yasminn

ナビゲーターは魂だ

黒田 三郎      ビヤホールで

2011-05-16 | 
  沈黙と 行動の 間を
  
  紋白蝶のように

  かるがると

  美しく

  僕は かつて 翔んだことがない



  黙っておれなくなって

  大声で わめく

  すると 何かが 僕の尻尾を 手荒く引き据える

  黙っていれば

  黙っていれば よかったのだと



  何をしても 無駄だと

  白々しく黙りこむ

  すると 何かが 乱暴に 僕の足を 踏みつける

  黙っているやつがあるか

  一歩でも 二歩でも 前に出ればよかったのだと



  夕方のビヤホールは いっぱいのひとである

  誰もが 口々に 勝手な熱をあげている

  そのなかで ひとり

  ジョッキを傾ける 僕の耳には

  だが 何一つ ことばらしいものは きこえない



  たとえ 僕が 何かを言っても

  たとえ僕が 何かを 言わなくても

  それは ここでは 同じこと

  見知らないひとの間で 心安らかに

  一杯の ビールを 飲む 淋しい ひととき



  僕はただ 無心に ビールを飲み

  都会の 群衆の 頭上を 翔ぶ

  一匹の 紋白蝶を 目に 描く

  彼女の目に うつる

  はるかな 菜の花畑の ひろがりを