コレステロール薬、健康な人は10年待って

2011-07-24 09:09:57 | Weblog
まとめ:
糖尿病や心筋梗塞になったことがある人は5年飲み続けた100人のうち3人が命拾いすることになる。

検査値が高い程度の健康な人は5年飲み続けた1000人のうち1人が命拾いすることになる。

コレステロール薬の種類によってガンや糖尿病を起こすかもしれないものがある。ただし5年で100人のうち1人より少ない。

メリットとデメリットのバランスで考えると健康な人は薬の副作用の程度が明らかになるまで禁煙、そして食事と運動でとりくむのが賢明。ただしCRPの血液検査をうけておくとより安心。


内容:
体内でコレステロールができるのを抑えるスタチン剤はメバロチン(Simvastatin)、クレストール(Rosuvastatin)、 などの商品名(メーカーが覚えてもらいやすいように適当につける名前でおなじものでもメーカーによって名前がちがう)(カッコ内は薬品名、万国共通で1つの化学物質につく1つだけの名前。スタチン剤なので後ろにstatinがつく)がある。健康な人へもコレステロールが少々高いというだけで広く処方されている。

しかし薬を飲んだほうが良いかどうかは、メリット(血管老化の予防)とデメリット(副作用)のバランスで判断する必要があるだろう。糖尿病や心筋梗塞になったことがある人は血管の老化が進んでいて、それが命取りになる確率が高い(5年で10%以上が血管事故[心筋梗塞、脳梗塞]などで死亡)。スタチン剤を飲むことでその危険を2ー3割削減できるとされている(Lancet2002, 360, P7)。つまり5年死亡確率が15%が12%で済むことになる。5年飲み続けた100人のうち3人が命拾いすることになる。全体死亡も有意に減る(死亡危険度0.87、95%確信区間0.81-0.94、P = 0.0003)

いっぽう血管の老化が余り進んでいない人ではどうだろうか?例えば50才台前半でLDL(悪玉)が190MG/DL、喫煙なし、HDL(善玉)正常、最高血圧160MMHG未満の人が10年以内に心臓の血管の病気(冠動脈疾患)になる確率は男で4%、女で1%未満とされる(FRAMINGHAM POINT SCOREで計算可能。THE WASHINGTON MANUAL OF MEDICAL THERAPEUTICS 33版)。 この場合死亡率はさらに低い。5年死亡率はさらに低い。このようにリスクの小さい人に対するスタチン剤の予防効果はどのようになるのか?実はリスクが低くても同じようにそのリスクを3割引するとされている(LANCET2006, 368, P1155オリジナル論文, P1135解説)。つまりスタチン剤を飲むことで削減できる死亡リスクは1%をはるか下回ることになる。

たとえば10年で冠動脈疾患と診断された人が4%なら5年で2%(1.02の2乗は1.04を利用)その1/5が死亡なら(Lancet2006, 368, p1155;血管事故死亡者と冠動脈疾患と診断された人の比率は1:5)死亡リスクは0.4%、3割引で0.3%つまりその違い(メリット)は0.1%だ。5年間で0.1%死亡が減るから飲みましょうといわれたら、どう考えるだろうか?(1000人が5年間飲みつづけて、1人が冠動脈疾患で死なずにすむ。ただし全体死亡は有意に減らないことを了承しておく必要がある(Lancet2006, 368, p1155; 死亡危険度0.72、95%確信区間0.52-1.01)。

一方気になる副作用だが Simvastatinでは統計的には有意でないものの、ガンによる死亡が5年で0.1から0.4%プラセボより多い(Lancet2002, 360, p7; Lancet2011, 377, p2181)。また Rosuvastatinではガンによる死亡は2年で有意ではないが0.3%プラセボより少ないものの( NEJM 2011, 359,p2195)、2年で糖尿病と診断された人が0.6%プラセボより多く統計的に有意である(P = 0.01; NEJM 2011, 359,p2195)。 つまり、クレストール(Rosuvastatin)を飲んでいる人の200人に1人が、2年以内に副作用で糖尿病になる心配がある。スタチン剤の多くは血糖の調節力をおとすとされている (NEJM 2011, 359,p2195)。糖尿病が増えたか検証している論文は上述ではNEJMのものだけである。Pravastatinではガンによる死亡は5年で有意ではないが0.9%プラセボより少ない(Circulation 2008, 117, p494)

Simvastatin による発ガンの可能性とそのメカニズムは不明確だが免疫系に影響することが知られている。ローカルな免疫細胞(抗原提示細胞)が、巡回してきたリンパ球へ異物発見の情報を伝えるのを抑制してしまう(Nature Med.2000, Kwak, v6,p1399)。間違ってできたガン細胞を処分できなくなるかもしれない。リンパ球の増殖も抑制する。スタチン剤によって免疫系への影響は質、量とも違い、SimvastatinやAtorvastatin の方が PravastatinやLovastatin よりも強いようだ(Nature reviews immunology, 2006, Greenwood, vol. 6, p358)

