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ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

朗読劇という方法

2009-11-08 17:12:14 | 戯曲
 昨日は、青二プロの朗読劇を観た。
 内幸町ホール。
 東京に住んでいたころは、よく芝居を観たが、最近は億劫でなかなか出かけられない。横浜の山間部に住んでると、東京に出るだけでもひと旅行。たまたま知人に声をかけられたのと、知り合いが出演しているということで、重い腰を上げた次第。
 浅田次郎の原作、天切りの松 闇語り。
 原作は読んでいなかったが、作者が作者だけに、人情ものであるのは想像がついた。やはり、こてこての人情話。涙腺のゆるい小生は、つい涙ぽろぽろ。
 演じているのが声優だけに、声だけで説得力があった。
 まるでラジオドラマ。けっこう引き込まれていく。やたら大仰な演技をする歌舞伎や最近の芝居とは異なり、とても新鮮。こういう演劇スタイルも、たまにはいいものだ。もちろん、朗読の力がなければならないが。

 帰りは数人で一杯を。
 小生も、昔は劇団に所属したことが。しかし、芝居で飯は食えない。ということで、他の仕事へ。
 昔の仲間で、芝居を続けているのはいない。こういう芝居のあとには、芝居から手を引いたことへの無念さ。その一方で、今だから思えるという事実。
 
 そうだ、今、笑点をやってるんだ。
 円楽さんが亡くなって、まだ見てない。
 ということで、投稿してテレビへ。

想定取調室2

2008-11-26 22:33:04 | 戯曲
謎の日常 小泉容疑者 無職なのに家賃きっちり 冬でも短パンにTシャツ(産経新聞) - goo ニュース

 取り調べ室。
 室内には、小泉容疑者。
 その前に担当の警部補、脇の椅子に警部。
 周りに屈強の刑事3名。

「おい、お前、無職だったよな」
「ああ」
「どうして働かなかったんだ」
「働きたくねえからだよ」
「それで、きっちり家賃を支払ってたよな」
「ああ、当然だよ。俺は小泉だ。小室みたいなバカじゃねえ」
「で、その金はどうしたんだ」
「手に入れた」
「どうして手に入れたって聞いてんだ」
「忘れたなあ」
「どうして忘れたんだ」
「どうして忘れたかも忘れた」
「盗んだのじゃないか」
「俺は、泥棒なんてケチな真似はしねえ」
「じゃあ、どうして手に入れたんだ」
「だから忘れたと言ってるだろう。おまえは馬鹿か」
「なんだと。警察をなめているのか」
「なめちゃ悪いか。おめえは酔っ払いのひき逃げ犯のグルじゃねえか」
「この野郎、人殺しのくせに」
 パンチが一発、容疑者の顎に入る。
「おお、てめえ、警察だと思って下手にでてりゃ、いい気になりやがって。俺が死刑になったら、地獄でお前を待っててやるからな。てめえ、きっと地獄でぶち殺してやる」

 ということで、また取り調べが中断。いっこうに捜査が進んでいないのは、この容疑者の態度にあるようだ。
 まあ、ぶつかってもいないタクシーで、一年間ゆすりを働き、そんなこんなで生計を立てていた無職人。殺人なんて犯さなきゃ、少しは尊敬するのであるが。
 

想定取調室

2008-11-23 15:41:34 | 戯曲
「ペット処分され腹立った」 小泉容疑者、出頭時に語る(朝日新聞) - goo ニュース

「おい」
「なんだ」
「なんだは、ないだろう。はい、だろう」
「ハイな気分じゃねえ。もういい加減にしろ。俺が殺ったと言ってんだから」
「だから、動機は何なんだ」
「犬が殺されたからだと言ってるじゃないか」
「そんな理由で、どうして次官を殺さなきゃいけないんだ」
「犬が殺されたんだぜ。黙ってそうですか、で済むと思っているのか」
「しかし、犬にも問題があったのだろう」
「犬に問題? 犬が悪いことをしたとでも言うのか」
「仮に犬に問題がなくても、次官を殺めるなんて、言語道断だよ」
「ああ、どうせ俺は言語道断のドウダンツツジさ」
「何をくだらないこと言ってる。もう一度聞くが、どうして次官を殺さねばならなかったのだ」
「次官が厚生省の責任者だった。だから、殺されて当然なんだ」
「そんなことは理由にならない」
「じゃあ、どんな理由だと満足するんだ」
「なんだと、殺しの犯人のくせに、でかい面するな。てめえ、死刑になりたいのか」
「ああ、どうせ、生きていてもしょうがないと思っていたし、殺してくれて結構」
「おい、なあ、素直に取り調べに応じろ。悪いようにはしないから」
「悪いようにしない? どういうことだ。俺にわいろでもくれるのか」
「バカ野郎。どこまで増長してるんだ」
 ここで、パンチ一発。
「おお、やりやがったな。てめえ、次官のようにぶっ殺してやる」
 立ち上がろうとするところを、周りの警官が取り押さえる。
「もう、今日は取り調べはやめだ。ブタバコに放り込んでおけ」

