ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

バス その恐怖

2011-02-26 17:06:35 | 小説
「みんな死ぬんだ」叫ぶ容疑者…バス横転の恐怖(読売新聞) - goo ニュース

 こんなバスがあってはいけない。絶対に。
 小生は、以前「週刊小説」という週刊誌の懸賞短編小説で、バスをテーマに書いて、掲載してもらったことがある。恐怖のバス。
 この事件で思いだした。その小説は、以前、このブログに載せたことも。で、再度アップの次第。まだ読んだことのない皆さん、ぜひ一読を。

 
   バス

 バス停には、すでに五十人の定員いっぱいの客が並んでいた。若いカップル、学生風のグループ、年配の夫婦、小学生を連れたファミリーなど、顔ぶれは多彩だ。連中は規則正しく列を作り、俺の運転するバスの到着を待っていた。
 俺は、いつものようにバス停の標識の真横にぴったりつけた。五センチと誤差のない見事な停止位置だ。
 レバーを引いてドアを開けた。客たちは乗り込む。こぼれそうな笑顔で無駄話をしながら乗り込んでくる奴がいる。緊張気味の表情で唇を噛み締め乗り込むやつもいる。奥の座席へ進む者、男の手を強く握りしめたままうつむき加減で乗り込む女、相も変わらずいろんな連中が乗ってくるものだ。
 乗客たちの能天気な表情を見ていると、俺は無性に腹が立ってくる。客の全員が、俺という人間を知らない。どんな過去を持ち、どんな気持ちで毎日ハンドルを握っているのか、一切知らないのだ。今朝の俺は、妻と喧嘩をして、気分は最悪であるかもしれないし、中学生の息子が、校内暴力で教師に大怪我をおわせて逮捕され、警察に引き取りに行ったばかりの絶望的な精神状態であるかもしれない。そんな事情など意に介さず、涼しい顔で俺のバスに乗り込んできやがる。
 むろん俺も、客にどんな事情があるかは知らない。その知らない者同士が、短い時間とはいえ空間を共有し、仲良く移動しようなんて虫がよすぎる。
 ともかく、俺の気分は最悪だった。水蒸気爆発を起こす寸前の活火山のような精神状態。にたにたと笑い、腑抜けのような面をして横に女を侍らせた男どもよ、見ておれ、貴様たちの度肝を抜いてやる。無知で傲岸な客どもと断固勝負し、痛めつけ、苦しめ、脳味噌が吹き出すような恐怖を味わわせてやる。
 全員乗り込むのを確認して、ドアを閉めた。もちろんロックも忘れない。窓はすべて嵌め込み式の特殊強化ガラスで出来ており、内部からの開閉は不可能だ。バットで殴られても、拳銃の玉を打ち込まれても割れたりしない。客たちは、完全な密室で阿鼻叫喚の坩堝に身をゆだねることになるのだ。畜生め、見ておれ。
 車内の時計は、出発時刻を表示した。
 ギアをローに入れ、サイドブレーキに手をかけた。
「さあ、乗客の皆さんよー。そろそろ出発するぜ。俺はスピード出すからな。そのつもりで、しっかりシートベルトを締めてなよ」
 車内放送用のピンマイクをオンにして、ひとくさりぶっておいた。アクセルに足をかけ、サイドブレーキを外した。
 バスは、タイヤのスリップ音とともに急発進した。すぐにギアチェンジして、アクセルを踏み込む。加速する。三速、四速、五速と切り替え、発進五秒後には時速百キロに達する。レーサーあがりの俺には、こんな加速はちょろいもんだ。
 俺の背後では、どよめきが起きていた。明らかに客たちは動揺していた。
「さあ、これからだぜ、本番は。どんどんスピードを出すからな。てめえら、小便、ちびるなよーっ」
 どよめきがさらに大きくなる。俺は、客の反応などかまわず、目いっぱいアクセルを踏
みこんだ。
「こわーい!」
「きゃーっ!」
 叫び声があがる。悲鳴もあがる。
「へっ、へっ、へっ。知るもんか。ハンドルを握っているのは俺だぜ。俺のバスに乗ったおめえさんらが悪いんだ。絶対に停めてなんかやらないぜ」
 スピードメーターは百三十キロまで上がった。目の前に交差点が見えてきた。信号は血のように真っ赤だ。
「赤信号がどうしたってんだ。へっ、へっ、へっ、どけどけ、こっちはバスだぜ。でっかいんだ。突っ走れー」
 俺は叫びながら、赤信号の交差点のど真ん中へ突っ込んで行った。両側から一斉にクラクションが響く。バスを避けようとした車のブレーキ音と衝突音が重なる。数台の車が、衝突と追突のクラッシュに巻き込まれ、炎があがる。
