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ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

里芋は心を和ませる

2007-08-19 07:32:14 | 食物の咆哮 野菜編
 里芋の煮っ転がし
 これには独特の味わいがある

 食す三大芋
 ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ
 この中で
 おせち料理にも欠かせないのは里芋だけ

 日本の伝統的な芋
 ジャガイモやサツマイモのような新参者には無い風格
 自尊心を持った芋
 それが里芋

 芥川龍之介の芋粥も
 この里芋
 芋煮も里芋で鳴ければならない
 ぬるっとした歯ごたえ
 口の中で広がる抑えた甘み
 サツマイモの甘みに比べ
 なんと上品なことか

 ジャガイモの
 わざとらしいホクホク感とも異なり
 泰然自若とした芋の風格
 巨大な葉の存在感も
 畑では他を圧する

 芋の王者は
 誰がなんと言おうと
 里芋
 風に騒ぐ葉は
 大地の鼓動を伝えるかのよう

 ああ
 里芋を食べたい
 蒸して
 皮をずるっと剥く
 あの感触がいい
 口の中にぬるっと入る
 あの感触もいい
 早く収穫の時期よ来い

 食卓の里芋を見るだけで
 心は和む
 畑では夏風に葉が揺れている

 

ニラは野菜と雑草の狭間で

2007-08-13 19:50:18 | 食物の咆哮 野菜編
 ニラは白い花をつける
 夏から秋
 その匂いに似合わず清楚な花

 ニラは炒めて風味を増す

 ニラレバー炒め
 もやしを加えるのもよし
 レバーとニラのコラボレーションは
 昼の定食の王道

 ニラタマ
 妻の得意料理
 単純だが深い味わい

 が
 歯に引っ掛かる繊維は手ごわい
 
 胃に入りそこねたニラが
 歯の隙間で萎縮する

 ニラには
 爪楊枝が欠かせない
 妻は嫌う
 わたしが爪楊枝を使用する姿を
 さげすんだ目で見下す

 ああ
 ニラは餃子にも欠かせない
 ニラの持つつんとした臭さ
 ニンニクにはない香り

 ニラとニンニク
 どちらもユリ科
 葱の仲間
 が、生命力はニラが上
 雑草としても
 街の片隅に生えている
 
 踏まれてもたくましく成長し
 白い花を咲かせ存在感を示す

 雑草としてのニラは見向きもされない
 哀しいニラ
 街の各所で見かけながら
 誰も収穫しない
 
 ニラは
 人々の無視をよそに花をつける
 清楚な花を
 野菜と雑草の狭間で
 ニラは道端に可憐な花をつける

蝉時雨を聞く蒟蒻畑

2007-08-09 08:29:48 | 食物の咆哮 野菜編
 蒟蒻芋の林立する畑で
 ヒグラシの悲しげな鳴き声を聞く

 カナカナカナカナ
 カナカナカナカナ

 空ろに響く声の向こうに
 深い森

 コンニャクゼリーを口にして逝った
 幼児や老人
 その卒塔婆のように連なる茎

 マムシグサ
 テンナンショウ
 
 不気味な森の草本に似て
 食用として栽培されるコンニャク

 それにしても
 これは野菜なのか
 野菜と呼べるのか

 コンニャクイモは自問自答する
 天空に向かい
 葉を広げるわたしは
 野菜と言わずしてなんだろう
 
 いやいや
 野菜としてくくるべきではない

 農作物

 その幅広い呼称こそ
 コンニャクイモにふさわしい

 そんな自問自答を余所に
 我が家の食卓
 味噌田楽をいただく

 コンニャクのあの弾力
 歯ざわり
 トコロテンとも餅とも異なる弾力
 食感

 コンニャクはあくまでもコンニャクの歯ざわりで
 口の中に侵入してくる
 噛みきっても噛みきっても
 潰れることの無い弾力
 
 コンニャクはたぐい稀な優柔不断で
 口の中を混乱させる
 わたしは
 咀嚼をあきらめ胃袋に流し込む

 蒟蒻芋の畑は
 蝉時雨を聞く
  

トマトは丸かじりを待つ

2007-08-07 06:05:32 | 食物の咆哮 野菜編
 赤く熟したトマトには
 そこはかとない色香がある

 太陽の光を浴びて
 赤く熟したその肌は
 瑞々しく晴れやか

 頬を寄せると
 えもいわれぬトマトの匂い

 茄子科の持つアルカロイドのかすかな毒々しさも
 トマトの美しさに深みを与える

 遠く南アメリカから来た夏の味覚
 今やいつの季節でも食すことができるが
 やはり味は夏の路地モノ

 トマトのハウス栽培は邪道
 ましてロックウールの栽培はもってのほか
 トマトは
 太陽の光で育ってこそトマト

 畑で採れたトマトを
 氷水の入ったバケツに放り込み30分
 冷えたトマトを取り出し丸かじり
 これは美味しい
 途方もなく美味しい
 トマトのほのかに甘く
 ほのかに生臭いかおりが
 口の中にいっぱいに広がる

