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もう一つの春 2

2006-09-24 10:56:32 | 残雪
木曜日だったのが幸いして二泊の予約がとれた。週末の一人旅プランは無いそうだ。チェックイン前に着いてしまったが、温泉にごゆっくりどうぞと言われ入ってみると自分だけであった。
それ程広い浴室ではなかったがとても眺めが良く、右側が山で左に下ると大きな杉林、遠い正面には山々の連なりが見え、今は貸切の展望風呂だわ、と嬉しくなってしまった。
1時間程ゆっくり浸かってロビーに戻ってみると、少し曇ってきたので散歩に丁度良いと思い、受付で聞いた杉林の神社に行ってみる事にした。
下りなので曲がりくねった道を歩いても10分程で着いてしまった。
正面の一番奥まった所に、何百年も経っているような大杉が一直線に伸びていた。
その下の平らな石に一人腰掛けていると、色々な想いが浮かんでくる。
若い程癌の転位も早いと聞く。
私の寿命も短いのかしら、母だって日本人の平均よりもずっと早く亡くなってしまったし、きっとそうなのよ、私の人生なんてこんなものなんだわ、相談できる身寄りも無く、私が赤ん坊の時に別れた、父とよばれる人とはその後全く音信がないし、母の葬式にも来なかった。
母は自分の親の事も、自分の夫の事も何も話してくれずに逝ってしまった。
何故なの、どんな暗い過去や話したくない出来事が有ったにしても本当の事を知りたいの、誰だってそうでしょう、お母さんそうじゃないの、そうじゃないの、何とか言ってよ。
春子は心の中で泣き叫んでいた。
その時遠雷が聞こえた。
その瞬間、春子に記憶が蘇ってきた。
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