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ナビゲーターは魂だ

種田 山頭火 行乞記(ぎょうこつき)より

2014-01-17 | 種田 山頭火
いいお天気である、午前中は 都農町 行乞、
それからぼつぼつ歩いて 二時過ぎ 美々津町 行乞、
或る家で法事の餅をよばれる、もっと行乞しなければ都合が悪いのだが、
嫌になったので、丁度出くわした鮮人の飴売さんに教えられて此宿に泊る、
予期したよりもよかった。


けさは まづ 水の音に眼がさめた、
その水で顔を洗った、流るる水はよいものだ、
何もかも流れる、流れることそのことは何といってもよろしい。

同宿者の一人、老いかけやさんは異色があった、
縞のズボンに黒の上衣時計の鎖をだらりと下げている、
金さえあれば飲むらしい、彼もまた「忘れえぬ人々」の一人たるを失はない。

途上、がくねんとして我にかえる
ーー母を憶ひ弟を憶ひ、更に父を憶ひ祖母を憶ひ
姉を憶ひ、更にまた伯父を憶ひ伯母を憶ひーー
何のための出家ぞ、何のための行脚ぞ、
法衣に対して恥づかしくないか、袈裟に対して恐れ多くはないか、
江湖万人の布施に対して何を酬いるかーー
自己革命のなさざるべからざるを得なかった
(この事実については、もっと、もっと、書き残しておかなければならない)。

村の共同浴場、一銭風呂といふのを宿のおばさんに教へられて、行ってみたが駄目だった、まだ沸いていなかった、
それにしても 丘をのぼり、墓場を抜け、農家の間を抜けて、風呂場へ行くとは面白いではないか。

今日も此宿で、修行遍路ではやってゆけない実例と同宿した、
こんなに不景気で、そしてこんなに米価安では誰だって困る、
私があまり困らないですむのは、袈裟の功徳と、
もし附け加へることを許されるならば、行乞の技巧とのためである。

入浴、そして一杯ひっかける、ーーこれで今日の命の終り!

ひとりきりの湯で思ふこともない

旅のからだで ぽりぽり掻く

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