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ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

燃える欅

2007-11-18 03:57:36 | 爆裂詩
 丘の上で燃える欅
 赤茶けた葉がめらめらと

 樹齢300年の巨木
 江戸時代の風景にもなじんだ
 孤高の命は
 四季色を変え
 立ち尽くす

 今年は小型の鷹のツミが
 この木で巣立った
 甲高い声で鳴き
 雛が親に餌をねだっていた
 初夏の風景

 そして秋
 日々色を変え
 様々な鳥たちを迎える

 オナガが叫び
 ムクドリが騒ぐ
 
 やがて吹く木枯らし一番が
 木の葉を散らすのであろうか
 それとも

 秋は深く潜行し
 欅が燃える

ブランコが秋に揺れる

2007-11-16 08:52:35 | 爆裂詩
 鉄錆びた支柱に二つのブランコ
 五才の私は
 つるされた鎖に手をかけ
 腰をおろす

 その脇に咲くツワブキは黄色く
 あくまでも黄色く
 ハシボソガラスのだみ声が
 天に流れる

 私はブランコを漕ぐ
 ゆらリゆらりと
 行ったり来たり

 あれはたぶん
 祖母の葬式のあった日の午後
 ひと気のない公園は
 風も止まっていた

 私はブランコを漕ぐ
 何かの歌をうたい
 目の前にある何かを見つめ
 ただ漕ぐ

 ブランコは揺れ
 振り子のように振られ
 行ったり来たり

 祖母の亡くなった歳に
 近づきつつある私
 ひたひた重ねる年齢は
 揺れるブランコに刻まれた時

 秋は深まっていく
 桜の木は赤や茶や黄色に変色した葉を
 はらはらと落とし
 ブランコが揺れる

 

電柱という孤独

2007-11-13 09:01:17 | 爆裂詩
 立ち尽くす電柱は
 秋の風に吹かれるまま
 電線ではるか遠い世界につながれて
 なおかつ孤独に震えている

 電柱という孤独
 数々の情報やエネルギーが
 柱を
 ただ経由していく

 通過するだけ
 とどまるものはカラス
 そして子犬
 小便を引っ掛けられ
 抵抗するすべもなく立ち尽くす

 電柱はあくまでも孤独
 立ち続ける使命の中で
 茫洋とした不安をひた隠し
 風に吹かれる

 空高く
 ジェット機が糸をひく
 電柱は立ち尽くす
 
 

11月の扁桃腺

2007-11-09 06:14:14 | 爆裂詩
 扁桃腺は11月に腫れ
 熱は39度

 少年時代の思い出

 あの扁桃腺は秋の風の向こうで
 ぶらりと
 あつっぽく
 記憶の底で揺れる

 赤くただれた木々の葉が
 やがて舞い落ち
 冬

 季節は変わり
 日は過ぎ去り
 老いへと歩む足取り重く
 秋の風が吹く

 扁桃腺は
 もう腫れることがない

雨に濡れて

2007-10-27 15:48:45 | 爆裂詩
台風20号、関東地方に27日夜接近 大雨の恐れも(朝日新聞) - goo ニュース

 台風がまた来た
 外は雨
 鳩が濡れ
 情けない顔で公園を歩いている
 とぼとぼと

 飛べない鳩

 風が笑い 
 木々が揺れる
 雨が歌い
 大地が濡れる

 台風は
 秋の不協和音をでっち上げ
 ヒューヒューと
 ヒューヒューと
 木々の上を走り
 電線をふるわせ
 屋根の上を通り過ぎて
 また違う風がこちらの世界へ

 風の底で
 私は発する言葉を失い
 書かねばならない言葉を書けずに
 書かなくても良い言葉を書き続ける

 一行も進まない原稿
 思索の果ての言葉

 キーボードを叩き
 ディスプレーに現れるのは
 魂のない文字ばかり
 それでもパソコンに向かい
 風音を聞きながら
 宮沢賢治を思う

 台風は今夜最も接近すると言う
 

 

アゲハチョウ

2007-10-22 18:46:07 | 爆裂詩
 木の葉が揺れながら、アゲハチョウにささやきました。
 もう秋ですよ。
 アゲハチョウは答えました。
 そうですか。秋ですか。
 そうです。秋です。あなたは死ななければなりません。
 わたしが死ぬのですか。まだこんなに元気なのに。
 秋になったら死にます。それがアゲハチョウです。
 
 木の葉はまたささやきました。
 もうすぐ夜です。
 アゲハチョウは答えました。
 そうですか。夜ですか。
 気にならないのですか。夜は真っ暗になりますよ。
 真っ暗ですか。なにもかも。
 ええ、何もかも。
 でも、夜明けは来るのでしょう。
 夜明けですか。
 そう、夜明け。
 夜明けねえ。
 夜明けですよ。
 来ないかも。
 来ませんか。
 あなたはもう死ぬのですから。
 本当に死ぬのですか。
 ええ、100パーセント死にます。
 そうですか。仕方ありませんね。
 アゲハチョウは悲しそうな表情で
 日没の迫る空に向かって飛んで行きました。



