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ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

流れる樹々

2010-01-26 06:31:30 | 爆裂詩
 谷あいの町を
 樹々が流れる

 少年はサッカーに興じ
 走り転げシュート
 休憩時の粉末ジュースの黄色
 グラウンドにはクローバーとタンポポ

 タンポポの綿毛を飛ばした町
 空を漂う雲
 ハシボソガラスが鳴き叫び
 キジバトがボーボーと叫ぶ
 町の中では
 樹々が流れる

 欅の葉はすでにない1月
 少年は駆ける夢を見て
 大川の堤にたたずむ
 風は冷たい

 過去は薄れ消えていく
 記憶の底で
 水辺の音の記憶
 葦の揺れる風音
 記憶はぼんやりと溶けてゆき
 少年は老人に変容していく

 樹々が流れる
 老人の心の風景
 
 

冬をささやく

2010-01-15 07:53:59 | 爆裂詩
 足取り重く
 駅への道をたどりながら
 枯れた桜並木の下

 春はまだ遠い
 北風が冷たい

 都会にも田んぼがあり
 稲の刈り後に群れる椋鳥は何を漁るのか
 冬の午後

 携帯電話の振動に
 ふと我にかえる
 受話器との会話がむなしい

 会社に行き
 作業をこなし
 帰宅

 疑問の余地のない現実に疑問をはさむ道すがら
 倒産した消費者金融の看板
 信号は赤

 冬は簡単に終わらない
 凍りついた心
 公園の片隅の滑り台に
 風が吹く

 さまよう心
 足取りは重く
 風は冷たい

化石たちの歌声

2010-01-13 08:38:20 | 爆裂詩
 君は地下に眠る化石たちの歌声に
 耳を傾けたことがあるだろうか

 喉の奥から絞り出したしわがれ声で
 こんな歌を

  夢は青い人参
  飛行機雲は
  ナイフの引っかき傷
   ラララ ラララ

  赤い林檎を
  黒くペイントし
  あなたに捧げよう
   ラララ ラララ

 言葉は空虚に心の中で響き
 化石は地下深くに眠る

 耳を傾けてみるがいい
 きっと聞こえてくる
 化石たちの歌声

 孤独を地下深くに封じ込め
 希望を忘れた屍の痕跡
 哀しみが石となり
 地下に眠る化石
 冷たい水に
 頬を浸した生命の断片

 耳を傾けてみるがいい
 きっと聞こえてくる
 化石たちの歌声

冬枯れのサイクリングロード

2010-01-11 10:36:57 | 爆裂詩
 川沿いに続く道で
 モズに出あう
 水辺ではコガモとカルガモの群れ
 ハクセキレイが鳴きながら飛び
 自転車が走る