 という有様で、取り調べはきっと難航するのだろうな。
 動機の読めない殺人。これは不気味だ。しかし、今の社会にはままあること。犯人ですら、その動機に確証が持てないことも。
 あいまいさの中から生まれる確実な悲劇。それは恐怖だが、逃れることはできない。

後藤を待ちながら7  奴隷の雲雀

2008-07-18 10:25:08 | 戯曲
すかいらーく契約店長の過労死認定、残業月80時間超える(読売新聞) - goo ニュース

 尊敬し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第5弾。
 「ホームレス襲撃事件」編。

 長いベンチがあり、その背後に4個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄、白色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 ホームレスの浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「また新聞を読んでいるのか?」
浦路「ああ、見てのとおり」
「いい話は載っているのか」
「いや、載るわけがない」
「どうしてさ」
「新聞記事って、そんなものさ」
「そうか」

  間

「すかいらーくって、知ってるか?」
「ああ、食ったことは無いが」
「もちろんさ。あんな店に入ったら、たたき出されるのが落ちさ」
「それに比べりゃ、コンビにはいい。ちゃんと消費期限の切れたべんとうを廃棄してくれているからな」
「それに比べりゃ」
「ひどいもんだ。その店の店長が、過労死したって話が新聞に出ている」
「過労死って、働きすぎて死ぬってことか」
「そうらしい」
「うらやましいな」
「何が」
「死ぬほど仕事ができるなんて」
「お前は、仕事をしたいのか」
「まさか。俺は筋金入りのニートだよ」
「そんなことは自慢できない」
「自慢なんかしてない。ただ働くことが好きなやつがうらやましいだけだ。きっとお金もたまっているんだろう」
「いや、年収200万円。残業を月に200時間してだ」
「そんなひどい会社があるのか」
「ああ、すかいらーくはそんな会社らしい」
「恐ろしい会社だなあ」
「今までも、人を殺したことがあるって話だ」
「そんな会社で働かなきゃいいのに」
「でもさあ、仕事が無いより、どんなひどい仕事でもあったほうがいいからな」
「いや、仕事なんて無くったって生きていけるさ。俺たち、生きているじゃないか」
「生きているけど、ただ生きているだけだぜ」
「それ以上に何を望むんだ」
「いい洋服を着るとか、おいしい食べ物を食べるとか、きれいなうちに住むとか」
「でも、いつか死ぬんだぜ。俺なんか、長くないよ、きっと。それなのにあくせくしたって」
「まあ、そうだな」

  間

「一ヶ月に200時間も残業するまじめな男を殺すなんて、ひどい会社だ」
「ああ、ひどい会社だ。あんな店で、絶対に食ってやらない」
「食えないけど。お金が必要だからな」
「無銭飲食という手もある」
「この格好じゃ、店に入っただけでつまみ出されるさ」
「そうだな」