「きゃーっ!」
「助けてよーっ!」
「ねえ、もう停めて、お願い」
「いやーっ! 降ろしてーっ」
 そんな声は当然無視だ。俺はマイクに向かって叫んだ。
「うるせえ。停めてほしかったらかかってきやがれ。俺のハンドルを奪ってみろ。運転を止めてみな。その前に、ちょこっとハンドル切り間違えば、全員がお陀仏さ。おめえさんらの命は、この俺が握っているんだ。へっ、へっ、へっ」
 俺は絶対に停めてやらない。見ず知らずの人間を信用して乗ったやつらが愚かなんだ。徹底的に恐怖で打ちのめしてやる。平和な暮らしで弛みきった根性を、叩き延ばしてやる。そして、地獄の奥まで道連れにしてやる。満員の乗客を道連れにすれば、きっと三途の川の渡し船の船頭も大喜びするぜ。
 前方に学校らしい建物が見えてきた。その前の横断歩道を、小学生の一団がのんびりと渡っていた。バスは、横断歩道に向かって突き進んでいく。獲物に突進するチーターのように、スピードを緩めずまっしぐらに。
「さあ、どけどけ。どかなきゃ、轢き殺すぞ。へっ、へっ、へっ」
 次の瞬間、バスは衝撃を感じた。同時に、小学生が数人、人形のように吹っ飛んだ。血しぶきが、バスの窓に振りかかる。
「きゃーっ」
「もう停めてよ、お願い」
 後ろからパトカーのサイレンが聞こえてきた。パトカーは、バスの背後にくっついた。スピーカーからは、警察官の気の抜けた怒鳴り声が聞こえてくる。
「そのバス、すぐに停まりなさい。轢き逃げの現行犯で検挙するぞ。すぐに停めなさい。危険な運転はやめなさい」
「何をほざくか、薄のろパトカーめ。俺に命令しようって奴は、地獄行きだぜ。お客さん
らよ、ようく見ておけ、パトカーのチンケな最期を……」
 俺は、ブレーキを踏み込み急ハンドルを切った。車体は大きくスリップして百八十度回転した。
 パトカーも急ハンドルを切った。だが、制御できずに、横にそれて民家に突っ込んだ。衝撃音が響き、映画の場面のように派手に炎がエンジンルームから噴きあがった。
「どうだい、俺に逆らう奴には、死に神がお迎えに来るのさ、へっ、へっ、へっ……」
 俺は、バスの体勢を立て直し、アクセルを踏み込んだ。ぐんぐん踏み込む。また、時速百三十キロを越えた。
 行く手に鉄柵のバリケードが現れた。その奥には、装甲車が二台、横になって道を塞いでいた。俺のバスを実力で阻止しようという魂胆らしい。警察なんぞに阻止されてたまるか。
 俺はスピードをゆるめず、まっすぐ突き進んだ。装甲車と激突して、全員が地獄に落ちるならそれでいい。阻止されるくらいなら、潔く爆死する方がましだ。
「このバスは、血に飢えているんだ。もっと血だ、血が欲しいんだ。突っ込むぞうーっ」
 俺は絶叫し、アクセルをいっぱいに踏み込んでバリケードに突進していった。
 乗客たちは、顔面蒼白になり、もう声も出ない。
 バスが突進していくと、バリケードが開き、装甲車は左右によけた。警察としても、五十人の客の生命を思うと、激突させるわけにはいかなかったのだろう。
 客たちに一瞬の安堵の表情が戻る。しかし、一瞬にすぎない。
 上空から、ヘリコプターがやってきた。空から止めようという寸法らしい。そうは問屋が下ろさない。こっちには満員の乗客がいる。いわば人質だ。その命が俺の手中にある限り、へたな手出しはできっこない。
「バスの運転手、停めなさい。いったいどう言うつもりだ」
「うるせえハエだぜ。おめえも泣きをみるってことがわからないのか、ばかめが……」
 俺は、猛スピードで高圧線の下を走り抜けた。ヘリコプターは、俺の罠にいとも簡単に
ひっかかり、高圧線に接触した。まるでおもちゃのように弾き飛ばされ墜落した。
 この先は海だ。東岬の断崖に出る。
「もうすぐ海だぜ。どうするかって? へっへっへっ、そうさ、飛び込むんだ。海にまっしぐら。海に真っ逆さま……」
 見えてきた。さあ、ガードレールを突き破って、空へ踏み出すぞ。
 フルアクセル。
 スピードメーターは完全に振り切れ百八十キロ。
「へっ、へっ、へっ、さあ、どうだ。空を飛べるのは飛行機ばかりじゃねえ。バスだって空を飛べるんだぜ。ちくしょう、見ておれ、地獄の底まで飛んでやるー!」
 俺は大声で叫んだ。ガードレールまで百メートル。
 五十メートル。
 十メートル。
 ジャンプだ!
 バスは、ガードレールを突き破って空に浮かんだ。

