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ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

絶望犯の哀しみ

2008-06-19 15:54:00 | 爆裂詩
 秋葉原で7人の命を奪った殺人犯
 その壮絶な犯罪に
 共感の書き込みが見られるネット世界

 殺人という最も忌むべき行為に
 一縷の生きる証を見る絶望
 将来を奪われた人生

 むろん起死回生のチャンスは
 この若者にもあった
 が、ジョーカーは待つだけでは回ってこない
 勤勉で実直なだけの多くの人生は
 愚かしい負け組みとして
 ただ落ちていく現実

 生き馬の目を抜き取るしたたかさのないものは
 時の経過にいつか唖然とし
 何も残しえなかった足跡の虚しさに心をふさぐ

 毎年3万人を超える命が自ら絶たれ
 それが当たり前のこととしてまかりとおり
 絶望の若者は最後の殺人に
 アイデンティティを叫ぶ
 そして今
 犯人は人生を捨て去ったことに安堵の気持ちで
 とらわれの身をすごす

 殺人という行為の虚しさと哀しさ
 それを知りながらも
 死刑執行が粛々と行われ
 死を求めた期待にそう矛盾

 秋葉原に鎮魂の百合が匂う

 

狂気は唐突に

2008-03-24 13:07:15 | 爆裂詩
「うなりながら襲ってきた」=両手に刃物-大量の血痕、怒号で騒然・土浦刺傷事件(時事通信) - goo ニュース

 何も変化のない日常の中で
 唐突に全身を包み込む狂気

 信じられないほどの殺意に
 全身を震わせ雄たけびを上げる24歳

 聞こえてくる遠い声
 神の声
 殺せ
 殺せ
 と叫ぶ声に
 耳は現実の音を失い
 疾走する真空が
 手に握り締めたナイフに血を吸わせる

 日曜日の白昼夢

 なぜ聞こえるのか
 なぜおれには聞こえるのか
 なぜおまえには聞こえないのか
 春の真空

 おれの命は真空

 まだ聞こえる
 殺せ
 殺せ

 たぶん
 おれが死ぬまで

   ※大阪池田、東京池袋などの哀しい事件でも
    きっと聞こえたに違いない
    遠い声
 

地下鉄が沈む

2008-01-29 07:10:12 | 爆裂詩
 電車が止まり
 アナウンスが流れる
 また、人を轢いてしまったと

 事務的に
 感情を押し殺し
 客に告げようとする声の空ろさ

 何人轢き殺せばすむのか
 冬の地下鉄

 黙々と肉片を片付ける人々
 そのかたわらで
 金属の塊がきしむ
 涙声で

 電車は嗚咽をこらえているというのに
 無表情な乗客の群れ

 車内には待つ人々
 ただ待つだけ
 誰も祈らない
 誰も念仏を唱えない
 待つだけ

 あらゆる事情を消し去る一瞬
 ハードディスクがスパークし
 すべてが消滅

 それでもドラマは起きていない
 ただ、ひとつの小さな終わり
 
 そして
 肉片は
 青い闇に沈む

新年という憂鬱

2008-01-02 08:06:30 | 爆裂詩
 2008年が始まった
 空が晴れわたり
 空気が澄み
 風が冷たく
 昨日から始まった新しい一年

 山では雪崩で人が生き埋めとなり
 餅を喉につめた老人を救急車が運び
 どこかで人の命が終わっている
 
 始まりだと言うのに終わる人々
 もう終わりたくても続く地獄
 それが人生

 今年もきっと貧しく
 つつましく
 たいした仕事もなく
 生きた証しを後世に残すこともなく
 ひっそりと都市の片隅で生き続け
 やがては終える
 必ず一度は終える
 人生

 新年の太陽は
 明るく都市を照らす
 その下で続く多くの暮らし
 あと何年
 新年を迎えることになるのか

 年賀状がまた一枚来なくなって感じる年齢

死に切れない28歳

2007-12-22 16:46:30 | 爆裂詩
「アキバで死にたい」 グッズ片手に徘徊 兵庫の28歳を保護(産経新聞) - goo ニュース

 死に切れない28歳の孤独
 なんという往生際の悪さ
 今日も中央線やら京葉線で
 人身事故が電車を停めていると言うのに
 線路に身を投じることのできない臆病風

 友だちもなく
 夢も希望もなく
 恋人も仕事もなく
 なにもない
 空っぽな人生をさまよい
 富士の樹海で死に切れない優柔不断
 とぼとぼと
 足取りは重く
 母に叱られ
 なさけない生き様の28歳
 
 アキバの風に吹かれ
 ネオンの輝き
 アニメとやさしいメイドのほほ笑み
 夢想と現実の狭間の彷徨
 4万円のお金を持ちながら
 回転寿司も吉野家の牛丼も
 マックの100円バーガーも食うことなく
 うっとりと飢えに身を任せる
 
 無精ひげの生えた頬はげっそりと痩せこけ
 心も肉体もやつれはて
 死に切れない悲しみを
 どうにもならない愚かな自分を
 唯一受け止めてくれる母への電話で訴え
 保護される心の隙間風