臨床治験の動機として製薬業界のマーケティングが見え隠れすることも気がかりだ。例えばLancet2006, 368, p1155は日本発だが、第二著者は三共製薬の株主であり、12名の著者のうち9名が金銭を公演費や旅費名目で三共製薬より受け取っている。さらにこの治験はプラセボを使っていない。つまり医師は患者が治験のどのグループに入っているか把握している。さらに結果の指標が「どれだけ冠動脈疾患と診断されたか」ということなので、医師の判断が直接結果につながる仕組みになっている。

現在、新しいスタチン剤が続々と発売される中、長期的な副作用をとらえるのは難しい。しばらく様子を見る必要がある。したがって、コレステロールだけ検診でつかまった程度なら、医師に冠動脈疾患で死亡するリスクについて相談すれば万全だが、まず禁煙、そして食事と運動でとりくむのが賢明だ。上の計算からほとんどの人は10年ほど経ってからでもおそくないはずだ。


引用文献の詳細:

Lancet2002, 360, p7
イギリス 40-80歳、2万人の冠動脈疾患、閉塞性動脈疾患、糖尿病患者、5年間
Simvastatin 40mg vs プラセボ
血管事故は(心筋梗塞、脳梗塞など)24%減少した(95%確信区間19-28)。(19.8vs25.2%)
血管事故による死亡は17%減少した(95%確信区間9-25)。(7.6vs9.1%)
全体死亡は13%減少した(95%確信区間9-11)。(12.9VS14.7%)
統計的有意でないがガン死がSIMVASTATIN 群で0.1%多い(3.5VS3.4%)


Lancet2006, 368, P1155
日本 40-70歳、4千人の総コレステロール230MG/DL以上で冠動脈疾患、脳梗塞にかかったことがない人、5年間
Parvastatin 10-20mg と食事指導vs 何も与えないで食事指導だけ

血管事故は(心筋梗塞、脳梗塞など)3割減少した(95%確信区間不明)。(7.2vs 10.5%)
血管事故による死亡は4割減少した(統計的有意でない、p=0.22)。(1.1vs1.8%)
全体死亡は3割減少した(統計的有意でない、p=0.055)。(5.5Vs7.9%)
冠動脈疾患と診断された人は33%減少した(95%確信区間9-51)。(6.6vs10.1%)
ガン死の有意な増加なしと記載あり(数値公表なし)。

この調査で女性のみ取り出した研究Circulation 2008, 117, p494では
ガン死がPravastatin 群で0.9%すくない(統計的有意でない、p=0.12; 1.0vs1.9%)

コメント:プラセボを使っていないので医師の期待(ピグマリオン効果)が影響している可能性がある。たとえば投薬していない群の患者が内心粗末に扱われたり、心筋梗塞を疑うような症状が出た時に「やはりでたか」ということで過剰にに血管造影して小さい病変から冠動脈疾患と診断されるようなこともあるかもしれない。


Lancet2011, 377, p2181
イギリス 40歳以上、9千人の血液クレアチニン(腎不全の指標)1.7mg/dL以上(女性は1.5以上)の人5年間
Simvastatin 20mg + Ezetemibe 10mg(コレステロール吸収阻害薬) vs プラセボ
血管事故は(心筋梗塞、脳梗塞など)2割減少した(95%確信区間不明)。(7.4vs 8.8%)
血管事故による死亡は1割減少した(統計的有意でない、p=0.3)。(7.8vs 8.4%)
全体死亡は統計的有意でないがふえた(P=0.63)。(24.6VS24.2%)
統計的有意でないがガン死がSimvastatin + EzetemibeE  群で0.4%多い、呼吸器による死亡は0.5%多い。

コメント:全体死亡の増加はSimvastatinで免疫による抵抗力が落ちたことが原因かもしれない。

NEJM 2011, 359, P2195
26カ国 50歳以上、1万8千人 LDL 130MG/DL未満かつCRP2.0MG/L以上の健康な人、 2年間で中止(薬のメリットが明らかになったから)。
Rosuvastatin 20mg vs プラセボ
血管事故は(心筋梗塞、脳梗塞)半分に減少した(95%確信区間不明)。(1年間で0.35vs0.71%)
血管事故による死亡はかわらない。(1年間で0.07vs0.07%)
全体死亡は20%減少した(95%確信区間3-33)。(1年間で 1.25VS1%)
統計的有意に糖尿病と診断された人が0.6%増えた(P = 0.01)(3.0VS2.4%)

コメント:CRPをはかることで血管事故のリスクが分かる。確率は低いが、Rosuvastatinは糖尿病を起こすので要注意。





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