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ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

そういえば人参

2009-09-12 15:21:40 | 爆裂詩
 ボルテージの落ちた午後
 キジバトが電線の上からぼくをのぞき見る
 眠そうに

 その視線にたじろぎ
 キーボードを叩く手が止まる
 明日は日曜日

 娘からの電話
 妊娠したという
 結婚もせず
 結婚の予定もなく
 相手にその意思は全くないのに
 子を生むという
 一人ででも生むという

 またもたじろぎ
 干からびた溜息をつく
 のどが渇く
 さっき紅茶を飲んだばかりだというのに

 それは空耳か
 風のささやきか
 娘は22歳
 キジバトは電線で眠っているのか

 そういえば人参が
 青々とした葉を茂らせ
 畑の土に突き刺さっていた
 
 そういえば
 あれは人参だった

 またひとつ溜息


 

朝が走る

2009-08-28 03:27:54 | 爆裂詩
 雷鳴が去り
 夜が更け
 間もなく来る朝

 走る新聞配達のバイク
 虫の声

 また遠くで
 悲劇が繰り返されている
 薬物で身を滅ぼし
 賭博で子どもを失い
 戦争で絶望の淵へ

 希望は遠く
 喜びはさらに遠く
 悲しみだけが増殖する夏の終わり

 朝が走る
 50輌連結の貨物列車のように
 朝が走る
 痩せた野良猫のように

 そして
 秋がそこまで
 もう
 そこまで

 冷蔵庫ではスイカが冷えている
 

都市の限りない孤独

2009-07-08 09:39:00 | 爆裂詩
高見容疑者、マッチくわえ店内に…パチンコ店放火(読売新聞) - goo ニュース

 ガソリンを撒く
 マッチを擦る
 火が燃え上がる
 人が炎に包まれる

 人生は終わる
 もう終わりたかった人生
 道連れは誰でもいい
 ともかく終えたい
 最後の燃焼
 生きた証

 人を殺し
 大きな事件となることで
 社会の記憶に残る

 そういえば大阪で
 餓死した男がいた
 冷蔵庫は空っぽ
 胃袋も空っぽ
 仕事もなく
 体は衰え
 誰からも存在を認めてもらえず
 役所に相談しても冷たくあしらわれ
 孤独の中で餓死した男がいた