 束の間の飛行のあと着地した。そのまま、バスの降車場に着いた。停車位置は、いつもの場所から五センチと誤差はない。
 すっかり血の気を失っていた乗客たちは、まるで生き返ったように歓声をあげ、手を叩いた。
「やっほーっ、やったー!」
「さあ、地獄に着いたぜ。今日のところは、おめえらの命を助けてやる。さあ、降りた降りた。次の客が待ってるから急げよ。忘れ物には気をつけろ」
 俺はドアを開け、乗客たちを急かした。
 全員下りると、バスを洗車場に入れ、ふりかぶった塗料の汚れを慌ただしく落として、出発点のバス停へと急いだ。
 園内放送が、聞こえてくる。
「ジェットコースターの百倍のスリルと恐怖、冷血で残虐なドライバーの運転する大爆走バスドラゴン号にお乗りのお客さまは、至急六番ゲートの先、ドラゴンマークのバス停にお集まり下さい。間もなく、出発のお時間です。ただし、心臓に病気をお持ちの方、ならびに妊娠中の……」

                          おわり

春へ

2011-02-20 07:13:09 | 爆裂詩
 遠いサイレン
 どこかで火事が発生し
 燃えて行く心

 ハローワークのパソコンの
 冷え冷えとしたディスプレー
 仕事がなく
 失業保険も切れ
 松屋の牛丼で空腹を満たし
 今月の家賃をどこで借りるか考え
 とぼとぼと歩く失業者

 歩道の脇で咲くパンジーの花びらは
 ひらひらと木枯らしに揺れ
 ホームレスが
 家財道具の入ったビニール袋を手に
 西に向かって歩く

 生きることに精いっぱいの哀しみ
 心はこんなにも冷たいのに
 遠い火事のように燃えて行く

八百長は相撲の文化

2011-02-03 07:23:18 | 朝青龍問題
放駒理事長「ファンにおわび」 八百長メール問題で会見(朝日新聞) - goo ニュース

 八百長が、何か途方もなく悪いことのように報道されているが、その語源となっている八百屋長兵衛の相手も相撲取り。江戸時代から、相撲は見世物で、八百長は当たり前に行われていた。なのに、いつの間にか国技と呼ぶようになって、スポーツだなどと言う連中も現れる始末。これはおかしい。
 相撲は見せものなのだ。神事などで行われる芸能と同じ。だからショーアップされて当然。塩を撒いたり、仕切りをしたり、まさにショー。あんなことをするスポーツはない。髪型も全員が一緒。外国人まで、あの髪型。森本ヒチョリは相撲取りになりたくてもなれない。
 ともかく、アナクロな芸能。
 千代白鵬が八百長をやったと言ってしまったようだが、その親方千代の富士も疑惑がうやむや。千代大海にも疑惑が。が、それはそれ。相撲は八百長があってこそ円満に成り立ってきた業界。国技だなんだと言わず、カミングアウトして、八百長ありの見世物なんだと開き直ればいいのに。
 とりあえず我慢ならないのは、琴欧州やバルトのちょんまげ姿。日本人としては我慢できない。