血の青い女性とは ー献血で緑色血漿

2016-03-17 03:04:12 | Weblog

 献血の成分献血で血漿が緑色の人がいる。血漿とは血液から固形成分の血球(赤血球、白血球、血小板)をのけた液体成分をいう。この液体はほとんどの人はオレンジ色をしているが、まれに緑色の人がいて驚くことがある。

青い色素は避妊薬や妊娠による高エストロゲンで増える
 さて、その緑になる原因であるが、セルロプラスミンという銅をくっつけて輸送するタンパク質が青いためである。(NEJM1969 v281 p205;Anestheology2008 vol8 p764)セルロプラスミンは女性ホルモンであるエストロゲンによって増加する。つまりエストロゲンの高い人ーー妊婦や女性ホルモンを服用している人は青い色素が増えて、血漿が緑になることがある。妊婦は献血できないことになっているから妊婦の緑色血漿を見ることはない。
 
発色のしくみ
 青(セルロプラスミン)と黄色(カロチン、ビリルビン、トランスフェリン)や赤(こわれた赤血球のヘモグロビン)のバランスで色が決まる。最近は採血した後の分離の技術が向上して、こわれた赤血球の赤が少なくて、ますます青くなりやすいようだ。(Anestheology2008 vol8 p764)

緑の血漿は透明なら黄色と同じように使える
 緑の血漿は濁っている場合、緑膿菌汚染(体が弱ったときの緑の鼻水の原因)を疑う必要があるが、すきとおっていれば安心してよいようだ。(Canadian Blood Services のpdf: Visual Assessment Guide )
 緑のほとんどはエストロゲン服用中の女性のものと見てよい。

子育てと献血
 妊婦や授乳中は献血できないことになっている。鉄は子供の発達に重要だからである。懐妊時に鉄を満タンにしておくことが重要だ。出産時のヘソのおを切るタイミングを遅らせるだけで(少しでも多くの血液を赤ちゃんに与える)発達に違いがでてくることが知られている。(Lancet. 2006 ;367(9527):1997)
 出産経験のある女性の献血を輸血すると、特有の副作用をおこすことがある。女性は妊娠するとその子供のHLA抗原に対して抗体をつくる。その抗体を含んだ血漿を子供と同じHLAを持つ人に輸血すると肺で破壊作用をおこすことがある。したがって、妊娠したことのある女性の血液はわずかながらリスクがある。(輸血関連急性肺障害 TRALI: transfusion related acute lung injury) 子育てという大きな社会貢献をするあたりで、献血はもうリタイアという神の思し召しのようだ。
 
避妊薬が効くしくみ
 避妊薬によるエストロゲン作用は、通常の月経周期における状態を超えていて、卵の発育を抑制する。一方、避妊薬のプロゲステロン作用は子宮の入り口の液体を精子が入りにくくしたり、子宮に卵が着床しにくくしたりする。
 一方、体内で作ったエストロゲンでは卵が育ち、そして排卵指令(LHサージ)がおこる。その段取りであるが、卵は育つとともに、そこから放出するエストロゲンの量が増えてくる。しかし、それは卵の生育を抑える量ではない。このときエストロゲンはLH放出を抑制している。卵が育つとともにエストロゲン放出も上がってきて、ある高さ以上で、3日以上エストロゲンの高い状態がつづくと、エストロゲンのLH抑制作用が逆転するスイッチが入り(、LHサージすることがわかっている。
 寒い日がつづいて、だんだん暖かい日が増え、そして続くと桜が開花するのと似ている。薬のエストロゲンでは常夏の国となり、桜は咲かない。
 過去には、エストロゲン単独投与を含むスケジュールが行なわれていたが、内膜ガンの原因となることがわかり(内膜増殖作用のせいと考えられる)プロゲステロンが常に加えられるようになった。
 プロゲステロン単独でも避妊薬として使えるが、信頼性は落ちる。(合剤で年妊娠1%未満、プロゲステロン単独では2ー7%)
 プロゲステロン単独では予期しない出血で困る問題があるのでエストロゲンをいれて出血サイクルを制御している。
 (Current Obsteric & Gynecology 8thed DeCherney) 