 ほんの少し食塩を振り掛けて食うのも良し
 
 が、最近のトマトをめぐる退廃
 なんという哀しいトマトの増殖

 本来の香りと味を失ったトマトが
 店頭で大きな顔をしている
 この退廃が
 私には許せない
 手にはいらなくなった美味しいトマト
 あのトマト臭いトマトはどこへ消えた
 私は哀しい

 で、仕方なく自ら育てることに
 そして我が菜園のトマトを食すことに
 これは美味しい
 本当に美味しい

 トマトは丸かじりを待っている
  
 

オクラの粘る心

2007-08-04 07:25:46 | 食物の咆哮 野菜編
 オクラの命は
 あのネバネバ

 納豆とは一味違うネバネバ
 ネバネバ、ネバネバ

 さっと茹で、
 細かく切り
 カツオブシと醤油で食す
 納豆のように匂わず
 歯ごたえは爽やか
 夏の食感

 カレーやスープにも用いることが
 エスニックな味覚
 オクラのさりげないネバネバ
 納豆に無い
 淡白なネバネバ
 ネバネバ、ネバネバ

 オクラはアフリカ原産の野菜
 どことなく日本的な名前だがれっきとした英語
 オクラホマシティーのオクラ
 Okla
 
 異郷の地横浜の畑
 オクラは何を思い育っているのか
 孤独なオクラ
 遠くで鳴く蝉の声に耳を傾けるオクラ
 オクラは風に揺れる

 近縁にケナフ
 トロロアオイ

 さらに少し離れ、ハイビスカス
 ムクゲ

 花は一日で終わり
 実をつける

 オクラは粘る心で食卓にのぼる

真夏のキュウリが叫ぶ

2007-07-23 18:11:37 | 食物の咆哮 野菜編
 キュウリは
 わたしの目の前で
 じっとうなだれている

 遠い季節
 揺れる風
 
 キュウリを刻む妻
 さっと塩をふり
 ぎゅっと手のひらで押し
 手の中で絞る

 ポン酢が似合う
 カツオブシが似合う
 木耳が似合う
 ワカメが似合う

 キュウリはキュウリ
 瓜科の匂い
 カメムシにも似た 
 孤独な匂い

 キュウリはキュウリ
 ジャガイモや
 玉葱や
 ハムやゆで卵
 サラダにキュウリ

 キュウリはキュウリ
 一夜漬けのキュウリに
 食卓は燃える
 
 が、すべてを凌駕するキュウリ
 取れたてを
 味噌をつけての丸かじり
 これこそキュウリを食す醍醐味

 今夜の食卓は
 一本のキュウリ

 ああ
 キュウリはキュウリ
 

赤いニンジンは真っ赤ではない

2007-03-23 18:11:46 | 食物の咆哮 野菜編
 ニンジン
 セリ科の根菜
 色はオレンジ
 決して赤ではない
 葉は緑
 深い緑
 キャベツのような中途半端な緑ではない