たった一つの神のために

2007-10-20 11:25:30 | 爆裂詩
 命を捨てましょう
 たったひとつの神のために
 喜んで捨てましょう
 神に近づくために

 爆薬を身体に結びつけ
 祈りを捧げ
 彼岸への旅立ち

 慈愛に満ちたイエスキリストのために
 全知全能のアラーのために
 現人神天皇のために
 命を捧げましょう
 このたった一つの命を

 何のためらいもなく
 ためらいがあってもないようにふるまい
 おびただしい命が
 虫けらのように消えていった
 たった一つの神のために

 たぶん今日も
 明日も
 あさっても
 どこかで誰かがテロの回路に身を置く
 神は生贄を求める
 神は血を求め続ける
 あるいは神の名の下に

 パキスタン
 イラク
 アフガニスタン
 血は流れ続ける

 若者は
 神を讃え
 あくまでも喜び勇み
 あるいはそのフリをして
 万歳を唱え
 死に向かう

 東林寺の墓所に眠る
 山岡さんの叔父さん
 二十才で太平洋の藻屑となったと言う
 むろん遺骨はなく
 ひとつかみの髪と手紙が残されただけ

 誰のために
 何のために
 その命を
 
 セイタカアワダチソウの黄色が
 風に揺れる

血は足りないのか

2007-10-19 08:40:57 | 爆裂詩
ブット元首相狙い連続爆発 百人超死亡、パキスタン南部(共同通信) - goo ニュース

パキスタン・ブット元首相、8年ぶり帰国 総選挙参加へ(朝日新聞) - goo ニュース

 イスラムの国で血がまた流れる
 血は足りないのか
 自爆によって殉教者になろうとする人々
 かつての日本でも
 着陸のできない飛行機に乗って
 敵艦に飛び込んで行った歴史が
 
 テロを否定することはやさしい
 しかしやめさせることは難しい
 あの時代
 神風特攻隊を悪と叫ぶことができる人は
 どれほどいただろう
 今も靖国神社に英霊を祀る人々に
 イスラムの自爆テロを否定できるであろうか

 命を賭して正義を守る
 正義を作り出す
 その大いなる幻想に酔いしれ
 人は死んでいく
 その死の多くが
 犬死にであるにも関わらず

 このおびただしい血
 パキスタンで
 アフガニスタンで
 イラクで
 流れ続ける血
 いったいいつになったら
 こころの平安の時代が来るのか
 
 本当にまだ血は足りないのか

眠る空の下で

2007-10-19 06:15:04 | 爆裂詩
 仕事の手を休め
 窓の外へ目を

 垂れ込めた淡い朝の雲
 まだ眠そうな大気
 ほんの少し前まで聞こえたヒグラシは
 死に絶え
 公園の樹上でハシボソガラスが鳴く

 遠く朝凪にたなびく煙
 丘の下の水田で
 藁を燃しているのか

 人々は眠った大気の底で眠っている
 このねっとりした早朝の眠り
 いつになったら起きることができるのか
 青ざめた風景が
 
 木原光知子さんが死んだ
 とネットのニュース
 くも膜下出血
 スポーツになじんだ
 健康なはずの身体も
 微細な血管のいたずらで
 簡単に死んでいく
 まだ60の手前だと言うのに

 私自身
 訃報のある年代に
 ひたひたと近づき
 ただ近づき
 そして突然に

 しだいにあけゆく空を眺め
 あっけなく死ねれば
 などと夢想する朝

 もう一度仕事へ

夕陽がせめぎあう

2007-10-08 17:00:38 | 爆裂詩
 燃える夕陽が窓の外
 オレンジ色
 雲を染める
 ねっとりと幕を張った雲を

 ヒトは死ぬ
 簡単に
 あっけなく死ぬ
 今日もこのカラスの鳴き具合
 きっと200人ほどが
 いや、それ以上
 2000人ほどが
 いや
 2万人ほどが
 死んでいる
 様々な場所で様々な死に方

 いっぽうでヒトは死なない
 なかなか死なない
 足をもがれ
 腕をもがれ
 内臓に穴を開けても生きている
 やがて近づく死を感じながら

 生と死のせめぎあい
 燃える夕陽の中でせめぎ会う命
 
 若者たちは死と向き合う前に死地に旅立ち
 死を感じる前にヒトをあやめる
 哀しい事件が今日も起き
 若い命が消える

 燃える夕陽
 10月8日17時の西の空
 まぶたに焼きつくオレンジ色
 まもなく陽が沈む