避妊薬は緊急避妊に使える
 避妊薬でレボノルゲストレル(levonorgestrel)を含むものは、緊急避妊に使える。
アメリカFDA(食品と薬品を取り締る機関)も安全で有効と決定した。(Federal Register vol.62, No.37 p 8610 Feb 1997)
  FDAのすすめる使用方法は事があってから72時間(3日)以内に1回目(レボノルゲストレル0.125mg 含有のものなら4錠;
つまり合計0.5mg)、その後ちょうど12時間後に2回目(同じく4錠)
ということだ。2回目がちゃんと服用できる時間になるよう気をつける。夕方に始めてしまうと2回目は明け方に飲まなくてはいけなくなる。
 避妊成功率は5ー9割、平均7割で、飲む量を増やしても効果は上がらない。飲まないと妊娠確率8%だがこれを2%[8*(1-0.7) = 2] におさえることができる。
 副作用は半分の人に吐き気が起こり、5人に1人は吐く。
 日本で手に入るのはアンジュかトリキュラーでいずれも黄色い玉がレボノルゲストレル0.125mg含有である。1セット1ヶ月分(2千円位+自費の処方せん料と診察料)に黄色は10錠入っている。つまり1セットで足りて2つ黄色が余る。かかかりつけ医に処方箋を書いてもらえば薬局で買える。赤と白では合わせて11錠で、レボノルゲストレルは合計0.67mgと1回分に使えそうだが、エストロゲン作用(エチニルエストラジオール合計0.38mg)が強くなるので(黄色4では合計0.12mg)副作用がひどくなることが予想される。黄色い玉8錠を銀紙かラップで厳重にくるんでお守りにいれておけば、小さな命を1つ救えるかもしれない。
 プラノバールは月経不順にしか適応がないが(1錠ノルゲステル0.5mg,エチニル0.05mg、14円)FDAは2錠を2回(計4錠)で有効としている。
 日本で緊急避妊に適応のある処方はノルレボ(一般名 レボノルゲストレル0.75mg錠を2錠、72時間以内)のみである。 添付文書(2017年4月確認)によると、 妊娠阻止率 84%、 妊娠率 1.3% と、前述(それぞれ7割、2%) よりは若干、成功率が高いようだ。 他の方法で副作用がおこっても補償(PMDAという機関がある)が受けられない点が困った所だ。ただ、望まない妊娠をしてしまうことによる影響(中絶手術や精神失調のリスク)の方が副作用のリスクをはるかに上回るはずだ(だからFDAは認めたのだろう)。いざとなれば補償ありなしを考える場合ではないと思われる。ノルレボも、どこの医院でも医師さえ認めれば、処方してもらえる。保険証をださなくても、自費の全額負担で可能だ。時間的、心理的な余裕があればこちらの方が安心だ。
 避妊薬で怖い副作用は静脈で血液が固まって、肺へ飛んで破壊する静脈血栓症がある。遺伝でなりやすい人がいるが、事前に調べることはできない。したがって、水分を十分とって(カフェインを含む茶、コーラ、コーヒーや酒は脱水するのでだめ)足をよく動かし、立ちっぱなしをさけるなどして、予防することが大切だ。静脈血栓症は長期にエストロゲンを過剰にとることで、血液を凝固させる因子が増えたり、凝固を防ぐ因子が減ったりすることで発症するとされている。(Tchaikovsky Rosing v126 p5) 従って1、2回、常用量をこして飲んだからといって、急に起こるということにはならないと推定できる。長期に飲んでいると、血液中の性ホルモン結合蛋白(SHBG)の量が増加するので、この度合いで危険を評価できるという説があるようだ。(Tchaikovsky Rosing v126 p5; Odlind v81 p482 )
 長期の過剰なエストロゲンは軟骨を成熟させてしまうので若いとき飲むと背が伸びなくなる。


参考文献
Current Obsteric & Gynecology 8thed DeCherney, Pernoll.Appleton Lange

Wolf P, Enlander D, Dalziel J, Swanson J.  Green plasma in blood donors.
N Engl J Med. 1969 Jul 24;281(4):205

Elkassabany NM, Meny GM, Doria RR, Marcucci C.  Green plasma-revisited.
Anesthesiology. 2008 Apr;108(4):764-5

Chaparro  CM Effect of timing of umbilical cord clamping on iron status in Mexican infants: a randomised controlled trial. Lancet. 2006 ;367(9527):1997-2004.

www.veripalvelu.fi/AmmattilaisetSite/Documents/Visual assessment guide_en.pdf

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