   暗転

後藤を待ちながら6  ホームレス襲撃事件

2008-06-29 09:18:49 | 戯曲
東京・府中のホームレス襲撃 20日未明にも別の被害者(朝日新聞) - goo ニュース

 尊敬し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第5弾。
 「ホームレス襲撃事件」編。

 長いベンチがあり、その背後に4個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄、白色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 ホームレスの浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「今日の新聞には、よい話は載っているのか?」
浦路「載ってない。悪い話ばかりだ」
「ならいい」
「何がいいのだ?」
「聞きたくないってことだ」
「しかし、こんな話もあるぜ」
「そんな話、聞きたくもない」
「まだ言ってないぜ」
「聞かなくともわかるさ。悪い話だろう」
「ああ、悪い話さ」
「だったらいい」
「でも、俺たちの命に関わるんだぜ」
「それがどうしたってんだ。年金問題だって、物価の上昇だって、俺たちの暮らしにはピクリとも響かない。そういうつまらない問題は、関係ないさ」
「そうじゃない、ホームレス襲撃事件が続いていて、殺された男もいるってニュースが載っているんだ」
「ホームレスが襲われた? おれたち、金も何も持ってないぜ」
「ああ、でも命を持っている」
「命? それが目的なのか」
「きっとそうだ。俺たちの命がほしいのだ」
「犯人は、命がほしいのか。じゃあ、その犯人、自分の命は持っていないのか?」
「いや、命がなきゃ、命を奪えない」
「自分の命の上に、他人の命まで奪ってどうするんだ。欲張りなやつだ」
「そんなやつがいるから、気をつけなきゃいけない」
「気をつけるって?」
「俺たちも襲われないようにするってこと」
「はっはっ、なんだお前、命を奪われたくないのか?」
「嫌だよ。お前は平気なのか?」
「俺たちの命なんて、二束三文だぜ。虫けらのようなものさ。ほしいといってくれるやつがいれば、分けてやってもいいさ」
「死んでもいいのか?」
「じゃあ、お前は生きていたいのか?」
「まあ、生きていたい」
「まあ、ていどだろう。どうしても生きていたい、なんて思わないだろう」
「まあ、そうだ」
「そうさ。生きていてもろくなことがない。家もないし、金もない。社会は俺の存在すら忘れている。生きている意味なんてないだろう」
「そう言われると」
「ひとおもいに殺されたいくらいだ」
「しかし、生きていてもいいことはあるぜ」
「どんなこと」
「どんなことといわれても」
「すぐに思いつかないだろう」
「そりゃ、すぐには。でも、きっとあるんだ。だから生きている」
「でも、みんな死ぬさ。死ぬまで生きているにすぎない」
「死なないから生きているのか?」
「ああ、多分そうだ。生きている限りはね」

   間

「で、どうする?」
「何を?」
「襲われたら」
「そのときはそのときさ」
「そうだな。殺されたらしかたない」

   間

「アジサイの葉っぱを食べると、食中毒を起こすらしい」
「でも、死なないのだろう?」
「残念ながら死なない」
「雨は嫌だなあ」
「梅雨は雨がふるものさ」
「だから、梅雨はいやなのさ」

   暗転

後藤を待ちながら5  中国四川大地震

2008-05-18 08:58:38 | 戯曲
   しばらく休んでいたブログ。
   その間も、なぜか毎日大勢のアクセスを頂いていた。
   感謝いたします。

   ということで、久しぶりにアップさせていただきます。



 尊敬し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第5弾。
 「中国四川大地震」編。

 長いベンチがあり、その背後に4個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄、白色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 ホームレスの浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「今日の新聞には、よい話は載っているのか?」
浦路「載ってない」
「悪い話は載っているのか?」
「いや」
「じゃあ、何が載っているんだ?」
「どうでもいい話ばかり」
「どうでもよい話? そんなもの読んでおもしろいのか?」
「おもしろくはないが、つまらなくもない」
「どんな話が載っている?」
「だから、どうでもよい話」
「どうでも良い話は、どんな話だって聞いてるんだ」
「だから、答えているだろう、どうでもよい話だと」
「いや、例えば、八百屋のかみさんが、カボチャに躓いて転んで、大怪我をしたとか、そういう話だ」
「そんな話は新聞に載らないよ」
「じゃあ、どんな話が載るんだ」
「中国で大きな地震が起きた、というような話」
「中国で地震?」
「ああ、中国で地震だ」
「中国でも地震が起きるのか?」
「そりゃ、地震ぐらい起きるさ」
「いいな、地震が起きるなんて」
「地震がいいだって? たくさんの人が死んでるんだぜ」
「たくさん死んだのか」
「ああ、たくさん。五万という人が死んでるらしい」
「しかし、死ななかった人もいるんだろう」
「そりゃ、全員が死ぬってことはないさ」
「だから、よかったじゃないか」
「よくはないあさ。家を無くすんだぜ」
「おれたちだって家はない」
「そうだな。家はない。いったん無くなってみると、気楽なもんだ」
「ああ、気らくだ。家を修理する必要はないし、地震で家が壊れる心配もない」
「いい暮らし、ということになるのか、おれたちは」
「悪い暮らしではない」