 モズは百枚の舌を遣い
 スズメの声で鳴き
 コガモは羽繕い

 ぼくは走る
 海まで続く道を
 風は凍り
 マコモ葉枯れ
 ペダルは重い

 自転車はジャイロ効果で
 倒れることなく走り続け
 手袋の中の小指はかじかみ
 鼻は痛い

 冷たい風
 何故走るのか
 あてもないのに

 冷たい心
 止めることのできない回転
 ひたすら走ることへの
 僕自身の決意
 脆弱な心が冷え切り
 空を見上げる

 曇り空は冬
 モズが鳴く
 ハクセキレイが
 またぼくの前をよぎる

 自転車は走る
 しかし過去へは戻れない
 若かった過去へ
 自転車は走る
 未来へ
 老いていく明日へ

 橋の上を晴れ着の女が三人
 今日は成人式

冬の箱

2010-01-08 15:53:51 | 爆裂詩
 私は生きている
 まだ死んではいない
 かなり死にかかってはいるが
 脈は打ち続け
 過去を思う

 栄光の過去
 希望にあふれ
 生気にあふれ
 走り歌い笑い
 学び食べ眠り
 私は明らかに私だった
 今の私と連続の私
 にもかかわらず
 今の私でない私

 そして今
 私は生きている
 まだ死んではいない
 たぶん死にかかってはいるが
 命は赤ん坊だった私と連続し
 生き続けている
 という幻想

 冬
 私は箱の中にいることを夢想し
 銀色のハードディスクに封じ込めた心を探る
 しかしもう見つからない迷路の奥

 私はたぶん死ぬ
 近い将来
 そんな予感がひたひたと迫ってくる
 満潮の夜の潮のように
 ひたひたと
 それが10日後か
 3ヶ月後か10年後か
 
 私の心は箱の中で解凍されることなく
 永遠の眠りにつく
 それが私の冬の箱
 

落ち葉よ 空へ

2010-01-07 05:30:17 | 爆裂詩
 遠い電車音が
 早朝の闇に響く
 明け烏よりも哀しげに

 それは落ち葉だった
 たぶん
 空を舞っていたのは
 なのに
 ぼくには粉雪のように
 白く切なくひらひらと

 間もなく夜明け
 必ず今日も来る夜明け
 明け烏は知っている
 何があろうと
 夜明けが来ることを

 落ち葉は舞う
 木枯らしの闇夜を

 遠い電車の音は
 孤独死した老婆の耳に
 もう届かない

 今日は正月7日
 夜明けがそこまで来ている

 明け烏は騒がしい
 老婆は呼吸をさえ止め
 団地1階の4畳半で横たわる
 
 明け烏は
 また一人死んだことを
 ぼくに教えてくれる

 遠くで電車が走り
 落ち葉が空を舞う
 

 
 
 

モズが叫ぶ

2010-01-05 16:51:50 | 爆裂詩
 真冬の大気を切り裂き
 モズが叫ぶ
 西に見える富士は
 丹沢の向こうにシルエット
 ムクドリが群れ
 風が電線をゆする

 中原中也
 石川啄木
 島崎藤村
 太宰治

 少年時代の記憶が
 葉を落とした欅の向こうに
 ぽつんと浮かぶ

 萩原朔太郎
 高村光太郎
 そうだ
 千恵子抄

 動物園通りを放浪していた紫色の髪の老婆
 いつも笑い
 大きな声で
 子守唄を歌っていた

 ねんねんねんねん ねんねんね
 ねんねんねんねん ねんねんね

 歌声の向こうでモズが叫ぶ
 真冬の大気を切り裂き

 富士のシルエットは
 今
 闇に溶け込もうとしている
 

燃える風と

2010-01-05 08:52:55 | 爆裂詩
 希望という幻想に不似合いな赤銅色の衣装をまとった青年が
 挫折の道に立ち尽くす新宿西口の午後
 風は蒼く燃えていた

 青年は
 歌手になりたかった
 スポットライトを浴び
 満員の観客の前でのコンサート

 あるいは小説家になりたかった
 あるいは詩人に
 
 だが
 現実は夢をむしばみ
 青年は地下通路を吹き抜ける風にさらされ
 ただ立ち尽くすばかり
 行く手に希望なく
 孤独な落ち葉が迷い込む通路の向こうで
 1月5日の歌が聞こえる

 蒼く燃える風は
 やがて僕を巻き込み
 過去の後悔の渦に吸い込まれていく

 あのとき
 あのようにしていれば
 アノトキ
 アノヨウニシテイレバ

 燃える蒼い風に身をさらし
 僕は青年と重なる
 1月5日の風

 山の上では凍死者が
 後悔の気持ちを封じ込めたまま物体と化し
 平和な人生を終える

 燃え盛る蒼い風に
 行き倒れの家なき人々
 それは……

 

木の葉の沈む時

2009-12-02 07:36:46 | 爆裂詩
 今静かに
 木の葉が赤く輝き沈む
 冬が来る

 遠い山稜が雪に白く染まり
 風が吹く

 君自身の挫折が
 悲しみを誘う
 
 アスリートだった君は
 立ち直ることのできないダメージを受け
 うずくまるトラック
 走ることしか知らなかった君が
 足を奪われた時の絶望

 トラックを風が吹く
 赤い木の葉はひらひらと揺れ
 輝き
 舞い落ちる
 トラックの側溝に沈む

 透明な空に引っかかれた飛行機雲
 君はもう走れない
 君はもう走らない
 アスリートだった君は
 絶望を抱きしめながら
 側溝の落ち葉のように沈んでいく

 栄光の過去
 そして
 訪れる冬

秋の蝉が燃える

2009-09-23 10:48:01 | 爆裂詩
 桜の木の枝先で
 蝉が死んだ
 秋

 6本の足が樹皮に食い込み
 乾いた大気の中で
 死体に変容した

 そして燃えていく
 熱く
 マンジュシャゲの色に負けじと
 燃えていく
 秋の蝉

 川の向こうでは風が走り
 夏の鳥たちは南へと向かった
 
 木のてっぺんではモズが叫ぶ
 蝉は死に絶え
 マンジュシャゲが燃える
 蝉の死体とともに

 あれは幻だったのか
 空を舞っていたハヤブサが
 心筋梗塞で落下したのは

 あれは幻だったのか
 ミンミンゼミが
 桜の枝先でちろちろと燃えていたのは

 今
 空は秋色