの距離でも、自然被曝の1000分の1未満
T2K実験では1年半の間、東海村からカミオカンデへに58個の人工ニュートリノ線が届いた( 1日当たり0.1個、Abe et al. )。 スーパーカミオカンデで観測された、人工ニュートリノは、自然ニュートリノ1日当たり10個(Kajita 2010p314)の100分の1の割合で観測されたことになる。 心配なのは東海村へ近づくほど、人工ニュートリノ線が、距離の二乗に半比例して強くなることだ(Abe et al. 2013 p22 , Cossairt et al. 1996)。 距離が千分の1となるND280(280m地点)ではニュートリノの数はカミオカンデの100万倍、つまり自然ニュートリノの1万倍の数になる。 自然ニュートリノ一つ一つのエネルギーは、人工ニュートリノよりずっと大きいから、被曝量の推測において単純に1万倍するわけにはいかない。
 280m地点のニュートリノ流束のデータ(Abe et al. 2013)とニュートリノ流束を被曝線量へ換算する係数(Cossairt et al. 1996)を利用して、表計算で積分した所、年間0.002microSv と小さな値となった(下図)。

 
 ところが、 ニュートリノは、水や土を放射能化する作用がある。 ニュートリノ工場(T2Kとはちがった次世代の製造法)付近の被曝を15mSV/年と試算した報告(Silari M, Vincke H. 2002)がある。 またニュートリノが地中を通ると、放射能が発生するため、 空中へそのまま放射した場合と比較して、住民の被曝線量が10倍以上(超高エネルギーTeVレベルでは1000倍)になるとの試算がある( Johnson C et al. 1998)。 居住地の地下をビームの中心が通るT2K実験において地下水や伏流水は大丈夫なのだろうか? 地下を通ると通らないで最悪で1000倍違うという試算を参考にすると、前段の放射「線」被曝に、その1000倍の放射「能」被曝が加わり、結局、2 microSv/年の被曝となる。 この値は自然被曝の千分の1であり、280m地点でこの程度だから、3km離れれば10万分の1となる。 それほどでもないように感じる。 
 ただ、 たとえ有害性が微弱でも、住民へのインフォームドコンセントが不十分なまま、日本のような人口密集地を選んで行うのは好ましくないと思う。 廃液をうすめて垂れ流す実験室と似ている。
(2) 次世代のニュートリノ工場とは
 T2Kによるニュートリノ製造法では、陽子を加速し、標的へ当てて大量のパイ中間子を作り、その自然崩壊で発生したミューオンとニュートリノを放射する。 その一方で、次世代のニュートリノ工場では加速したミューオンを大量に蓄えて、その自然崩壊からニュートリノを生成する(t2k-experiment.org より)。

2 ニュートリノ線の生物的影響
物質中を光速を上回る速度で通過すると、衝撃波として光を放ち、これをチェレンコフ(Cerenkov) 放射という。 チェレンコフ放射により、細胞内では放射線被曝同様、活性酸素が発生し(Kamkaew 2016)、DNA損傷などを起こすと考えられる。 毎秒3000回、人体のどこかでおこるカリウム40の自然崩壊(平均エネルギーが1MeV)による放射線と比べると、1000倍のエネルギーがあるため、たとえ滅多にない現象であっても、細胞自身による修復能力で対応できるか心配だ。 
 ニュートリノを含む、宇宙線の有害性については、パイロットや添乗員で調査されているが、 比較上、同様に経済的に恵まれた対照集団を設定する難しさもあって様々な議論があるようだ(Hall 2006、 Rafnsson 2005、 Sanlorenzo 2015)。 
 その一方で、宇宙線のような高エネルギー放射線( Linear energy transfer、1-GeV)の有害性を動物実験で確かめた報告がある(Kamkaew 2016)。
 宇宙線によるものか、単にストレスにようものかは明らかでないが、宇宙での滞在が免疫低下を起こすことを示唆する調査がある。 宇宙に13日間滞在した3人の飛行士に対して、帯状疱疹ウイルスの活性化を調べた。 2名は2日目から唾液に感染性のウイルスが検出され、滞在日数とともに、増えていった。(Cohrs 2008)。