 沈黙30秒。

「中国は、今年、オリンピックをやるんじゃなかったっけ」
「知らないよ、おれには関係ないことさ」
「そうだな。あっ、ウグイスが鳴いてたぜ」
「ほんとうだ、ウグイスはいいなあ」
「カラスよりはいい」
「カラスはよくないよ」
「無気味だからね」
「カラスが鳴くと、人が死ぬっていうだろう」
「そうか、じゃあ、地震の時はカラスが大騒ぎになったのかな、中国では」
「中国にカラスがいるのか?」
「カラスぐらいいるだろう。パンダもいるぐらいだから」
「そうだな」

  20秒の沈黙

「腹が減らないかい?」
「減った」
「昨日の魚料理は美味しかったな。今日も、食べてみないか」
「うん、調達に出かけるか」
「でもさ、どうして最近、あんな美味しい料理が捨てられるようになったんだろう。以前はコンビに弁当ばかりだったのに」
「たぶん、使い回しをしなくなったからさ。以前は、食堂や料亭では、前の客の食べ残しを、次の客に使い回していたそうだ。でも、大阪の料亭で、そのことがばれて、他の料亭や食堂でも、発覚したら大変だということで、使い回しをやめたんだね。そのおかげで、おれたちが高級料理を食えるようになった」
「料亭では、客は食べ残しを食ってたわけか」
「そんなものさ」
「そんなものか」
「ああ、そんなもの」
「金持ちも、おれたちも代わらないってことだな」
「金があるかないかだけの違いだもんな」
「たいした違いじゃない」
「でも、昨日食べた魚、名前わかるか」
「知らない」
「おいしかったなあ」
「じゃあ、調達にでかけるか」
「ああ」

  二人は腰をおろしたまま。

後藤を待ちながら4 UFOを見た

2007-12-19 08:52:05 | 戯曲
UFOは存在する=町村官房長官 (時事通信) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第4弾の2回目。
 「UFO」編。

 長いベンチがあり、その背後に4個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄、白色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 ホームレスの浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「今日の新聞には、よい話は載っているのか?」
浦路「載ってない」
「悪い話ばかりなのかい」
「いや、どうでもよい話ばかりさ」
「この前もそうだった。拾った新聞だと良くないのか」
「買っても同じ記事だ、たぶん」
「どうでも良い記事を、どうして書くんだろうね」
「書くことがないからさ」
「そんなどうでも良い記事を、どうして読んでいるんだ?」
「ひまだからだよ」
「そうか、ひまなのか」
「ひまだ。新聞を読む以外に何もすることがない」
「じゃあ、空でも見るか。さっき飛行機雲ができていた」
「そういや、UFOのことが載っている」
「UFO? どんなことだい?」(興味を示す)
「なんだ、おまえ、UFOを見たことがあるとでもいうのか?」
「もちろんだ。しょっちゅう見てる」
「本当かい。俺は一度も見たことがない」
「そりゃ、UFOを信じないからだ。信じると見えてくる」
「そうか。でもさ、新聞には町村とか言うエライ人が、UFOの存在を信じるけど、自分は見たことがないといってる」
「町村? 町と村か」
「そう、町と村」
「町で村なのか。それとも、町なのに村なのか、なんだかわかりにくい名前だな」
「名前って奴はそんなものさ。いい加減なものだ」
「名前はいい加減でも、見たかどうかはいい加減では困る。町なのか村なのかわからない男は、きっと嘘をついている。信じてれば見える。必ず見える。俺は昨日も見た」
「えっ、昨日はずっと俺と一緒だったぜ」
「おまえが公衆便所に言ってるあいだに見たのさ。あっちからあっちへ、きらきら輝いて飛んでいった」
「本当か。俺もみたいなあ」
「みたけりゃ、信じることさ。信じれば、神様だってちゃんと存在してくれる」
「そうか、神様もか」
「そう、神様も仏様も、何でも存在する」
「で、神様は何をしてくれるんだ」
「そっと見守っていてくれる」
「それだけか」
「たぶん。神様に聞いたことがないからわからないが」
「人を助けたりしないのか?」
「しない。神様は冷たいものさ」
「そんな神様を信じているなんて、ばかなやつもいるもんだ」
「中にはかしこいやつもいる」
「かしこいのに、馬鹿なのか」
「いや、バカかかしこいかは、誰にもわからない。そういうものさ」
「そういうものか」