 私は子どもの頃ニンジンが好きではなかった
 セリ科の植物には独特の匂い
 嫌だった
 が 
 今は大好き
 
 冷蔵庫の片隅で、水分を失いかけているニンジン
 それを乱切りにして
 塩を少々入れた熱湯で5分ほど茹で
 食す

 ただの塩味
 それだけ
 実にぶっきらぼうな料理
 しかし美味しい
 マヨネーズは不要

 ニンジンは我が家のカレーに不可欠
 ニンジン、タマネギ、ジャガイモ
 カレーの三種の神器
 肉がなくてもニンジン

 ナマスにもニンジンがなければ話にならない
 あの彩り

 サラダもいい
 ニンジンスティック
 沖縄のアラ塩で食す
 マヨネーズ、ドレッシングのたぐいは邪道
 ニンジンには食塩
 それで十分

 ニンジンはエライ野菜
 連作障害がない
 キアゲハの幼虫も好物

 ああ
 私はキアゲハになって空を舞いたい

パセリはそっと微笑む

2007-03-09 08:30:04 | 食物の咆哮 野菜編
 パセリはあくまでも脇役
 皿の片隅に緑で鎮座する
 そして微笑む
 
 食されることもあれば食されないことも
 せり科の植物の宿命

 香りと口の中に広がるパセリの風味
 独特の世界に
 わたしはうっとり

 そう、パセリは肉料理の味を引き立て
 サラダに深い趣をもたらす

 パセリはあくまでも脇役に徹する
 オシタシや煮物には使うこともない
 漬物にも不向き
 パセリはパセリ
 
 パセリは深い緑で、畑の片隅に箱庭ほどの森林を形成する
 春が本格的になる頃
 キアゲハの訪問を受ける

 パセリに産み付けられた卵は
 幼虫となり、葉を貪り食い
 時には食べつくし
 再びキアゲハに成長して飛んでいく

 パセリはキアゲハの母なる森

 食卓では料理の引き立て役
 スーパーでわざわざ購入するものではなく
 鉢植えや畑の一株で十分
 
 ああ、パセリはパセリ
 ハンバーグステーキの脇にそっと鎮座する緑
 わたしはそっと食す

閉じこもるキャベツの嗚咽

2007-03-04 10:29:03 | 食物の咆哮 野菜編
 キャベツは閉じこもる
 葉をまき、じっと閉じこもっていく
 扁平な丸みを帯び
 固く重く閉じこもっていく

 が、決していじけているのではない
 心は豊か
 そしておおらか
 その調理法は千差万別

 ただ刻み食す
 とんかつではソースを絡め
 あのキャベツ臭い味わいは、こってりフライを引き立てる

 コールスローも味わい深い
 キャベツはサラダの優等生

 むろん炒めてもよし
 回鍋肉
 肉とキャベツは絶妙のコラボレーション

 もっとシンプルに野菜炒め
 モヤシ、ニラなどともよく合うし、レバーやイカなども合う

 煮てもよし
 ロールキャベツ
 やわらかいキャベツを噛み切り
 中からあふれ出る肉汁の口内鳴動
 
 味噌汁だって具として違和感はない
 漬物だってぱりぱり感を維持して
 口の中に存在感を示す

 キャベツの光沢ある葉は
 やわらかい冬から春にかけての日差しが似合う

 かつて、畑を乱舞したモンシロチョウ
 あの光景は、今はない
 農薬のせいか品種改良のせいか
 消えていったモンシロチョウ
 あれだけ固い絆で結ばれていたモンシロチョウとの決別
 切ない現代という病巣は田畑を蝕む

 また、時として採れすぎ
 価格の暴落が悲劇を生む
 畑で圧し潰されていく憂き目に何度も
 閉じた葉の中からは、嗚咽の声が

 だが、キャベツよ泣くな
 今日も細かく刻み、とんかつソースを厚く絡めて食べてあげるから

突き刺さるダイコンの発熱

2007-02-20 17:32:44 | 食物の咆哮 野菜編
 ダイコン
 生産量一位の野菜
 アオクビは、大地に突き刺さり直立する

 端正な白い肌とまっすぐな姿勢
 頭にいただく緑のアフロヘア
 老いのせいか、枯れ葉が少々
 まるで白髪のように

 ダイコンは、まず大根おろし
 納豆に合う
 シラスとも合う
 ナメコとも合う
 むろん焼き魚には欠かせない

 秋刀魚と大根おろし
 秋の絶品

 ダイコンは沢庵として保存食に
 腐ることがない
 カリカリ
 ポリポリ
 食あたりもない
 当たらない役者は大根役者

 当たりのダイコンはフロフキダイコン。
 おでん
 そう、煮たダイコンは格別
 ブリのアラ煮
 食欲をそそるダイコン
 あくまでもやわらかく、味の染みたダイコン
 ダイコンと豚肉の角煮もいい
 こってりしみた味

 女房のダイコン足
 いや、女房のカブラ足
 アオクビのようにスマートではない
 昔は、ネギのようにスマートだったのに
 今はカブラ

 ああ、かつての子どもを産む機械は
 毎夜テレビの前に像のように太い足を投げ出し
 甘納豆をかじる

 大根おろしの清純さに比べ
 甘納豆のべっとり感
 わたしには許せない

 戻れ、清純なダイコンの時代へ