3 ニュートリノとは?ーー梶田先生講演より
神岡鉱山(富山県)の採掘あとに大ホールのような巨大な暗黒水槽があり、壁をぎっしり光センサーがうめつくしている。
 100億年の100億倍に1回だけおこると予言されている陽子の自己崩壊を観測するためにカミオカンデ1号機を建設したが、うまくいかなかった。ところが、肉眼でも見えるのは400年ぶりという超新星の爆発がおこった。光センサーは10秒ほどの間、背景ノイズの4倍のエネルギーを観測し、ニュートリノが水槽の水とぶつかったことがわかった。以降、宇宙線が、大気からたたきだすニュートリノを観測することにした。ところが、微小でありノイズからとりだすために、特別な解析プログラムを作る必要があった。理論ではtauとmyuのニュートリノがそれぞれ同じだけ存在するはずなのに、観測データでは、tauニュートリノが1.5倍ほど多かった。
プログラムの間違いだと思って、1年ほどエラーを探したが、エラーは見つからず、事実と考えることにした。
 ニュートリノはtauとmyuという2つの顔を持ち、常に変身しているという理論がある。直上の大気で出来たてのニュートリノはtauとして生まれたまま、変身する時間もなく、カミオカンデに到着する。だからtauが多いと仮説をたてた。そこで、地球の裏側の大気で出来て、地球をつらぬいて、下から上がってきたニュートリノのtauとmyuの割合を、上から降ってきた場合と比べて見ることにした。そのために100倍大きい2号機、スーパーカミオカンデを建設した。
 やはり、上からのニュートリノにtauが多いことがわかり、ニュートリノは飛行しながら、変身することが証明された。
 飛行中に物の状態が変わるということは、飛行物体の中で時間が進んでいることを意味する。仮に、光の速度で飛ぶと時間は止まってしまうはずだから、ニュートリノは光より遅い速度で飛ぶことがわかる。
 荷電したまま、相棒をすてて、宇宙の果てまで飛んでいくようなことはできないから、電荷はもっていないことは理解できる。梶田先生曰く「ニュートリノは電荷のない電子のようなもの」ということだ。
 この先は筆者が考えた。 もし、質量が0で、止まっている粒子をさわったら F = ma より、 ちょっとの力で無限に加速し( a = F/0 = ∞)、これ以上早くなれない光速となって飛んでいってしまう。 つまり質量 0 の粒子は光速未満で動かしたり、飛ばしたりすることはできない。 裏をかえせば、光速未満ということは、質量は0でないことになる。 このようなニュートン力学が素粒子の世界で通用するか自信はない。 無限に小さい力が存在して質量0の粒子を有限に加速するかもしれない。 しかしニュートリノは、中性子が崩壊する時、電子と崩壊エネルギーを分けあって飛び去るのだから、そこそこのエネルギーをもらっているはずだ。
(参考;https://www.researchgate.net/post/Why_do_neutrinos_have_mass
https://www.reddit.com/r/askscience/comments/1z5zn3/why_does_neutrino_oscillation_imply_that/ )

参考文献;
Abe K et al.  T2K neutrino flux prediction.  Phys. Rev. 2013;D 87, 012001

Cohrs RJ et al.  Asymptomatic reactivation and shed of infectious varicella zoster virus in astronauts. J Med Virol. 2008 Jun;80(6):1116-22.

Cossairt JD et al. Neutrino radiation hazards: A paper tiger. inis.iaea.org

Hall EJ. Et al.  The relative biological effectiveness of densely ionizing heavy-ion radiation for inducing ocular cataracts in wild type versus mice heterozygous for the ATM gene.  Radiat Environ Biophys. 2006 Jul;45(2):99-104.
エネルギーが高い(GeVレベル)粒子線の方がX線よりも白内障を起こしやすいことをマウスで確かめた。

Johnson C et al.  Radiological hazard due to neutrinos from a muon collider.
CERN-TIS-RP-IR-98-34, Dec 1998

Kajita T. Atmospheric neutrinos and discovery of neutrino oscillations. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2010;86(4):303-21.

Kamkaew. Cerenkov Radiation Induced Photodynamic Therapy Using Chlorin e6-Loaded Hollow Mesoporous Silica Nanoparticles. ACS Appl Mater Interfaces. 2016 Oct 12;8(40):26630-26637. PMID:27657487 :  Cerenkov radiationはROSを発生させる。

Rafnsson V. et al.  Cosmic radiation increases the risk of nuclear cataract in airline pilots: a population-based case-control study. Arch Ophthalmol. 2005 Aug;123(8):1102-5.
パイロットは白内障にかかりやすい。 オッズ比3.02 (95% 確信域 1.44-6.35)

Sanlorenzo M. et al.  The risk of melanoma in airline pilots and cabin crew: a meta-analysis. JAMA Dermatol. 2015 Jan;151(1):51-8. PMID: 25188246
飛行機搭乗員は一般人の2倍、悪性黒色腫にかかる。
コメント; 南方へ飛んで、ついでに遊んでくるからだという仮説がある。

Silari M, Vincke H.  Neutrino radiation hazard at the planned CERN neutrino factory.   CERN-OPEN-2002-046 ;  CERN-NUFACT-NOTE-105


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