 それに比べしたたかな最後
 サラ金の借金も
 もうチャラだ
 
 相談する相手もいない孤独
 絶望
 自暴自棄
 
 もうどうなっても良い
 同じ死刑になるなら
 大勢を殺して
 人の記憶に残りたい

 そんな絶望が引き起こした殺人
 裁判員が簡単に裁くことができるのか
 その犯人の心を

還暦のトウモロコシ

2009-06-29 15:54:34 | 爆裂詩
 とりあえず茹でたトウモロコシを
 むきだした歯でかじる還暦の憂鬱

 規則正しい配列のトウモロコシに
 敬意を表すべきなのに
 歯は無神経にかじりついてゆく

 誕生日に息子から贈られた
 真っ赤なポロシャツに身を包み
 クロスバイクでさっそうと

 現実は干からびた豆腐のように
 えも言われぬ哀しみの中で
 僕は走る

 トウモロコシの皮が歯茎に突き刺さり
 とれぬまま走るサイクリングロード
 ドバトの群れが僕を嗤う

 汗が噴き出す
 6月下旬の草いきれ
 

梅雨空という哀しみ

2009-06-28 17:10:27 | 爆裂詩
 雨が降り続ける午後
 キーボードを叩く指先に
 まとわりつく哀しみ

 遠い救急車のサイレンを
 嘲笑うハシブトガラスのだみ声は
 僕の干からびた延髄の端に
 ガーガーとこだます

 また命の炎が消えたのか
 またひとつ

 君は知るまい
 山本が東急電車に轢断され
 鬼籍に落ちていったことを

 毎日どこかで
 人は命を失っていく
 生きる力が萎え
 収縮するエネルギーの絶望
 それは天から落ちる雨の哀しみ

 梅雨はまだ終わらない
 雨は降り続ける

 君は僕が叩きだす文字を間もなく受け取る
 しかしそれはただの文字

 轢断された山本は
 もう帰らない

雨が揺らぐ

2009-06-06 10:16:24 | 爆裂詩
 オナガがけたたましく鳴く公園の朝
 雨が揺らぐ

 降るのではなく
 落ちるのではなく
 ただ
 揺らぐ

 手の感触がざらざら
 キーボードが寒い
 あのオナガは
 ぼくの心が雨にも似て
 揺らいでいることを知るまい

 行くか行かないか
 待つか待たないか
 食べるか食べないか

 雨は優柔不断なぼくの心の中で
 揺らぐ

 公園の椎の木
 それは少年時代の思い出
 このキーボードを打つ手が
 さらさらしていたころ
 椎の実で笛を作り
 ピーとひと吹き

 少年のとがった口を
 駄菓子やの老婆が笑っていた
 笑顔の入れ歯の
 圧倒的な歯並びのよさ

 椎の実を
 ぼくは宝物のように握りしめ
 雨の降る空を見上げる

 雨は揺らいでいる
 
 
 
 

風に舞う林檎

2008-12-14 16:47:24 | 爆裂詩
 たぶん木枯らしだと君は言う
 あの林檎を運んだのは

 哀しみの心に
 青く染まった林檎
 梢の先ではヤマガラがツツピーと鳴き
 丘の下の線路を貨物列車が走る
 林檎は赤くなれず
 枝先で孤独に震えていた

 風は冷たい
 氷点下43度
 
 語れない言葉を反芻する蝙蝠のように
 空を飛べる夢にふける林檎
 心は青い

 万有引力の法則は嘘だ
 地動説も嘘だ
 林檎はあくまでも林檎であって
 空を笑うことはできない
  
 なんという現実
 林檎は飛んでいった
 そして岸田さんの家の窓ガラスを割って
 部屋の中の熱帯魚の水槽の中に落ちた

 林檎は目を覚ました

燃え尽きた孤独

2008-12-11 06:46:17 | 爆裂詩
 ハシボソガラスのだみ声が
 欅の梢で震えている

 冬の孤独

 仕事は終わり
 手に目を落とした時の哀しさ
 ささくれ立った爪の周囲に
 君は涙した午後

 そう
 君はまた
 ホームレスに一歩近づく
 44歳
 無職
 住所無し
 しいて言えば駅前のベンチ

 毎日身を粉にして働いた末のご褒美の解雇
 君はうつろな足取りで公園へ
 汗と油にまみれたダウンジャケットの中で
 これから来る寒さを
 じっと耐えねばならない

 絶望が青く迫ってくる
 救急車のサイレン
 新聞配達の原付バイク
 電車の警笛

 貧しいものはあくまでも貧しく
 ただ落ちていくだけ
 弱い者を蟻地獄にたたき落とすことで
 生き延びる強い者の命

 44歳は
 もう燃え尽きた

 ハシボソガラスは鳴く
 口の曲がっただみ声で
 アホー アホーと
 

 
 

冬を走る

2008-12-06 05:48:45 | 爆裂詩
 稲妻が走り
 突風が吹きぬける冬
 心が重い

 熟柿が落ち
 銀杏の葉が舞い
 豪雨が襲う午後
 隣町に住む田沢さんが亡くなった
 五十八歳
 がん

 雨戸の向こうに
 冬がある
 北では吹雪が吹き荒れているという
 心はずっしりと重く
 新聞配達のバイクの音が響く
 朝

 チラシ広告を
 サンドウィッチのように挟み込んだ新聞の
 ずっしりと重い情報の中身の軽さ
 コーヒーをいれて
 読む記事の空疎さ
 明け烏はまだ鳴かない
 
 田沢さんのお通夜に出席すべきか
 迷う
 香典は五千円か一万円か
 出費は辛い
 が
 
 人は死ぬ
 今日も
 北では吹雪が続く

 

まだ生きている死者へ

2008-07-15 16:54:44 | 爆裂詩
 生きる力を失い
 自ら命を絶った友を
 うつ病だったから仕方ない
 というのは易しい

 が
 その自殺念慮の背後で
 何もなしえなかった無力感

 空を見上げる目もうつろに
 彼は漏らす
 ぼくはまだ生きている
 と

 それでも
 変わらない信号機の赤

 夏の空はどんより
 重く熱く
 沈む心

 彼は右脳で反芻する
 ぼくはまだ生きている
 と

 ほとんど死体に近いのに
 まだ死んではいない
 と
 心もとない生の感覚

 たぶん
 まもなく梅雨は明ける
 が
 晴れ晴れとした大地を覆うのは
 重く熱く
 沈む心