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唐木田通り 2

2006-09-19 20:32:11 | 唐木田通り
二人は急ぎ足で駅に向かい、20分程で辿り着いたが、由紀子は随分歩いたようでもまだ昼になっていない。
「本当に助かりましたわ、あの、私中谷と申します、有難うございました」
「沢村です、天気予報は曇りでしたけど、いまの時期は当たりませんね」
「本当に、歩くのには涼しくて良いのですけれど」
そう言いながら、濡れた髪を、紺地にピンクのハンカチでふき取っている由紀子は、しっとりとした美しさで周りを照らしていた。
「まだ止みそうもないなあ、昼も近くなってきたけど・・・」
「あの、よろしかったらお昼をご一緒になさいませんか、ほんのお礼のつもりで、近くにカフェレストランみたいなお店も知っていますし」
「そんなお礼なんて、でもお腹も空いてきたのでぜひご一緒させて下さい」
由紀子の後姿に惹かれる様に沢村は従って行くと、3,4分でその店に着いた。
住宅街の一角にごく自然に構え、入り口に観葉植物や季節の花木が飾られている。
店のカウンター席に座ると、扇形に広がっている出入り口の空間から唐木田通りが見え、そこを時折女子大生が歩いて行く。
沢村は初めての店とは思えない程寛いでいた。最もそれも由紀子の存在あればこそなのだが。
「私、たまに一人でこのお店に来るんです、考え事や仕事の構想を練る時、ここが一番落ち着くというか、集中できるものですから」
「いい雰囲気がありますね、大人の店ってところかな」
「ええ、コーヒーやケーキだけでなく、料理も結構本格的なんですよ」
「夜はバンド演奏の入る日もあるんですね」
「夜来た事はないのですが、ジャズ演奏みたいね」
「じゃあその内、ご一緒しませんか」
「家庭のある私を誘うの?」
コメント
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