  間

「UFOだって、信じてなきゃ見えないってことか」
「信じてればなんでも見える。来世だって」
「来世も」
「まあな。そういうものさ」
「見たと言うのは、本当は嘘?」
「嘘も本当もたいした差がない」
「まあそうだけど」

  間

「腹が減ったな」
「ああ、減った」
「どうする?」
「どうしよう」

後藤を待ちながら4 堕ちていく

2007-12-09 07:50:57 | 戯曲
借金抱え「金ほしかった」 川口の強盗強姦容疑者(朝日新聞) - goo ニュース

幻のマニフェスト「やります太田!」 発表予定だった(朝日新聞) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第4弾の1回目。
 「堕ちるということ」編。

 いよいよ第4弾に突入。
 とは言え、3弾と大きな差はない。
 吉田権造物語は、じゃっかん思案中。また復活予定。

 長いベンチがあり、その背後に4個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄、白色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 ホームレスの浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「今日の新聞には、よい話は載っているのか?」
浦路「載ってない」
「悪い話ばかりなのかい」
「いや、どうでもよい話ばかりさ」
「銅でもよい? 金の方が良いんだろう?」
「キン? 何がだ」
「オリンピック。来年は北京でオリンピックやるんだろう」
「なんだかつまんないシャレだなあ、おまえらしくない」
「シャレは神戸で しゃれこうべ
 坂がないのに 大阪で
 今日と言う日に 京都行き
 なごやか家族は 名古屋まで
 ヨウコはハマった 横浜に
 東京特許許可局 コケコッコー」
「どうしたんだ、気は確かか?」
「いや、おかしくなっている。世の中には確かな奴なんていない。そうだろう」
「まあな。新聞にもおかしな奴ばかり」
「どんな奴がいるんだ?」
「川口の強盗強姦魔の男、借金で困って人を殺したって書いてある」
「へえ、借金で殺人か」
「消費者金融に120万円。取立てがしょっちゅう来て困っていたようだ。アパートに住む女の人を殺して、キャッシュカードで金を出そうとしてできなかったみたいだ」
「バカな奴だ。おれたちみたいに自由人になれば、借金取りなんて来ないのに」
「おまえ、借金はあるのか?」
「昔はあった」
「どのくらいあったんだ?」
「忘れた。もう思い出したくもない。おまえこそどうなんだ?」
「ごっそりあった。どんなに働いても返せないほど」
「そうなんだ。おれも返したかったけど、仕事がなかったものな」
「貸す方が悪いんだ。返せる見込みもない連中に貸すなんて」
「そうだよ。それで返せなんて、図々しいよな」
「ああ、図々しい。だから、高利貸しなんて姑息な商売をしているんだ」

  間、30秒
  浦路、新聞に目を落とす。

「で、強盗犯は120万円のために人を殺したのか?」
「他にも、国民健康保険の不払いが400万円」
「400万円も未納? すごく高くないか、保険料って」
「ああ、役所は庶民から銭をふんだくるのが仕事だからな」
「泥棒みたいなもんだな」
「そうそう、金に汚い大阪の女性知事が立候補をやめるそうだ」
「金に汚いって?」
「30分ほどの講演で、100万円ももらったり」
「30分で100万円? その女性って、美人なのか?」
「美人だったらどうなんだ?」
「美人だったら、見てても楽しい。不細工だったら見たくもない」
「林真理子さんに似た美人らしい」
「林真理子さんって、美人なのか?」
「そりゃあ、美人さ。日本の文学界のマドンナと呼ばれるほどの美人だってことだ」
「見たことあるのか?」
「見てたらこんなことは言わない」
「じゃあ、ブス?」
「そんなこというと、編集者は大変なことになるんだって。新聞に書いてあった」
「大変なことって?」
「知らないよ。ともかく、林真理子さんのように美しいんだ」
「へえ、それなら100万円でも高くないか。でもさ、川口の強盗の借金は120万円だろう。大阪の知事のお金を少し回してもらえばよかったんだ」
「そういうわけにはいかない。大阪のオバサンはがめついしせこい。びた一文、人助けには使わないよ」
「女の人が殺されていると言うのに」
「そりゃそうさ」
「冷たいなあ」
「知事って奴は、そんなものさ」
「いやな知事だ。少し犯人に金を回してやれば、アパートの女性も殺されずに済んだのに。その知事が、女性を殺したようなものじゃないか」
「飛躍のしすぎだよ」
「そうだよ。人生は飛躍しなければならない。そう昔は思っていたさ。でもなあ」
「でも、どうしたんだ?」
「現実は厳しい」
「現実はさびしいなあ」
「現実は虚しい」
「現実は取り返しがつかない」
「それが現実ってものだ」
「もう、若さも戻らないしな」
「ただ老いていくだけ」

