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ナビゲーターは魂だ

宇津保物語より

2014-02-12 | 箏のこと
やがて 暑い六月がきた。
左大将邸の池は 広く深く、趣のある舟が数隻浮かんで 浮橋をなし、
池畔には いろいろの木々が茂り、池の中島には りっぱな釣殿があって、
暑い日には 人々が そこで涼みをするのが習慣であった。

左大将は、「今日は 十二日、内裏の休みの日だから、だれも参内しないはずだ。
この釣殿で 納涼会でもしよう。おいしいお菓子をたくさん用意しなさい。」
と、召使いに申しおいて、自らは釣殿に出て、

枝しげみ 露だにもらぬ 木がくれに 人待つ風の早く吹くかな
という歌を扇にしたため、
それを仲澄侍従に持参させて、邸内に住む七人の婿君及び子息たちを納涼に招待した。

公逹方がそろって釣殿に集まると、左大将は 姫君たち 北の方逹にも招待の使いを出した。
女君たちは 車で池畔に出、そこから車のまま舟橋によって釣殿へ渡った。
童や下仕が舟橋を通って釣殿へ着き、釣殿の母屋へ御簾を掛け、御几帳を立てて女君たちの座席を作った。

公逹は池に網を下ろし、あるいは鵜を放って 鯉や鮒を捕ったり、池の菱や水蕗を取ったり、
中島に茂っている木々から楊桃、姫桃などを取ったり、水に落ちた胡桃を拾い上げたりして楽しく遊んだ。

それが済むと、女君たちが琴を取り、公逹方が笛、琵琶、磬などを取って合奏を始めた。

この時左大将が、
「ここに例の風流男(みやびおのこ)がいないのは寂しいな。仲澄は 仲忠、仲頼、行政の三人と兄弟の契りを
結んだそうだが、今日のような集まりには その兄弟を呼ぶものだよ。」と言ったので、
仲澄侍従が 早速使いの者をやると、しばらくして三人がそろって釣殿へやって来た。

仲忠は おりから 鳰鳥がほのかに鳴き渡るのを見て、箏を取り、それに合わせて、

われのみと 思ひしものを 鳰鳥の ひとり浮びて 音をも鳴くかな
と、あるかないかの声で謡った。 すると 貴宮が琴に合わせて、

鳰鳥の つねに浮べる心には 音をだに高く鳴かずもあらなむ
と 美しい声で謡った。。。。

浦城二郎訳

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