歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「女車引」 おんなくるまびき

2006年11月11日 | 歌舞伎
「菅原伝授手習鑑」の三つ子の主人公、
梅王丸、松王丸、桜丸、の,
3人のお嫁さん、
春(はる)、千代(ちよ)、八重(やえ)、が出てくる所作(踊りですね)です。

「菅原」の内容をざっと説明します。

平安時代前半期のことです。
時の左大臣であった藤原時平(ふじわらの ときひら)が、右大臣の菅原道真(すがわらの みちざね)に無実の罪を着せて
太宰府に左遷させました。
これは史実で、わりと有名な事件だと思います。

さて、
梅王丸、松王丸 桜丸という三つ子がいます。
3人は、三つ子はめずらしいのでおめでたい、ということから道真さまのはからいで、
それぞれ、道真さま、時平、親王の斎世(ときよ)さまの牛飼い舎人(うしかいとねり)になっています。

牛飼い舎人というのは、牛車(ぎっしゃ)の横にいて牛車を引っ張る牛を追う係です。
専属運転手みたいなかんじです。

というわけで、3人にとって道真さまは恩人なのですが、
この左遷事件です。
いろいろあって、3人も、それぞれ仕える相手が違うので立場も違い、
とくに時平に仕えている松王丸はビミョウな立場なわけで、
それぞれがケンカしたり協力したり、いろいろなドラマがあります。
という長いものがたりです。

「車引」いうのは本編の中の一場で、
敵役の「藤原時平」の牛車(ぎっしゃ)の前で三つ子が争う、短いひと幕です。
歌舞伎らしい派手な「荒事」場面としてたいへん完成度が高い、人気演目です。

タイトルにある「車」というのは牛車のことです。
最後のほうに牛車に乗っている時平を引きずり出そうと牛車に手をかけたら牛車が壊れる場面があり、
そこからこのタイトルがついています。

この「女車引」は、この「車引」のイメージから付けられたタイトルですが、
じっさいはキレイなお姉さんたちが若草を摘みながら踊るもので、牛車は出てきません。

三つ子にはそれぞれ奥さんがいます。
上で説明した梅王たち3兄弟の設定をふまえて、ビミョウな人間関係も多少反映させつつ、
3人が仲良く踊る作品です。

奥さんたちの名前は 梅王の妻が「春」、松王の妻が「千代」、桜丸に「八重」です。
いい組み合わせだと思います。
桜丸の妻の八重ちゃんだけが振袖です。
若奥様で、まだムスメ、という演出が定着しているのです。

まず梅王、桜丸の妻である、春と八重が踊り、
後から松王の妻の千代が出てきます。
先に出た2人、春と八重と、後に出る千代との関係が、夫同士がケンカ中ということでビミョウなところも
ちゃんと踊りで表現されています。

千代が着て出てくる白い布は、牛飼いのユニフォームの白丁(はくちょう)というものです。
千代はもちろん牛飼いではありませんが、「車引」の絵面を連想させるために演出だと思います。

とちゅう、草を摘んだりまな板で切ったりするしぐさがありますが、これは
「菅原」のお芝居の中で、3人が三つ子の父親、つまり3人の義父の、70歳のお祝いのために
若菜を摘んでごちそうをこしらえるシーンがあり、
そこから取られています。

もとは、芸者さんたちがお芝居の趣向をとりいれてお座敷で踊ったものなのですが、
それが歌舞伎に逆輸入されました。
なので、わりと気軽な演目だと思います。
普通の踊りよりも人物設定が具体的で細かいんだな、とかそういうことをちょっと意識していただきながら
色とりどりのキレイな衣装を楽しめばいいと思います。


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