 そして母のふところへ
 温かい母の胸に強く抱かれる28歳のグロテスク

12月が流れていく

2007-12-09 18:34:32 | 爆裂詩

 声を出して笑うことのできない12月
 時間はしゃきしゃきと流れていく

 庭の桃の木は
 どうだと言わんばかりに
 最後の一枚の葉を落とし
 もう冬がまっさかり

 水仙の葉は伸びて
 彼岸花の葉は伸びて
 ツワブキがタンポポのような綿毛を作る

 季節はモワモワとうつろい
 あと少しで一年が終わる
 
 というのに
 なにを成し
 何をはじめ
 何を終えることができ
 時はうつろい流れ
 夢の上を歩むように
 不確かな足跡の
 この人生

 妻はジャガイモを剥く手を休め
 お茶にする
 と聞く
 
 いや、いい
 といいながらも
 お茶を飲みたくなった自分に後悔

 庭に出て
 用もないのに深呼吸
 声を出して笑えぬときの
 外吹く風は
 気温よりも冷たく肌を刺し
 12月が流れて行く

老いていく旅人

2007-11-27 10:13:40 | 爆裂詩
 街外れの地蔵堂の前にたたずむ
 白装束の旅人
 地鳴りのような念仏を唱え
 かれこれ三十年
 街路樹や郵便ポストと同じように
 いやそれ以上
 風景のひとつとなって
 念仏を唱え
 じわじわと老いていく

 旅をやめた旅人は
 濁った目から唾液のような涙を流し
 立ち尽くした肉体が老いていく

 たぶん
 あと一週間で干からび
 枯葉のように舞い散っていくだろう
 それが夢を閉ざされ
 老いていく旅人
 たぶん
 それは私
 心まで干からびていく変化に
 ただ身をゆだね
 枯葉のように遠い世界へ

小春日和の公衆電話

2007-11-25 13:12:56 | 爆裂詩
 街のはずれの歩道橋の下
 小春日和の日差しを受けた電話ボックス
 その窓が
 傾いた光を鏡のように反射し
 赤く色づきはじめたトウカエデを映す

 扉に貼られた街宣のビラがはがれかかり
 ほのかな風に揺れている

 かつて栄光に満ちていた公衆電話も
 いまは訪れる人少なく
 あるいは皆無に近く
 行き交う者は見向きもせずに通過する

 受話器は埃にまみれ
 畳半畳ほどの空間に立てこもる
 じっと立てこもる
 殻を被って

 街からは多くの公衆電話が姿を消し
 遠くと語り合う風景も消えた
 この電話ボックスもいつまで存在し続けるのか

 10円玉を握り締め
 故郷の家族に
 恋人との長電話に
 汗ばんだ手で受話器を握り締めた過去

 電話ボックスは
 痛切な心の詰まった空間だったのに
 いまは空ろな蝉の抜け殻
 埃臭く鉄錆びた匂いの忘れ去られた箱

 小春日和の日差しを浴び
 ねずみ色の公衆電話は
 訪れる人もなく
 電話ボックスの中でひたすら沈黙を続ける
  
 

 

キャベツを刻む

2007-11-23 19:33:25 | 爆裂詩
 妻の手に包丁が光っている
 その手が不器用に動き
 キャベツを刻む
 ぎこちない所作
 それは刻むと言うより
 切る

 キャベツを切断する

 妻はいくら台所に立っても
 料理は上達しなかった
 これまで何度か指を切った

 いまだに包丁を上手に扱えない
 その腕をなじると
 包丁の刃先が光り私に向かう

 以来
 何も言わず
 料理を待つ
 静かに新聞を広げ

 キャベツとコロッケ
 コロッケはスーパーの4個2百円
 安いがそこそこの味
 妻と2個ずつを分けて食べる
 あとは梅干と
 豆腐の味噌汁があれば十分

 夕食のささやかなおかず
 子どもたちが食卓から去り
 二人だけでたべる
 コロッケとキャベツ

 切断したキャベツに
 濃厚なとんかつソースが合う
 お茶を飲み
 パソコンに向かう

 この文字を叩き続け
 今叩き終える

木枯らしのカンタロウ

2007-11-23 09:15:41 | 爆裂詩
 木枯らしのカンタロウが
 11月だと言うのにやってきた
 セイタカアワダチソウを踊らせ
 エノキの小枝を揺らせ
 カンタロウは走り抜けていく

 北国では雪
 南では青い空
 子どもが公園でサッカーボールを蹴り
 ヒヨドリが甲高く鳴き叫ぶ

 公園の向こうの赤い屋根の家では犬が吠え
 郵便配達のバイクが家々を各駅停車

 カンタロウは南の街へ向かう
 ヒューヒューと走りながら

 さらに南
 海が白波を立てている
 ユリカモメが舞い
 スズガモの群れが波に揺れている
 
 カンタロウは走る
 こんなにも晴れているのに弱い日差し
 昨日
 遠い親戚のリュウジさんが亡くなったとの連絡
 顔の記憶もない遠い親戚
 七十二歳だったという
 香典だけ送り
 通夜も葬式も欠席のつもり

 木枯らしが吹くと人が死ぬ
 老いた肉体から命が消えていく
 
 カンタロウはリュウジさんも連れてった

 そして今、電線がヒューヒューと鳴って
 カンタロウは南へ急ぐ