  沈黙、2分

「腹、減らないか?」
「減った」
「期限切れの弁当食うか」
「ああ、いただく」

      また続く

後藤を待ちながら3 徴兵制って?

2007-11-30 18:56:28 | 戯曲
「徴兵制あってしかるべき」 東国原知事が持論展開(朝日新聞) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第3弾の8回目。
 「徴兵制はあってしかるべきか」編。

 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 ホームレスの浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「また新聞を読んでいるのか」
浦路「ああ」
「何か良い記事はあるかね」
「ない」
「なんだ、そっけないな。おもしろい記事があっても俺には教えずに、記事の独り占めか?」
「そんなんじゃないよ。ないんだ、ろくな記事は、まったくない。ほら」
「たくさん書いてあるじゃないか。字でいっぱいだぜ」
「読んでみるか?」
「漢字が書いてあるだろう?」
「もちろんさ」
「漢字なんて読めねえよ」
「おまえ、漢字が読めないのか」
「難しい漢字はな。山とか川という字は読めるけど」
「蹉跌だとか流石だとか膀胱炎なんて漢字は読めないわけだな」
「当たり前だ」
「膵臓も脾臓も大腿骨も読めないのか?」
「ああ、読めない」
「読めない漢字は飛ばして読めばいい」
「それでわかるのか」
「わかったところで、どうってことないさ」
「じゃあ、つまんない記事ばっかりなのか」
「まあ、そうだ」
「そんな記事を読んでも時間の無駄じゃないのか」
「無駄だけど、暇つぶしにはなる」
「暇つぶしになればいいじゃないか。で、どんなつまんない記事があるんだ」
「東国原知事が、徴兵制を唱えている」
「ヒガシコクバリちじ乱れて腸閉塞となった? なんだそれ」
「腸閉塞じゃなくて、徴兵制だよ」
「チョウヘイセイが腸閉塞になったのか?」
「いや、チョウヘイセイはチョウヘイセイで、腸閉塞にはなっていない」
「チョウヘイセイって、超平成ってことだろう。つまり、平成の中でも一番新しい、つまり今のこと?」
「いや、平成とは関係がない。誰もが兵隊になるって制度のこと」
「兵隊って、鉄砲もって人を殺したり殺されたリ」
「まあ、そういうことだ」
「俺は兵隊なんていやだぜ。戦争は嫌いだから」
「どうして嫌いなんだ」
「子供の頃、戦争ごっこをすると、いつも殺される役だった。あれは戦争ごっこだったからいいけど、本当の戦争なら、ほんとに死んでしまうんだぜ」
「そんなことを言ったら非国民と言われるぞ」
「非国民か。まあ、仕方ないな。俺の親父は四国生まれだからシコクミンだけど、東京の下町じゃ、非国民がシコクミンになるわけで、四国生まれは誰もが非国民」
「何を馬鹿なことを言ってる」
「どうせ俺なんか、バカさ。生きていても役に立たない人間のゴミさ。シコクミンの非国民さ。いいたい奴には言わせておくさ」
「徴兵制がしかれれば、非国民は牢屋に入れられるぜ」
「どうして?」
「国に逆らう人間は、犯罪者だからさ」
「どうして犯罪になるの?」
「そんなことは知らないさ。国民は命令どおりに生きる。それが正しい生き方さ。みんな軍隊に入り、戦争の命令が下ったらイヤと言ってはいけないんだ。死ねと言われたら死ぬのが軍の規律なんだ」
「イヤだといえないなんてイヤだなあ」
「それが兵隊というものだ」
「でも日本は軍隊を持たないのじゃなかったっけ」
「いや、軍隊の好きな連中もたくさんいるんだ。昔は日本赤軍と言うのがいたし、最近は、たけし軍団、日光サル軍団なんてのもグングンのしてきている。ヒガシコクバル知事もたけし軍団の出身なんだ」
「軍人が知事になってチジ乱れて腸閉塞になったのか」
「腸閉塞じゃないってば、徴兵制」
「サル軍団が知事になって腸閉塞に?」
「そのまんま東は禿げているが腸閉塞にはなっていない」
「チョウヘイセイは腸閉塞みたいに痛くはないのか」
「痛くない」
「俺なんて兵隊になったら、その軍隊はまず腸閉塞になるぜ」
「おまえの頭が腸閉塞になりかかっているのじゃないか」
「まあ、どうなることやら」
「それにしても、腹が減ったな」
「ああ、またコンビニの消費期限切れの弁当をいただきにあがるか」
「それにしても、最近は消費期限や賞味期限がやたらうるさくなってきたな。弁当は腐りかけが美味しいって言うのに」
「そうさなあ、糸を引きかかったご飯に、ちょっと匂い始めた肉。琵琶湖のフナ寿司を思い出すぜ」
「世の中は堕落したものさ」
「ああ、堕落したもんだなあ」

