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武蔵野物語 3

2007-09-15 20:24:43 | 武蔵野物語
府中駅からコミュニティバス(ちゅうバス)、という小型バスが30分おきに市内を巡回していて、100円で乗れるのでゆりこも利用したが、結構混んでいた。府中市美術館前のバス停までも近くて便利だ。
父も行きたそうにしていたが、話が長くなるのが嫌で一人で来てしまった。
二階が展示室なのだがとても暑い日曜日だったので、視界が広くて眺めのよさそうな一階の喫茶室で冷たいものを飲んでからにしようと思い、入ってみると先客は一人だけで、それが昨日公園で会った男性だった。彼もすぐに気づき驚いた顔で立ち上がった。
「きのうは有難うございました、あの、よろしかったらご一緒にどうですか」
「・・それでは失礼します、私沢田と申します」
「井坂です、きょうは真夏の様ですね」
ゆりこは、井坂と向かい合ってまともに顔をみた。30代半ばから後半に見えたが、独身の名残りも感じさせた。
一方、井坂は見とれていたといっていいだろう。彼女は20代後半なのだろうが、一言でいえば、擦れていない若さがあり、近くで見るほどあどけない部分もある。
白にちかい無地のブラウスに、夏のグリーン系のタイトで短めなスカート、健康で形の良い膝が眩しかった。
「井坂さんは絵を描かれていましたね」
「趣味なんですよ、他になにもできなくて」
「私、作家さんかと思いました」
「自己流で、好きで描いているだけなんです」
「でも誰でも描ける訳ではありませんから、やはり素質がおありなんですわ」
「どうでしょう、観る人が決める事ですから、きょうは二階の展示室を観にいらしたのでしょう?」
「そうです、ヨーロッパの街並みが、温かみのある描き方で、とても惹かれますね」
「いいですね、私も好きですよ、休憩を先にとってしまったのですが、これから一緒にいきませんか」
「ええ」
ゆりこは返事をした後、軽はずみだな、と自分に言い聞かせた。
コメント
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