 というようなことで、おあとがよろしいようで。

後藤を待ちながら 10億円の寄付

2007-11-17 08:50:48 | 戯曲
現金10億円を寄付 神奈川・大磯町の88歳女性(共同通信) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第3弾の7回目。
 10億円寄付編。

 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 ホームレスの浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「また新聞を読んでいるのか」
浦路「ああ」
「何か良い記事はあるかね」
「ひとつある。10億円をぽんと寄付した話はどうだい」
「10億円?」
「一万円札が、10万枚だぜ」
「ポケットに入らないぜ、そんな大金」
「もちろんさ。重さが100キロもあるんだから」
「すごいなあ」
「ああ、すごい、気が遠くなるような金額だ」
「本当だ、頭がくらくらする」
「一年に100万円貯めても、1000年かかるんだ」
「恐ろしい大金だなあ。そんな大金、どうして手に入れたんだろう」
「死んだ亭主が残したらしい」
「悪いことをしたのか?」
「いや、一生懸命働いて、こつこつ貯めたらしい」
「一生懸命働けば貯まるという金額ではないだろう。例えば、毎日こつこつ千円を貯金したとしても、一年に365日だから、36万5千円。何年経ったら10億貯まると思う?」
「ええと、10億割る36万5千だろう」

  と、新聞紙の端っこで計算して。

「わあ、2740年かかる」
「ということは、毎日一万円貯めて、274年!」
「すごいなあ」
「ああ、すごい」

  30秒の沈黙

「でも、どうして寄付なんてしたんだ?」
「使い道に困ったんだろう。毎日1万円を使っても、274年もかかる。88歳じゃ、274年も生きられないからなあ」
「毎日一万円も使いきれないぜ。コンビニの期限切れでない弁当は1個500円として、20個も買える。これは食べきれない」
「ああ、毎日うな重と寿司を食っても、一万円はいかない」
「100キロもの一万円札、冥途まではもっていけないし、よほど困ったんだね」
「処分に困り果てて、寄付したわけか」
「金持ちは大変だなあ」
「ああ、可哀想なものだ。金の処分にこまるなんて」
「金なんて持ちたくないものだ」
「持ちたいと思っても、もてないんだぜ、俺たちは」
「そういうものさ」
「そうさなあ」
「その点、貧乏人は気楽だ」
「金がないから、使い道に困ることがないものな」
「金がなくてよかった」
「俺たちは幸せモノさ」
「なのに、どうしてみんな金のためにあくせくしてるんだろう」
「バカだからさ」
「金持ちはバカなのか?」
「そうさ、バカでなきゃ金持ちにはならない」
「俺たちは賢いのか」
「かしこいさ。使い道に困るような金を持とうと考えないのだから」
「で、どうする?」
「何を?」
「昼飯さ」
「昨日のコンビニ弁当が残ってるさ」
「消費期限を三日も過ぎてるぜ」
「今の時期は簡単には腐らない」
「涼しくなったしね」
「それに、腐りかけもいいもんだ」
「そうだな。酸っぱくなりかけのご飯もいいものだ」

 二人が弁当を開いたところで暗転